第876話 魔都!

 俺とシロは夜な夜な、荒れた道の整備をしていた。

 少しでも早く導線を確保して、物流を復旧させたいからだ。

 物流が整流化されれば、あとは自然に元通りへと戻って行くと俺は思っている。


 そんなことをしていると、王都襲撃から数か月が経とうとしていた。

 ルグーレから受け入れた孤児たちも、四葉孤児院の子供たちとも仲良く過ごしている。

 一緒に来てもらった女性たちも、仕事ができるので、かなり助かっているようだった。

 被害の大きかった領地への救援物資もシロたちのおかげで、順序良く対応することが出来た。

 これには、アスランやユキノに、ヤヨイたちが自ら交代しながら民を勇気づけていた。

 もちろん、移動は俺の【転移】だが、事前に領主には「豪華な歓迎等は不要」と伝えている。

 四葉商会だけでなく、グランド通信社の協力もあり、物資などが多くの人たちに行き届いた。

 被害にあった人たちの協力もあったからこそ、順調にいったのだと俺は思っている。

 王族が自ら支援物資を配っていることは、国民たちの噂になる。

 当たり前だが、点数稼ぎなどでない。

 服の汚れなども気にせずに働く姿に、人々は心にも響いていた。


 ムラサキとシキブは、ムラサキの両親コンテツとモエギから、俺に対して失礼な態度を改めるようにと、叱られたらしい。

 悪気が無くても、相手がどう思うかを考えて発言するように、そして親になるのだから子供がされたことを考えれば、自然と相手の立場も分かると、シキブの両親も含めて両方の親から説教を受けたそうだ。

 それを俺のせいだというシキブは、叱られた意味を理解しているのか疑問だった。


 そんな時、ジーク領領主のリロイから連絡を貰う。

 なんでも急用らしいので、俺は急いでリロイの所へと急いだ。


 リロイの屋敷には、国王であるルーカスと、ルンデンブルク領領主のダウザーが訪れていた。

 ……重要な会議でもあるのか? と俺は勘繰る。

 そもそも、リロイの屋敷に転移扉の設置はしていない。

 となれば、ブライダル・リーフにある転移扉でジークまで来てから、この屋敷まで移動をしたのだろう。

 ルーカスの後ろには護衛衆もいるので間違いないが、どのように人目を避けてきたのか気になった。


 リロイは俺に伝えようとしたのだが、俺が早とちりをして【交信】を切ってしまったと教えてくれた。

 それは……「すぐに来て欲しい‼」と切羽詰まった声で言われれば、すぐに駆け付けるだろう。


 呑気に飲み物をすすっているルーカスに、護衛衆と談笑しているダウザー。

 緊迫感が全くないのだが……。

 俺を見ても軽い挨拶をするだけだったので、重要な話でもないのだろう――が、そうであればリロイが連絡をしてくるはずもない。

 念のため、俺の知恵袋でもあるシロとクロを呼び寄せる。

 もちろん、おまけのピンクーもだ。


 俺が座ると、リロイが口を開く。

 内容は『魔都ゴンド』についてだ。

 ……魔都ゴンド?

 聞きなれない言葉に、俺はリロイを見るが目線が合わない。

 仕方がないので、ルーカスとダウザーのほうを向く。


「ゴンド村のことだ。訪れた何人かの冒険者や商人が、そう言っているそうだ」


 ダウザーが教えてくれた。

 実験的な意味合いもあり、身分がはっきりしている冒険者や商人を数人単位でゴンド村に迎え入れたことがある。

 訪れた冒険者や商人は、ゴンド村の様子に驚きを隠せないでいた。

 魔物がいること……それは事前に聞いていたから知っている。

 それよりも――。

 村と聞いていたにも関わらず、村を囲う土壁に、まず驚いた。

 村に入る際に、入り口に立っていた者から説明を受ける。

 普通の人族の町や村いや、人族として当たり前のことだった。

 唯一違うことと言えば、魔族も人族同様に扱うことだ。

 これは、人族と魔族が共存するゴンド村だから、当たり前のことなのだと、説明を受ける者たちは思う。

 そして村に入ると、想像を裏切られる光景が目に入る。

 奇麗な建造物に、笑顔で行き交う村人たち。

 村人の魔族も、訪れた冒険者や人族に笑顔で挨拶をする。

 異様な光景――これが、ゴンド村を訪れた者たちの共通の感想だった。


 慈愛の神エリーヌの像に、祈りを捧げる村人たち。

 決して、強制では無いことは見ていても分かる。

 一体、このように立派な像を、どのように作ったのか……初見の者たちは誰もが思っただろう。


 建造物は勿論だが、ドワーフ族の工房に置いてある素材。

 明らかに希少レアな素材だ。

 こんな辺境の村に、それも無造作に置かれるような素材ではない。


 そして、食事だ。

 いままで、食べたこともない物が多い。

 メニューを見ても分からないからか、店の前に大きなガラスがあり、その中に料理と料理名が分かるようになっていた。

 なにより美味しさに反して、値段が安い。

 これを王都で食べれば、倍いや、三倍はするに違いない。


 冒険者や商人の意見は、大体がこのような感じだったそうだ。

 もう一度、ゴンド村に訪れたいと懇願する者も多いらしい。

 そして、村というには規模が違う。

 町いや、魔族も住む都……『魔都!』誰かがそう言って、ゴンド村は魔都ゴンドと、人々たちに噂されているそうだ。


 エルドラード王国で、『都』と名が付くのは『王都エルドラード』唯一つだ。

 魔都という言葉を警戒する者たちがいることも事実だと、ダウザーは説明する。

 俺からすれば、勝手に言っているだけなのだから問題ないと思うが、ダウザーやルーカスたちは、そう思っていないようだ。


「それで、結論は?」


 俺はルーカスに聞く。


 ルーカスはダウザーとリロイに目線を向けると、二人とも頷く。


「結論というか、案だが――」


 ゴンド村はジーク領から独立して、特別領地という扱いにすること。

 領地としては、ゴンド村と魅惑の森全域だ。

 つまり、魅惑の森を管理しろということなのだろう。

 魔都という言葉も、魔族との共存共栄を目指すということで、周囲を納得させたらしいが……。


「そういうことなら、俺よりも村長のゾリアスに決定権があるだろう?」

「ゾリアス殿にお話したら、タクトの判断に任せると言われました」

「だから、お主を呼んだのじゃ。それにアルシオーネ様も同じように言っておったしの」

「アルが⁈」


 俺はアルの名前が出たことに驚く。


「なにも聞いておらんのか?」

「あぁ……」


 俺が返事をすると、ルーカスが話を始める。

 『ゴンド村』という村の名前。

 これは、元々がドラゴンの集落がある村という意味だったそうだ。

 ドラゴンの村……ドラゴン村……ゴンの村……ゴンド村。

 時代とともに呼び名が変わっていったそうだ。

 俺は初耳だったので驚いた。

 しかし、そう考えると今までの出会いは偶然でなく、必然だったのかも知れないと、少し嬉しく思えた。


 一月後、エルドラード王国から正式に、ゴンド村は『魔都ゴンド』に変わることが発表された。

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