第850話 貪欲な姿勢!

 シキブとムラサキに、セイランの三人には、ここで少しだけ待ってもらうように頼む。

 理由は、ルグーレ領主と親交のあるユキノたちにも声を掛けようと思ったからだ。

 俺はユキノと連絡を取り、ルグーレに行くことを伝えると、「是非とも御一緒させてください」と言葉が返ってきた。

 アスランやヤヨイにも、声を掛けてもらうようにユキノに頼み、俺も城へと向かうからと伝えた。


「タクト。私たちはルグーレの領主様とは、会わないってことでいいわよね?」

「あぁ、もちろんだ。先にシキブとムラサキを、シキブの里に送るつもりだ。悪いが、セイランは俺と行動を共にしてくれるか?」

「もちろんよ!」


 セイランは笑顔で了承してくれた。


「そう……じゃあ、着替えるから一度戻らないとね」

「そうだな」


 そう言うと、シキブとムラサキの二人が俺を見つめる。

 

「どうして、二人ともタクトを見ているの? シキブさんを送るなら、兄貴がいるじゃない?」


 何も知らないセイランは、普通に思ったことを口にした。


「ちょっと、タクトにも用事があってね」

「あぁ、そういうことなのね。じゃあ、私は待っているわね」


 セイランは俺が【転移】でシキブとムラサキを別の別の場所に送ることに気付いていた。

 しかも、その場所は極秘の場所だと知っていたので、それ以上なにも言わなかった。

セイランを部屋に残して、俺は【転移】で、シキブとムラサキをゴンド村に送り届けた。



「待たせたな」

「あれ? 早かったのね」


 寝転がって休憩をしていたセイランは、少し驚いた表情をした。


「まぁ、たいした用事でもないしな」

「そうなんだ……しかし、暇だわ」

「……そういえば、セイランはトグルに結婚を申し込んだって、本当か

?」

「えぇ、そうよ。強い鬼人族と夫婦になることで、より強い鬼人族の子孫が残せるからね」

「なるほどな……それは、トグルがセイランに気がなくても構わないのか?」

「まさか! それなら、相手が結婚していようが関係ないってことと同じでしょう?」

「もしもだが、トグルに好きな女性がいたらどうする?」

「それは考えたことが、なかったわ――まぁ、自分に少しでも勝ち目があるのなら、アプローチするけど、全く勝ち目がない相手なら諦めるわね」


 俺の予想だと、セイランは相手を倒してでも勝利を取りに行くタイプだと思っていたが違うようだ。


「ってことは、トグルには思っている女性がいるってことなの?」

「あぁ、俺的には両思いだと思っている」

「そうなんだ。仕方ないね、諦めるしかないかな」

「セイランなら、いくらでも選びたい放題じゃないのか?」

「ん~、なんていうか……中身がない? 芯が通っていない人が多いのよね」

「セイランの理想は誰なんだ?」

「そうね……兄貴かな?」

「ムラサキ?」

「そうよ。兄妹ということは別にして、兄貴の強さは本物だし、決して折れない心は尊敬するわ。それにシキブさんという美人な奥さんまで、手に入れているんだしね」

「たしかに――」


 セイランに言われて気付いたが、ムラサキは強い。

 それは、力だけのものではない。

 俺が初めてジークに来て、冒険者の昇級試験で、周りの冒険者たちから反感が出ないようにと、自ら実技試験官を志願してくれた。

 俺がランクBの冒険者になったことで、トグルが荒れそうになっていたことも気に掛けていたくらいだ。

 さりげない優しさもあり、仲間のことを大事に思えるムラサキは、確かにセイランの言うような男だ‼


「まぁ、気長に探すしかないわね」

「そのうち、いい人が現れるだろう」

「それなら、いいんだけどね」


 俺とセイランは、笑顔で話を続ける。


「因みに本気で戦った場合、セイランとトグルで、どっちが強い?」


 俺の質問に、セイランの目つきが変わった。


「多分、トグルじゃない。あの魔剣相手に、無手の私では分が悪いわ」

「相性の問題か?」

「そうよ。でも……それは、ただの言い訳ね」


 セイランは、自分のほうがトグルよりも弱いと話した。

 しかも、相性のせいだから仕方がないという訳でなく、どんな状況でも強くなる必要があると感じているようだった。


「俺はセイランと、同じくらい強い女の冒険者を知っているぞ」

「誰⁉」


 俺は不意に口にした言葉を、すぐに後悔した。


「ローレーンという奴だ。ランクSSの冒険者レグナムの弟子だ」

「……聞いたことのない名前ね。でも、レグナムの弟子なら、間違いなく強いわね。それで、どこにいるの?」

「知らん。世界を旅しているから、何処にいるか分からん」

「そうなんだ。手合わせしたかったな」

「まぁ、会うことがあれば俺の知り合いだといえば、戦ってくれるかもな」

「本当に!」

「多分だけど……」


 本当に戦うこといや、強くなるためなら、なんでもするという貪欲な姿勢に、俺は脱帽する。

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