第872話 ルグーレの現状―11!

 孤児院の件で町に出ていたマリーから連絡を貰う。

 シロやクロとも相談して、新たに雇う従業員を決めたそうだ。

 怪我人だった元孤児院に勤めていた二人だ。

 ヴェローザとユリアンカという名前だった。

 二人には給与面も含めて、納得してもらえたそうだ。

 元々、他の土地からこのルグーレに来ていたので、ジークで働くことに抵抗はなかった。

 なにより、面倒を見てきた子供たちと一緒にいられることが大きかったようだ。


 二人は同じ孤児院で働いていた人が他にもいるので、一緒に雇ってもらうことはできないか? と相談してきた。

 マリーは衛兵からの情報と異なるため、二人に説明を求めた。

 二人は顔を見合わせながら話を始める。

 まだ、見習いで本格採用されていない自分たちよりも若い女性と、子供の面倒を見ながら、家事や裁縫ななどを主にしてくれていた中年女性の二人らしい。

 中年女性は正式な孤児院の職員でなく、時間の空いている時に来てもらう契約のようだ。

 俺の感覚的にパートや、アルバイトに近い。

 誘うにあたり、二人が四葉孤児院で働く意思があることが前提だ。

 彼女たちは当日、孤児院にいなかった。

 この施設にはいないので、もしかしたら別の施設にいる可能性もあると話した。

 最悪、命を落としているとも思っているだろう。


 マリーたちは二人に案内されて、紹介された二人のもとへと行く。


 若い女性は「私でよければ」と、即決してくれた。

 中年女性は「亡くなった夫との思い出の場所を離れるつもりはない」と、丁寧に断られた。 

 マリーは強引に誘うことはしなかったが、他の二人は残念だったのか、もう一度頼んでいた。

 しかし、「一度は無くしたと思った命なので、夫と思い出とともに、もう一度生きてみたい」と、いう言葉を聞く。

 彼女の意志の堅さを知ったので、執拗に誘うことをやめる。


 四葉孤児院で働いてくれるのは、三人になる。

 彼女たちは住み込みになるため、四葉孤児院とで調整をするつもりらしい。

 移動に関しては、準備出来次第ルグーレを出立してもらう。

 子供たちも一緒になるので、長旅は避けたいと、マリーは話す。

 俺の【転移】か、クロに頼むかの二択だろう。

 どちらにしろ、子供たちはもちろんだが、新たな従業員たちを運ぶのに説明や、合意が必要になるだろう。

 

 マリーは先にジークに戻って、彼女たちの受け入れ準備をしたいというので、マリーをジークに送ることにした。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 夜になり、俺とシロはルグーレから続く道の整地を手分けして行う。

 俺の場合は、地精霊ノームのノッチに任せるほうが早いので、ノッチに頼む。

 一時間も掛からなずに整地作業を終える。

 俺はシロと合流をして、少し高い木の上で、ノッチと三人で話をしていた。


 俺は残っている火精霊サラマンダーのホオリンについて質問をする。

 水精霊ウンディーネのミズチと、風精霊シルフのアリエルは、火精霊サラマンダーのホオリンと仲が悪いと、ノッチが言っていたので話題が自然とホオリンになっていた。


 ノッチがいうには、ホオリンの性格は常に激しいので、ミズチやアリエルたちの静かなタイプとは、正反対だそうだ。

 ミズチやアリエルも、性格が悪いわけでは無いことは知っているが、長時間ホオリンと一緒にいると疲れるので、距離を取っているそうだ。

 元々、上級精霊たちは慣れあいの関係でもないので、何百年も会わないこともある。

 世界を通じて、ある程度の知識などは共有できているので、不便なこともないそうだ。


「ホオリンに会いに行くなら、案内するぞ」

「いる場所を知っているのか?」

「もちろん‼」


 ホオリンには会いたい。しかし、今すぐにというわけでは無い。

 いろいろな問題が解決してから、会いに行くつもりだ。

 ノッチは頷くと、ホオリンは『アーマゲ山』にいると教えてくれた。

 俺は聞きなれない山の名前だったので、思い出そうとするが、シロがオーフェン帝国にある海に囲まれている山だそうだ。

 定期的に噴火を繰り返すため、アーマゲ山には飛行生物以外は生息していない。

 アーマゲ山の周囲は水温も高いため、海の生物もこの辺りでしか生息しない生物が多数いる。

 以前に、シロに製作して貰った魔物図鑑にも載っていないそうだ。

 ノッチは俺であれば、簡単に契約できるだろうと笑っていたが、その笑顔が俺には不気味に感じた。

 簡単に契約できる精霊ということは絶対に無い。

 なにかあるはずだと考えていた――。

 ノッチはクロを連れて行くことを勧めた。

 クロとホオリンは、面識があるとのことだった。

 オーフェン帝国の一部の地域では、パーガトリークロウはアーマゲ山より生まれたという言い伝えも残っているそうだ。

 俺はノッチに、ホオリンに会いに行くときは声をかけると言うと、ノッチは笑顔で頷いた。

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