第845話 貢献できること!
エテルナは自分の体と再会できたことに、安堵の表情を浮かべる。
そして、俺たちに礼を言った。
しかし、今まで通りのロッソとの生活は出来ない。
俺は、もう一度エテルナにゴンド村での生活を提案してみる。
無理強いは良く無いが、体も戻ったことで冷静に考えてくれれば……と期待をしていた。
「――少し考えさせてもらえますか?」
エテルナは回答を保留にした。
急いで回答をもらう必要もない。エテルナ自身のことだからだ――。
ロッソからエテルナのことを頼まれた。
それに応えることもそうだが、個人的にもエテルナを一人にはしておけなかった。
「……タクト。悪いが、ロッソ様の家まで連れてっては、もらえないだろうか?」
「あぁ、構わないが――クロ、エテルナを連れて行ってくれるか?」
「はい、承知致しました」
「エテルナも俺が側にいるより、いいだろう。もし、必要なものを持って帰ってくるのであれば、クロに頼んでくれ」
「……ありがとうございます」
長年、ロッソと暮らした思い出のある場所。
クロであれば、影の中に隠れることが可能だ。
出来るだけ部外者はいない方がいいと俺は思った。
「すぐに頼めますか?」
エテルナに聞かれたクロは、視線だけを俺に向ける。
俺は軽く頷いた。
「はい、承知致しました。では主、行ってまいります」
「あぁ、気を付けてな」
クロはエテルナを影の中へと取り込むと、自分も影の中に入り消えた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――三時間後。
ゴンド村に、クロとエテルナが戻ってきた。
なにかを吹っ切れたというか……先程、俺たちと別れた時の表情とは違っていた。
「この村で御世話になるわ」
「そうか」
俺はエテルナに返事をすると、クロの方を見る。
クロは黙って頷いた。
「クロには、蓬莱山のロッソ様のものは全て持ってきてもらいました。思い出の品を数品だけいただきますが、残りはタクト、あなたが貰って下さい」
「いや、俺よりエテルナが全部持っていた方がいいだろう?」
「いいえ、私には手に余る品ばかりです。あなたが持っていた方が相応しいでしょう。ロッソ様のことを思うのであれば、御願いします」
エテルナは腰を折りながら、俺に頼んだ。
悩んだ末に、エテルナが決めたことなのだろう。
「分かった。でも、欲しいものは、きちんと全てエテルナが持っていってくれよ」
「はい、もちろんです。それでですが……」
エテルナはゴンド村に住むにあたり、クロに話を聞いたそうだ。
ゴンド村に住む条件――。
それは、ゴンド村に貢献できることだ!
それは何でもいい。自分にできることをするだけだからだ。
これがエテルナを悩ませていた……。
エテルナは妖精族のデュラハンだ。
デュラハン本来の能力は、死を予言して知らせることだ。
この能力で話を聞いた者は、決して気分がいいとは思えない。
つまり……、エテルナはゴンド村に貢献できることがないと思っていたのだ。
「能力ではなく、他にもできることはあるだろう?」
「……それは」
ロッソと一緒に暮らしていた時は、洗濯や食事の用意をする必要がなかった。
掃除もロッソがしなくていいというので、殆どしたことがないそうだ。
ロッソと暮らしていた時の家事は、飲みものを用意するくらいしかなかった……。
エテルナの話を聞いた俺は心の中で、「確かにそうだな」と納得していた。
「では、私のお話し相手になって頂けますか?」
部屋の入り口から、ユキノとカルアが入ってきた。
「私は、エテルナさんのように、飲み物を用意することもできません」
ユキノは笑いながらエテルナに話す。
「私の側で一緒にいて、お話を聞いてくれるだけで結構です。エテルナさんの分まで、私がゴンド村に貢献すればいいだけですから……どうでしょうか?」
「エテルナ様。私もエテルナ様の分、この村に貢献します‼」
ユキノとカルアの言葉に戸惑うエテルナ。
「今は貢献できることが少ないかも知れないが……いずれ、エテルナしかできないことが発見できると思うから、ゴンド村で暮らそう」
「そうです。タクトの言う通りですよ、エテルナ様!」
「……ありがとうございます」
エテルナは、嬉しそうに笑うと、目から頬に涙がつたっていた――。
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