第826話 第一王女としての責務!

 ユキノとの事は、公にする必要のないと言った俺だったが、ルーカスたちは正式に発表すべきだと主張してきた。

 忘れているとはいえ、きちんと公表することが王族の務めだ! ということらしい。

 確かに、もっともな意見だ。

 俺としても、自分の主張を押し通すつもりは無い。


「私の口から、国民の皆様にきちんと説明を致します」


 ユキノは真剣な表情で、ルーカスに訴えた。


「私のせいで、タクト様が辛い思いをされていたかと思うと――」


 ユキノは俺のことを忘れていたことを、とても悔いているようだった。

 しかし、それはユキノのせいではない。


「そんなに気にすることは無い。俺のことを忘れているのは、誰のせいでもないからな」

「そんなことはありません‼」


 ユキノは強い口調で反論する。


「私だけだけでは無い筈です。マリーさんや四葉商会の方たちだって、同じ気持ちになると思います」

「それは――」


 俺は何も言い返せなかった。

 確かに、マリーやフランが怒るだろうと、想像がついたからだ。


「ユキノよ。どうして、四葉商会の名がでるのだ?」


 ルーカスは不思議そうに尋ねる。


「御父様たちはお忘れかと思いますが、タクト様が四葉商会を立ち上げられたのです。それに今、お召しになられている衣装もタクト様に拵えて頂いたものですよ」

「何だと‼」

「それに転移扉や、私の持っているこの道具袋等もタクト様の発明です」


 ルーカスや大臣たちは、驚愕の表情を浮かべていた。


「それは本当なのか⁈」

「あぁ、そうだ。記憶が戻れば、いずれ分かるだろう」

「タクト様の言う通りですわ」


 ユキノは嬉しそうに、俺の意見に同調する。


「もしかして、ダウザーたちの服を用意したのも、タクト。お主だったのか?」

「そうだな俺いや、四葉商会だ。それは今も変わらないだろう」

「確かにそうだが――」


 俺とユキノ以外は、俺との記憶を失っている分、色々と戸惑っているようだった。

 ルーカスにすれば、一難去ってまた一難なのだろう。


「ユキノの報告は、時期を見て決めるとする。今の今だと国民も混乱するだろうし――」

「私は、いつでも大丈夫です」


 ユキノは、自らの口で説明出来ることが嬉しいようだ。


「あとは、余たちで決める。退室しても良いぞ」


 疲れ切っているルーカス。

 心労で倒れてしまわないか、少し心配だった。

 俺はユキノとイースに、ヤヨイの四人で部屋を出た。


「タクト様、申し訳ありませんでした」

「ん? 何がだ?」

「その……二人だけの秘密と言われていましたのに、話してしまったことです」

「仕方が無かったんだろう」

「はい。ですが――」


 ユキノは申し訳なさそうに話す。


「タクト殿。ユキノに問いただした私にも責任があります」

「王妃。俺は気にしていないから、安心してくれ。この事は、どうしても聞かなければならなかった事くらい、俺でも分かっているつもりだ」

「有難う御座います」


 イースは礼を言う。

 娘の様子がおかしくなり、実は魔王の婚約者だと知れば、気が気で無かったのだろう。

 母親の心情も理解出来る。

 そして、俺との約束を破ってしまったことに責任を感じているユキノだが、責めるつもりは無い。

 母親であるイースに問い質されれば、言わずにいられなかっただろう。


「ヤヨイは、私と部屋に戻りましょうか」

「はい、御母様」

「タクト殿はユキノの部屋でゆっくりして行って下さい。あっ、夕食も用意致しますわね」

「そうですわ。タクト様も御一緒に夕食を食べましょう」

「そうだな。ビアーノの料理も久しぶりに食べたいしな」

「そうです。料理長も、きっと喜びますわ!」

「いや、ビアーノは俺のことを覚えていない筈だから、混乱させるようなことは言わなくていいからな」

「そうでしたわ……申し訳御座いません」


 ユキノは記憶が戻って間もないので、普通に会話をしてしまう。


「では、夕食の準備が出来ましたら、御声を掛けますわね」

「あぁ、分かった」

「はい、御母様」

「では、ヤヨイ行きましょうか」

「はい」


 俺とユキノは、イースとヤヨイを見送る。

 廊下を曲がり、姿が見えなくなると、ユキノの部屋へと移動した。

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