第875話 セイランとの約束ー2!
セイランの性格なのか、素直な攻撃が続く。
フェイントを入れているようだが、明らかに次の動作への布石だと分かるので、引っかかることなく避けることができる。
と、思っていた――これがセイランの作戦だった!
フェイントだと思っていた拳を途中から、思いっきり叩き込もうとする。
普通の奴であれば、間違いなく当たっていただろう――が、俺はその攻撃も回避する。
「ん~、今のは当たったと思ったのに‼」
「残念だったな」
悔しそうな表情を浮かべるセイランだったが、気分を切り替えたのか、攻撃を変えてきた。
前後左右に素早く動き、俺を翻弄するつもりのようだ。
この早さはシキブのスキル【神速】と同じくらいだ。
セイランもシキブと同じ【神速】のスキルもしなのだろうか?
【神眼】で確認をしようとも思ったが、俺もセイランとの手合わせを楽しもうと思い、余計な情報はいれないことにした。
素早く動くことで土煙が舞い、徐々にセイランの姿がはっきりと見えなくなる。
後方からの蹴りを回避しようと体を移動させると、死角から拳が出てきた。
(なかなかだな)
俺はセイランの攻撃に感心しながら、拳を紙一重で避ける。
(防戦一方だと、つまらないかもな)
俺は一瞬で、セイランの背後に回る。
視線の先から、俺の姿が消えたことに驚くセイランだったが、背後に俺の気配を感じると、振り切ろうとする。
しかし、俺はセイランの背後から離れずに同じように動く。
焦りを隠せないセイランは、背後の俺に対して、無理な体勢から攻撃を仕掛けてきた。
俺が足払いをすると、バランスを崩したセイランが地面に倒れた。
立ち上がるセイランは笑っていた。
「さすが! というべきですね」
……打ち所が悪かったか? 俺は少し考えた。
そして、戦闘狂という言葉が頭に浮かぶ。
そういえば、セイランに対して戦闘狂ではないかと、以前に疑ったことを思い出す。
窮地に追い込まれるほど、歓喜の表情を浮かべる。
「まだ、これからですよ」
そう言いながら、俺に突進をしてきた。
先程と同じように拳で俺を殴ろうとしてきたので、回避するために俺は避けようとすると、握っていた拳を開いて俺の腕を掴む。
「捕まえましたよ‼」
嬉しそうな顔で俺を見るセイラン。
「うりゃぁぁぁーーーー‼」
気合の入った掛け声と同時に、俺を投げようとする。
しかし、俺の体は一歩も動くことがなかった。
何故か、セイランに申し訳ない気持ちだった。
俺を投げられないと思ったセイランは体勢を戻すと同時に、距離を取った。
「せっかく掴んだ腕を、そんな簡単に離していいのか?」
「大丈夫ですよ‼」
セイランは不敵に笑う。
まだ隠している技があるようだ。
「あまり実戦向きでは無いんですけどね」
セイランは構えを大きく変える。
右腕に力を蓄えるように、俺を見つめながら微動だにしなかった。
呼吸を整えてると、俺に向かって拳をぶつける動作をする。
俺とセイランの距離からして到底、拳が届く距離ではない。
……衝撃波か、気功のような類の攻撃なのだろう。
俺は、左手でセイランの攻撃を受け止める。
「嘘‼ これも止められるの」
どうやら、セイランの奥の手だったようだ。
「それなら、もう一度‼」
セイランは先程と同じ体制を取る。
時間を掛けてでも、先程以上の攻撃をしようとしているのだろう。
俺はセイランの攻撃を待っていた。
そしてセイランが拳を突き出した瞬間に、距離を縮めて拳が突き出される前に、手で抑え込んだ。
拳が前に出ないと思った瞬間に、俺が拳を止めていたので、セイランは驚いていた。
「もう一回、やるか?」
俺はセイランに話す。
「もちろんよ‼」
セイランは笑顔で答える。
決して心が折られた表情ではなく、純粋に戦うことを楽しんでいるようにも思えた。
蹴り技などを駆使しながら、俺に攻撃を繰り出すが俺に当てることは出来ないでいた。
セイランの実力は、かなりのものだ。
接近戦を得意とする狼人族のウーノや、そこにいるシキブよりも間違いなく強い。
強くなりたい! という貪欲な姿勢がセイランをここまで強くしたのだろう。
俺という敵わない相手でも諦めることなく、何度も挑む姿勢は見習うべきだと俺は思いながら、セイランの攻撃を避け続けていた。
「悔しいけど、実力の一部も出させることが出来ないようね」
体力の限界が来たのか、両膝に手を当てて、荒い呼吸で俺に話し掛けてきた。
「どうだろうな」
「さすがはランクSSSの冒険者だわ」
呼吸を乱さずに平然とする俺を見て諦めたのか、セイランは地面に大の字で寝転んだ。
俺が反撃するまでもないと、判断したのだろう。
普通、反撃しないと馬鹿にされていると思う奴も多い。
自分の実力不足を相手にぶつけているだけだ。
反撃する必要がないと考えれば、自分との実力差が良く分かるはずだ。
「まだまだね」
セイランは空を見ながら、右手を空に向かって出し呟いた。
「私が強くなったら、もう一度だけ相手をしてくれる?」
「あぁ、いいぞ」
「約束よ!」
「約束だ‼」
セイランが、どこまで強くなるのか分からないが楽しみだと思いながら、寝ているセイランに手を差し出す。
笑いながら俺の手を掴み起き上がったセイランは、大きく「ふぅ~」と息を吐いた。
そして、両手で顔を数回叩く。
「ヨシッ! 」
セイランは気持ちを切り替えたのか、俺に礼を言ってムラサキのほうへと歩いていく。
俺は気付かれないように【結界】を解除する。
話を聞く限り、今から強くなるために出かけてくると伝えたようだった。
ムラサキとシキブは、一日くらいは一緒に過ごそうと話すが、セイランの意志は固く考えを変えることはなかった。
俺のところに戻ってきたセイランに俺は行き先を聞く。
「ネイトスよ‼」
セイランは迷うことなく答えた。
ネイトス……国王ルーカスの姉であるフリーゼが嫁いだ領地の名だ。
そして、フリーゼは戦闘狂だと俺のなかでは認識している。
セイランが何故、フリーゼのいるネイトス領を選んだのかは聞かなかったが、偶然ではないのだろう。
「あそこには、凄腕が集まっていると噂があるので一度、行ってみようと思っていたのよね」
「そうなのか‼ 気を付けてな」
「えぇ、ありがとうね」
セイランは笑顔で去っていった。
こういう時、シキブやムラサキだったら俺に「ネイトス領まで運んでくれ!」と言っていただろうと思いながら、セイランの背中を見ていた。
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