第871話 ルグーレの現状―10!

 衛兵が数人部屋に入ってきた。

 その中には、町で会ったガッデルもいた。

 家臣の説明では、彼らは衛兵隊長の『アーミアン』と各治療施設の責任者で分隊長の『トバイデン』『ブラハード』とガッデルの三人だった。

 既にガッデルの部下がアスランに対して、無礼な振る舞いをしたことは知っていた。

 状況によっては連帯責任を取らされると怯えていた。


 アーミアンから事情を聞く。

 衛兵隊長という立場から、現場の状況を全て把握しているわけではないので、彼にとっては寝耳に水だった。

 続けて、ガッデルたち三人に事情を聞く。

 三人とも大なり小なりの問題があったと報告する。

 シロたちの調査でも、一番酷かったのはガッデルの治療施設だった。

 他の施設は、横暴とまではいかなく、融通が利かないや、少し高圧的な態度だというものが多かった。

 それに証言からも虐待行為をしていたのも、ガッデルの治療施設だけだった。

 ガッデルが他の分隊長よりも若いことなども、影響しているのだろう。

 規律を重んじる衛兵だと思っていたが、地域によって多少は違うのかも知れない。


 そして容疑者三人が部屋に連れて来られた。

 一人はアスランへの侮辱行為が分かっている。

 残りの二人も青ざめた顔だった。

 俺はアスランに許可を取り【真偽制裁】を三人に施した。

 嘘をつけば、自分の身が傷付くとだけ忠告した。


 家臣が質問をしていく。

 質問の内容は怪我人たちが、治療施設で見た内容をシロがまとめたものだ。

 嘘をつくと同時に、体が傷付く。

 自分の言葉で体が傷付く経験をすると、最後は三人とも正直に話した。


 質疑応答を聞いていたハーベルトの表情は怒っていた。

 それは近くにいた家臣や、衛兵たちにも分かるほどだった。

 あれほど温厚なハーベルトが怒っている。

 その姿を家臣たちも見たことがなかったのだろう。


 平謝りする容疑をかけられた三人の衛兵たち。

 しかし、ハーベルトは衛兵の職剥奪と、牢獄への収容を命じた。

 牢獄には犯罪者が多数いる。

 もちろん、数人で一部屋の大部屋だ。

 元衛兵だと知られれば、恨みの対象となる。

 そのことを知っている衛兵たちは必死で抵抗をするが、拘束されているので簡単に取り押さえられる。

 弱者をいたぶる立場から、弱者へとなり下がった瞬間だ。


 ガッデルには管理不足ということで、別途労働が科せられる。

 衛兵隊長アーミアンと、他の二人の分隊長トバイデンとブラハードにも、別の罰が科せられた。

 アーミアンには衛兵たちへの指導を再度、徹底するようにとハーベルトはきつい口調で命令をする。

 今後、同じようなことが絶対に起こすなと、睨みつけるように話すハーベルトの気迫は凄まじかった。



 衛兵たちが退室した後も、ハーベルトは厳しい表情をしていた。

 ハーベルトの中で、許せない出来ことだったのだろう。

 俺たちはハーベルトの気持ちが落ち着くまで、しばらく口を開かなかった。


「申し訳御座いませんでした」


 ハーベルトがアスランに謝罪をする。

 容疑が確定したことにより、領主として再度、謝罪をしたのだろう。


「私は気にしておりませんので、ハーベルト卿も気になさらぬように」


 アスランがハーベルトの気持ちを考えながら話す。


「ありがとうございます」


 ハーベルトもアスランの気遣いを知って、礼の言葉を言った。

 アスランとユキノは、ハーベルトの妻マドリーンと会うことになった。

 ハーベルトたちの家族と過ごす時間なのだろう。

 俺は護衛がてら、遠くから見守ることにした。



 ハーベルト家族と会う場所は別の場所になるため移動をする。

 扉を開けて、マドリーンと再会したアスランとユキノは嬉しそうに話をしていた。

 子供のリリアンとパトリックとも、楽しそうに会話が弾んでいるようだった。

 俺以外に護衛している衛兵は、かなり緊張していた。

 王子と王女に万が一のことがあってはいけないと、必要以上に周囲を警戒していた。


「それで、どのお部屋を用意したのですか?」


 マドリーンはアスランとユキノが、この屋敷に宿泊するものだと思っていた。


「御二方は、この屋敷でなく別の場所にお泊りになられるそうだ」

「別の場所?」


 アスランとユキノは、辻褄を合わせるかのように説明をしていた。

 当然、俺のスキルを隠して説明をするので、無理のある説明だった。


 我が子のように心配をするマドリーンは、危険だというので屋敷に泊まるようにとアスランとユキノを説得していた。

 困惑していたが、最後はマドリーンの熱意に負ける。

 アスランとユキノは、別々の部屋で一夜過ごすこととなる。

 夕食も一緒にとのことで、俺やマリーたちも誘われたが、用事があるのでと断る。

 クロとピンクーは二人の護衛につけると話す。

 ハーベルトは了承する。


 シロは俺と一緒に、整地作業をして貰う。

 夜中の作業となるので、アスランやユキノの護衛を任せることはできないからだ。


 仲の良い友人たちと、アスランとユキノも過ごせるし、ハーベルト家族の気持ちも和らげばと思っている。

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