第870話 ルグーレの現状―9!

「そんなこともありましたね」


 ハーベルトは苦笑いをする。


「私はハーベルト卿に約束の大事さを教わりました。そして、忠誠心についてもです」

「私もです。あのことがあったからこそ、今の私があります」


 アスランとユキノは、ハーベルトに感謝の言葉を口にする。


 あとでルーカスから聞いたが、この件以降、アスランとユキノは国民のために何ができるのかと、自主的に学ぼうとすることが多くなったそうだ。

 そして、約束という言葉の重さも知っているので、軽々しい発言をアスランはしなくなった。

 ルーカスも、この件でハーベルトへ謝罪をした。

 それは国王としてでなく、アスランとユキノの父親としてだ。

 なにより、ハーベルトの忠誠心に感服したため、ルーカスのハーベルトへの信頼は、かなり高くなっていた。


 アスランとユキノが、ルグーレに来ることを即決したのも納得できたし、俺が言いださなくても二人から頼まれていたのだろう。


 昔話に花を咲かせるために、再び訪れたわけでも無いので、本題に入る。



 まずアスランから、問題のある衛兵について話し始めた。

 俺がアスランが胸ぐらを掴まれて、暴言を吐かれたことを話すと、ハーベルトと家臣の顔色が一気に悪くなる。

 シロに調査して貰った問題行動を起こしていた衛兵の名前を告げた。

 家臣は、俺から聞いた名前をメモすると、扉の外に行き衛兵に誰かを呼ぶように告げていた。


 すぐに処分の話になる。

 ハーベルトと家臣にとっても、早く終わらせたい問題なのだと、はっきり分かった。


「今、衛兵隊長と、該当している箇所の責任者を招集しましたので、しばらくお待ちいただきたい」


 戻ってきた家臣が俺たちに話す。


「分かりました。では次の問題ですが――」


 俺の横にいるマリーが、「私がここにいてもいいのか?」と聞いてきた。

 たしかにマリーは、ただの商人だ。

 しかし、いろいろとルグーレに援助をしているので、この場にいても問題ないと思っている。

 なにより、マリーもアスランとユキノが連れてきた重要人物だと、ハーベルトや家臣たちは思っているに違いない。


 俺とマリーが話している間に、話題は孤児たちのことに移っていた。

 やはり、孤児院に割く予算がないのが実情のようだ。

 それに人もいないなどと、問題ばかりだ。


 王都の孤児院も人手不足なのは知っているので、どこかに移すというような簡単な問題でもない。


「申し訳ありませんが、少し席を外しても宜しいでしょうか?」


 マリーが結論が出ずに重い空気になっているところで、発言する。


「えぇ、どうぞ」


 俺はクロを護衛に就けて、マリーと行動を共にさせた。

 マリーは一旦、退室した。なにか考えでもあるのだろう。


 マリー不在で話が再開される。

 何人までなら、ルグーレで面倒を見られるのか? 面倒を見てくれる親類などはいないのか? などの可能性を話すが、結論は出ない。

 昔の俺なら、全員を四葉孤児院で引き取ると言っていただろう。

 しかし今は、俺一人で決めるわけにはいかない。

 マリーたちの四葉商会だからだ。


 マリーが再び、部屋に戻ってきた。


「孤児全員を、ジーク領にある四葉孤児院で引き取ります」


 ハーベルトたちを前に報告する。

 マリーなりに四葉孤児院や、人脈を使って調整していたのだろう。


「マリーさん、ありがとうございます!」


 最初に喜んだのはユキノだった。

 マリーの手を握りしめて感謝していた。


「ただ、知らない土地に行くことになるので、子供たちが不安にならないようにサポートいただきますよう御願い致します」

「もちろんだ」


 マリーの言葉にハーベルトは了承する。


 疲れた顔のマリーが俺の隣に戻ってきた。


「大丈夫なのか?」

「正直、大丈夫じゃないわよ。でも、タクトだったら有無を言わさずに引き受けていたでしょう?」

「まぁ……」

「私のなかには、タクトだったら……とまず、考えてから行動しているのよ」

「それ、前にも聞いたな……」


 俺の思想を引き継いでくれるのはありがたいことだ。

 ただ、マリーは自分でも考えているので、俺の思想に依存しているだけではない。


「人の問題か?」

「そうね……今までの倍近いからね。クリーニーさんや、サーシャたちは、やるしかないでしょう! と言ってはくれているんだけどね」

「甘えるのも仕方がないけど、負担が大きくなるのが心配だな」

「えぇ……サーシャたちも人を増やそうとはしているようなんだけど」

「なかなか見つからない……か」

「えぇ」


 四葉孤児院でも、年長の子供たちが手伝ってくれたりしているので、少しは負担が減っていると教えてくれた。

 しかし、抜本的な解決にはなっていない。

 なにか解決策はあるのだろうが――。


「この町の孤児院で働いていた人は、どうなっている?」


 俺はハーベルトに質問をすると、家臣のほうを見ていた。


「詳細な情報は分かりませんが、怪我をしたのが二人だということは分かっています」

「その……ジーク領の孤児院で働いてもいいと思えるかを聞いてもらうことはできますか?」

「はい、それくらいでしたら。今すぐに確認するように、誰かを向かわせます」

「あっ、それであれば私も同行してもよいでしょうか?」

「はい、構いません」


 マリーは俺に、シロとクロの二人を同行させてくれるようにと頼む。

 シロとクロの目からも、四葉孤児院で働けるかを見極めて欲しいということなのだろう。

 一人残されたピンクーは寂しそうだったので、仕方なく同行させることにした。


 屋敷の入口で衛兵と待ち合わせをすることになり、マリーたちは退室した。

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