第844話 触れられぬ体!

 エテルナの体が見つかった。

 場所はオーフェン帝国と、シャレーゼ国の間にある海にあった。

 捜索は難航していたのだが、頭部だけのエテルナを持ちながら移動していたクロ。

 エテルナは、自分の体が近づくと、なにかを感じることに気付く。

 その能力のおかげで捜索範囲を徐々に狭めることができた。


 海にあったというのは、海底でなく常に動いていた――。

 そう、エテルナの体は魔物に食べられていたのだ。

 その魔物の名は、ミッシングホエール。

 成長すれば体長が三十メートルほどになる。

 しかし、あるにも関わらず目撃事例が少ない魔物だ。

 その体内に、エテルナの体はあった!


 エテルナの体が移動していると結論付けたシロとクロは、根気よく位置の特定をすることにした。

 そして、ミッシングホエールに辿り着いた。

 魔物の正体がわかれば、そんなに手間ではない。

 シロが位置を確認して、海水ごと飲み込んで食事をとるミッシングホエールの特性を利用して、クロとエテルナがミッシングホエールの体内に入った。


 ミッシングホエールの胃には、消化されていない様々なものが残っていた。

 流木や、武器に防具。

 時間とともに、胃液で消化されるのだろうが……。

 胃に入れば安心というわけでもない。

 なぜなら、いつ吐き出されるか分からないからだ。

 クロはエテルナと体の場所を一刻も早く突き止めていた。

 エテルナは精霊なので、ミッシングホエールの遺跡で体を溶かされることはない。


 ガルプが意図的にミッシングホエールの体内に放置したのか、偶然なのかは今となっては分からない。


 エテルナの体は、木箱に入れられて鎖のようなもので何重にも巻かれていた。


「これは……」


 木箱を開けたクロは、エテルナの体に巻かれている鎖が、ただの鎖ではないことに気付く。

 

「私の手に負えるものではありませんね」


 クロは木箱を閉じることにした。

 エテルナは、目の前にある自分の体が思うように動かないことに、苛立っていた。

 クロはエテルナの体を木箱ごと、影の中に収納した。


 海中より出てきたクロとエテルナにシロは、状況を聞く。

 クロは、エテルナの体は見つけたが鎖に縛られていること。

 シロにも見てもらうため、地上で木箱を影から出す。

 そして、その鎖は自分たちでは手に負えないことを話した。

 鎖を見たシロも「そうですね……御主人様にそうだんするしかないですね」と、クロと同じ考えだった。


 その後、俺の所に戻ったシロたちは、俺にエテルナの体が入った木箱を見せた。


 確かに、普通の鎖と違うことは一目で分かった。

 鎖に触れたり、外そうとすれば何かしらの効力が発動する感じがする。

 魔素の塊で作られたのか、不快な感じがするからだ。


 クロの助言で、人族がいない場所で木箱を開けたので、周囲への被害もない。

 俺は【神眼】を使って鎖を【鑑定】する。

 案の定、鎖には【呪詛】が施されていた。

 鎖に触れるだけでは問題無いが、鎖を外そうとした場合、鎖が襲い掛かってくる。

 外そうとした者の命が尽きるまで、攻撃を止めることはない。


 俺は、先代グランニールの鎖を思い出す。

 似てはいるが、誰かれ構わず近寄った者を攻撃する訳ではないので、別の物だとは理解できるが……。


 俺は対策を考える――。

 つまり、鎖を外そうとしなければいいわけだ。


 俺は【アイテムボックス】から、ホーンラビットの死体を取り出す。

 そして、鎖で縛られたエテルナの体に左手で触れる。

 もちろん、鎖には触れていないし、鎖を外そうとする意志はない。

 右手はホーンラビットの死体を触る。


 俺は【転送】を使い、エテルナの体と、ホーンラビットの死体を入れ替える。

 鎖は音を立てて地面に落ちる。

 体の大きさが違うため、余った鎖が落ちただけだ。

 暫く見ていると鎖に意思があるのか、ホーンラビットの体に合わせて鎖が移動していく。

 まるで蛇がホーンラビットの体を巻き付けてから、食事をするような光景だ。

 そして鎖は、ホーンラビットの体を拘束し終えた。


 俺の目の前にはホーンラビットごと、鎖を【アイテムボックス】に仕舞った。

 これで、この鎖による被害は無いだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る