第849話 親子事情!

 一通り、俺の話を聞き終えたセイランは満足したようだった。


「親父たちは元気なのか?」

「元気なんじゃない? 私だって何年も会っていないわ」

「でも、お前は親父たちの代わりに来たんだろう?」

「そうよ。父さんや母さんは、忙しいっていうから――。私だって、暇じゃないんだけどね」

「……親父たちは、何をしているんだ?」

「ん~、分かんないわ。家も売り払ったそうだし、どこかで楽しく暮らしているんじゃないの?」

「……相変わらずだな」

「まぁ、私が連絡したら、そのうちジークに顔を出すんじゃない?」

「そうだといいが……」


 ムラサキは大きくため息をつく。


「お義父さんもお義母さんとも、久しぶりに会いたいわね」


 シキブは対照的に笑顔だった。

 この世界でも、それぞれの親子事情があるので、詳しく聞くことはしない。


「シキブさんの御両親は、どうなんですか?」

「私のところは、東部にある鬼人族の里で、のんびり暮らしているわよ」

「会いに行かないのか?」

「ん~、この子が生まれて落ち着いたらね。簡単に行ける場所でもないから――」


 シキブは話の途中で何かに気付いたのか、俺の顔を見た。


「そうよね。なんで、私は気付かなかったのかしら――。タクトがいるじゃない‼」


 名案でも思い付いたかのように、目を輝かせるシキブ……。


「そうだよな。タクトなら……って、それなら親父たちのところにでも行けるだろうしな‼」


 ムラサキも名案だとシキブを褒める。

 セイランだけが、何を言っているのか分かっていない。


「……お願いできる?」


 すがるような目で見るシキブ。

 ここで断れば、俺は悪者だろう。


「兄貴もシキブさんも、何を言っているの?」


 話についていけないセイランが、たまらず話に入ってきた。


「あぁ、あのね……」


 シキブは、俺の方をチラッと見る。

 俺のスキル【転移】について、口外しないという約束を思い出したのであろう。

 まぁ、俺が魔王だと知れ渡っているし、今さら隠したところで――と、思う。


「俺のスキル【転移】を使えば、一瞬で移動が可能だということだ!」

「えっ、一瞬で?」

「あぁ、一瞬でだ」


 セイランは、シキブとムラサキに顔を向けると、二人とも静かに頷いた。


「……本当に?」

「本当だ!」


 疑うセイラン。


「時間も勿体ないし、今から私の里に行きましょうよ。タクトにも、私の里を紹介してあげるわ」

「それなら、親父たちのいる場所を聞いて、一緒に行ったほうが良くないか?」

「そうね。私の両親も、ムラサキの両親に会いたがっていたしね」

「それは親父たちも同じだ!」


 シキブとムラサキは、二人で勝手に盛り上がっていた……。


「ちょっと、待って‼」

「どうした、セイラン?」

「父さんたちと会う前に、私とタクトの戦いを忘れないでよね」

「あぁ、そうだったな……」


 勝手に話を進める二人に、セイランが自分との約束を反故にされるのではないかと、心配しているようだった。


「とりあえず、お前から親父たちに連絡をしてくれるか?」

「なんでよ! 兄貴がすればいいじゃない」

「一応、お前が俺たちの様子を見に来たということになっているんだから、お前が報告するべきだろう?」


 不満そうなセイランだったが、シキブから頼まれると、手のひらを返したかのように上機嫌で、両親に連絡をしていた。

 ムラサキの両親のいる場所が分かった。

 村の名前を聞いた俺は、以前に訪れたことのある村だと気付く。

 つまり、【転移】での移動可能だ。

 ムラサキの両親がいる村の名は、『トゥラァヂャ村』。

 聞いた話では魔物暴走スタンピードで早い段階で犠牲になった村だ。

 早い段階だったので、魔物の数も少なかったのか、村は全壊していないと聞いた覚えがある。

 トゥラァヂャ村は『ルグーレ』の領地になる。

 近くの領主が暮らす街『ルグーレ』も同様に被害が大きかったはずだ。

 領主は国王でルーカスとも、個人的に仲が良く、アスランやユキノに、ヤヨイたちにとっても、良い関係だと聞いたこと。

 そして、その子供たちとは友人だとも聞いていた。

 安否確認の連絡をした際に、他の者から大変だと報告を受けたそうだ。


 俺自身、ガルプとの戦い後、被害のあった町や村に行ったりしていない。

 王国の騎士団たちや、冒険者ギルドなどが手分けをして調査をしているからだ。

 俺が勝手に行くことで、調査の邪魔になると考えたからだ。

 ムラサキの両親たちは、おそらくギルドから調査の依頼を受けたのだろう。


「セイラン。ここで戦わずに、ムラサキの里で戦っても、いいんじゃないのか?」

「……そうね。それも悪くはないわね‼」


 セイランは楽しそうに答えた。

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