第869話 ルグーレの現状―8!
アスランとユキノは一度、ハーベルトの屋敷へと戻った。
戻った早々、町での出来事を知ったハーベルトと家臣たちが出迎える。
そして先程とは違う部屋へと案内される。
そこで、領地の危機を救ってくれたことに感謝をされる。
アルベルトとユキノは、お互いに顔を見合わせると同時に笑う。
「ハーベルト卿が、私とユキノにしてくれたことに比べたら、まだ恩返しが足りないくらいです」
「……一体、なんのことでしょうか?」
ハーベルトはアスランが、何を言っているのか分からないようだった。
「昔、私とユキノが勝手に、母の大事にしている指輪を持ち出して、何処かに落としたことがあったのを覚えていますか?」
「はい、覚えております……」
ハーベルトはアスランの言っていた意味を理解した。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
まだ、アスランとユキノが小さかった頃、遊んでいる時にイースの大事にしている指輪を持ち出して遊んでいた。
指輪に付いている宝石で、いろいろな色の光が出るとアスランが知っていたので、ユキノに教えたそうだ。
しかし、遊びに夢中になって他のことをしていると、アスランは指輪がないことに気付く。
必死で探すアスランとユキノだったが、使用人たちに部屋に戻るように言われて、強引に部屋へと戻される。
泣きながら部屋に移動している最中、ルーカスへの謁見を終えたハーベルトと出会う。
自分の子供たちとも、何度か遊んで貰っていることもあり、他の貴族に比べてアスランとユキノも話しやすい大人の一人だった。
ハーベルトは少しだけ人払いをして、アスランとユキノに事情を聞く。
アスランとユキノは、泣きながらハーベルトへ正直に話した。
「アスラン王子にユキノ王女。私が必ず探してきますので、御安心下さい」
「……でも」
「誰にも言いません。これは私と御二方との約束です」
「……本当に?」
「本当ですとも」
怒られると怯えるアスランに向かって、ハーベルトは二人を安心させるように笑顔だった。
それからハーベルトは、すぐにアスランから聞いた遊んでいた場所を一人で必死に探した。
使用人たちから何度も声をかけられるが、探し物をしているとだけ答えた。
ハーベルトは夜中になっても探すのを止めていなかった。
諦めようとしたとき、月明りが反射して綺麗な光が木に映っているのを発見する。
そして光をたどると、そこには指輪が落ちていた。
指輪を見つけて安心するハーベルトだった。
しかし、その場を周囲を見回っていた騎士団に見つかる。
手にはイースが指に付けていた指輪を持っている。
ハーベルトは、騎士たちに取り押さえられる。
貴族とはいえ、王族のものを盗んだ疑いを掛けられたので、牢獄で一晩過ごすこととなる。
ハーベルトは騎士たちに何も話さなかった。
このことも、ハーベルトの印象を悪くしていた。
翌朝、ハーベルトはルーカスとイースから呼び出される。
事情を聞かれるハーベルトだったが、何も答えなかった。
何も答えないということは、自分の罪を認めることだとルーカスは激怒していた。
王族のものを盗んだとなれば、極刑だ。
ハーベルトは最後に、「子供たちに罪はない。どうかご慈悲を!」と頼んだそうだ。
ルーカスもハーベルトの人柄を知っているので、盗みなどをするようには思っていないが、弁解もしないためハーベルトの極刑が決定する。
謁見の間の外で、なにやら大きな声がする。
見張りの衛兵が扉越しに確認すると、大声を出しているのはアスランとユキノだった。
何事かと驚くルーカスとイースは、扉を開くように衛兵に命令をする。
扉が開く、泣き顔のアスランとユキノが叫びながら走ってきた。
取り押さえられた状態のハーベルトを見ると、彼の前に二人は立った。
「ハーベルト卿は悪くありません。お母様の指輪を勝手に持ち出したのは私です‼」
アスランは泣きながら、ルーカスとイースに訴えかける。
「ハーベルトおじ様は、私たちの代わりに指輪を探してくれたのです!」
ユキノも大粒の涙をこぼしながら、事情を説明する。
子供たちの迫力に押されるルーカスとイース。
「それなら、なぜハーベルト卿は何も言わぬのだ?」
ルーカスの問いに、アスランとユキノはハーベルトを見る。
ハーベルトも二人を見た。
「王子と王女に、誰にも話さないと約束をしたからです!」
ハーベルトは、はっきりとした口調で答えた。
「約束だと……お主の命がかかっていたのだぞ⁈」
「はい。それでも、王子と王女との約束を破るわけにはいきません」
ハーベルトは、まっすぐな目でルーカスを見る。
ルーカスは頭を抱えた。
自分の子供たちの悪戯のせいで、無実で忠実な領主を一人失いかけたからだ。
「ハーベルト卿の拘束を解け」
ルーカスは衛兵に命令する。
拘束を解かれたハーベルトにアスランとユキノは抱き着き、泣きながらひたすら謝罪をする。
「御二方とも、泣きすぎです。約束したからには守るのが当然です」
「でも……」
「王子。あなたは、いずれこの国を背負って立つ人なのです。私のような身分の者に対して、そんなに取り乱してはいけませんよ」
ハーベルトは優しく、アスランに話した。
「ハーベルト卿に困ったことがあったら、絶対に助ける。これは約束です」
涙を拭いながらも、アスランはハーベルトに言った。
「私もハーベルトおじ様が困ったら、絶対に駆け付けます。約束します」
ユキノもアスランと同じことを言う。
「そんな簡単に約束していいのですか?」
「約束は守るものだと教えてくれたのは、ハーベルト卿です」
アスランは鼻声だったが、自分の決意を表す。
「……分かりました。御二方とも約束ですよ」
ハーベルトは笑顔で答えた。
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