第851話 修羅場?!

 ユキノからアスランと二人でルグーレに訪れると連絡をもらう。

 用意に時間が掛かるとのことなので、用意が終わり次第、連絡をもらうことにする。

 俺はシロとクロ、ピングーの三人にゴンド村での余っている食料や、各都市での買い付けを指示した。

 未だ復興中であろうルグーレや、トゥラァヂャ村への物資が不足しているのは、分かり切っているので、被害にあった村などへの救援物資として、送るつもりだ。

 一応、マリーにも四葉商会の名を出すと伝えると、マリーもいろいろと動いていたらしい。

 問題になっていたのは、送り届けること難しいということだった。

 距離もあり、道も荒れている。

 とても時間を要するため、食料などは腐ってしまう。

 俺に頼ろうかとも思ったらしいが、出来るところまでは頑張ってみるつもりだったようだ。

 困っている人を見捨てない四葉商会の信念を確実にマリーは引き継いでくれた。

 俺には、感慨深いものがあった。

 物資は全て、俺が贈った収納鞄に入れているそうだ。

 マリーも同行したいというので、シキブやムラサキの件も含めて話をすると、了承してくれた。



 俺とセイランは、ギルド会館の一階へと向かう。

 下には多くの冒険者たちがいた。

 俺たちは受付に行き、受付長のユカリを呼んでもらうように受付嬢に頼む。

 数分後、ユカリが姿を現した。

 セイランは、せっかく用意してもらった試験場を使わないことを伝えて、今日でこの街を去ると話す。

 ユカリも、セイランが長くこのジークに滞在するとは思っていなかったので、業務的に挨拶をしていた。

 ユカリは、俺との記憶を忘れていたことをまだ、気にしていた。

 そのことに気付いていたが、俺は敢えてなにも言わないでいた。

 気持ちの整理をつけるのは、自分しかできないと思っているからだ。

 俺のことで、心を痛めている人たちを見ると、とても心苦しかった……。


 セイランの姿を見て隠れる奴を発見した。

 そう、トグルだ。

 俺は、こっそりとギルド会館から逃げ出そうとするトグルを呼び止める。

 俺の声に他の冒険者も反応して、最初は俺のほうをみていたが、すぐに逃げようとするトグルに顔の向きを変えた。

 振り返ったトグルは、バツの悪そうな表情をしていた――。


 俺とセイランは、トグルの所まで歩いていく。

 少し引きつった表情のトグル。


「よ、よう。俺に、なにか用か?」

「用があったから声を掛けたんだよ」


 実際は特に用事はない。


「そんなことより、返事を聞かせて貰えるかしら?」


 セイランがトグルにプロポーズの返事を迫る。


「いっ、いや……そのだな」


 慌てるトグルをセイランは、ずっと見つめていた。

 セイランに見つめられたままのトグルは、言葉を必死で探しているようだったが、上手く話せない状態だった。


「まぁ、いいわ。返事が無いってことは、了承したと考えていいのね?」


 嬉しそうに笑うセイラン。

 俺にはセイランが何を考えているか分からなかった。

 先程、トグルには好きな女性がいると伝えた時、諦めるような発言を聞いたばかりだったからだ。


「いや、それはだな――」


 セイランに迫られたトグルは、完全に委縮してしまっていた。

 周りの冒険者たちも興味があるのか、好奇の目でトグルとセイランを見ていた。

 もちろん、トグルとリベラの仲は知っている。

 だからこそ、この二人の関係が、どうなるか気になっているのだろう。


 セイランはトグルの手を取って、強引にギルド会館の外へと連れ出した。

 純粋な力であれば、トグルよりセイランの方が上なのだろう。

 俺も二人の後を追うようにして、ギルド会館から出る。



 二人の後ろ姿を見ながら歩く。

 一見、トグルの腕を掴みながら歩くセイランだが、リードしているのは間違いなくセイランだった。

 まぁ、周りから見ればデート風景に見えるだろう。

 セイランはトグルに、ジークの案内をさせているのか、いろいろと質問をしていた。

 しかし、質問をされたトグルは緊張しているのか、なにも答えていないようだった。


「んっ、あれは……!」


 後ろから二人を見ていた俺は、向こうから歩いて来る人物に気付く。

 そう、フランと……リベラだ‼

 トグルは二人の存在に気が付いていない。

 もしかしたら、修羅場になるのか? と思いながらも、俺が手を貸すわけにはいかないので、冷や冷やした気持ちで見ていた。

 数メートル先で、フランとリベラが先に気が付く。

 視線を下に落として、そのまま通り過ぎようとするリベラだったが、その様子に我慢できなかったフラン。


「あら、トグルさん。今日はデートですか?」


 フランの挨拶は、怒りにも似た感情がこもっていたに違いない。

 トグルは、フランの挨拶でリベラの存在に気付き、気まずそうな表情になる。


「あっ、これは――」

「フランさん、行きましょう」


 トグルの言葉を最後まで聞かず、リベラは足早に、この場から去ろうとする。


「あっ!」


 引き止めようとも、後を追おうともしないトグル。

 フランはトグルを睨みつけると、リベラの後を追った。


 走るリベラは俺に気付く様子も無かった。

 フランは俺に気付いたので、「頼むぞ!」と一言だけフランに話すが、フランからは何も返事がなかった。

 俺がトグルとセイランの関係を黙認していたことに腹を立てたのだろう。


 俺は視線をトグルとセイランに戻す。

 呆然とした表情で、リベラの姿を見ていたトグル。

 その横でセイランは、大きく息を吐いていた。

 セイランは、トグルと組んでいた腕を外す。


「情けないわね! 早く、彼女を追いなさい」


 トグルは頷くと、リベラを追った。

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