第877話 魔都開放!

 ゴンド村いや、魔都ゴンドは大慌てだった。

 まず、村で無くなるため、ゾリアスが村長から領主へと格上げされる。

 こんなことになるとは予想していなかったゾリアスは、必死で抵抗していた。

 しかし、俺がルーカスに聞かれた際に、領主としてゾリアスの名を上げてしまっているので、何を言っても無駄だ。

 ゾリアス的には、俺に領主を任せるつもりでいたのだろう。

 当然、護衛などの身分も全て変わってくる。

 俺とネロは、雑務大臣として名だけ連ねる。

 アルは自分の種族がいる場所もあるため、補佐として名前が上がる。

 魔王三人が居るというだけで、かなり脅威だろう。

 そしてもう一人、ユキノだ。

 簡単にいえば、この四人がご意見番のような存在なのだ。

 魔都ゴンドとして、正式な場にはゾリアスが出席することになる。

 俺たちは、あくまで裏方なのだ。


 人族に村を開放することについての問題を改めて議論する。

 暴行に窃盗などの人族の犯罪があげられるが、どこまで規制を掛けられるか疑問だ。

 それに魔族と暮らすために独自の規則ルールが必要になる。

 これに関しては、シロとクロ、ピンクーの三人が纏めてくれると言ってくれたので、任せることにした。

 人が集まれば、様々な意見が出る。

 ましてや、魔物には生殺与奪の考えがあることは、この世界では常識だ。

 ここでは、弱者に対して見下すような真似をする者はいないが、人族でも生殺与奪が当たり前だと思っている者がいれば、犯罪に手を染める者がいる違いない。

 ネロが「ゴンドに入る者全員に、魔法を施した道具を手渡すか、体の一部に印を付けて、悪意を以って他人に対して害をなそうとすれば、何かしらの罰則が発動するようにすれば?」と提案してくれた。

 たしかに良い意見だ。

 しかし、それだと奴隷をイメージさせたり、ゴンドのイメージが悪化する恐れが高い。


「御主人様。私が何とかしましょうか?」


 シロが名乗りをあげる。

 結界魔法に細工をして、悪意ある行動を取った場合、体が硬直するように改ざんすれば、問題は解決するそうだ。

 しかし、シロは『悪意』という曖昧な定義が、どこまで作用するかは分からないという。

 たしかに、シロの言うとおりだ。

 遊んでいる者同士であれば当然、悪意はない。

 だが、それを虐められていると感じてしまえば、加害者と被害者の図式が成立してしまう。

 シロの提案は一つの抑止力にはなるかもしれないので、この場にいる者だけの秘密として、【結界】の改ざんを頼むことにした。


 各部門の責任者は、ゾリアスが選別した者たちに個別で頼むことにした。

 と言っても、大きくは変わらないだろうが……。


 店の出店などは、当面禁止とした。

 ドワーフ族の武器などに関しても、工房のみで販売は行わない。

 なぜなら、早い者勝ちになってしまうからだ。


 暫く、様子を見ながら少しずつ、改善すればいいだけのことだ。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ――そして、魔都ゴンドの開放日。

 出入り口には、凄い行列が出来ていた。

 各地でかなり噂になっていたようだ。

 開放する際にはルーカスたちからの言葉もあり、大きく盛り上がる。


 開放してからも、列が途切れることはない。

 明らかに人が多すぎる状況となる。

 だが、大きな問題も起きていなかった。


 予想外だったのは、アルとネロの人気だ。

 部屋の外から顔を見せて手を振るだけで、凄い歓声が上がる。

 そのうち、アル派とネロ派の口論が始まるが、アルとネロが一喝すると騒ぎは収まる。

 アルとネロも、迷惑だと言いながらも、少し嬉しそうな表情を浮かべていた。

 ……こんな状況が何日も続けば、本当に嫌になるだろう。


 一番予想外だったのは、酒だった。

 希少な酒で、幻と言われている『火龍酒』をぼったくり価格で、店飲みで販売したが、あっという間に完売となった。

 多くの商人たちから、独占販売の話を何度も聞かされたと、町を巡回していたシロから聞いた。

 シロもクロも、俺の仲間だと知られているので歩くだけでも騒ぎになっていたそうだ。

 クロは影移動に切り替えて、難を逃れることに成功しただが……。


 この盛況ぶりは最初だけで、いずれは収束するだろう。

 その時に、この町に何度でも訪れてくれる者がいるのであれば、話を聞いてみたいと思った。

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