第825話 項垂れる国王-2!
アルとネロ、カルアが【転移】で部屋から姿を消すと、ルーカスは大きなため息をつく。
そして、その後の沈黙――かなり重い雰囲気だ。
「国王様‼」
沈黙に耐えきられなくなったジャジーが声を張り上げる。
「あぁ、悪い」
ジャジーの言葉にルーカスは答えるが「心ここにあらず!」と言った感じだ。
「失礼します」
大臣のメントラが入室する。
その後ろには王妃であるイースとヤヨイ。そして、ユキノの姿があった。
「王妃よ……その、どうだった?」
「はい。御義姉様の言われる通りでした」
イースの表情は、ルーカスとは対照的に笑顔だった。
「……そうか。ユキノよ」
そう言うと、ルーカスは鋭い目つきに代わり、ユキノを呼んだ。
「はい。なんでしょうか?」
答えるユキノは、どことなく嬉しそうだった。
この瞬間、俺はルーカスが項垂れている理由が分かった。
「その……そこにいる冒険者のタクトと婚約関係だったというのは、事実なのか?」
ユキノは嬉しそうに俺の方を見る。
俺は、それに応えるように頷く。
「はい‼」
ユキノは幸せそうな声で、ルーカスに返事をした。
「そうか……はぁ~」
ルーカスは、大きな溜息をつく。
護衛衆や、ジャジーは驚いていた。
記憶を取り戻したフリーゼは、ルーカスに連絡をするが、色々と問題を解決する為、演説終了後にフリーゼに連絡すると一旦、連絡を断ったそうだ。
そして、演説を終えて連絡をすると、フリーゼは自分が俺に色々と助けられた事。
ルーカスたちが忘れてしまっている事実を話し始めたそうだ。
そして、俺がユキノの婚約者だということを聞いたルーカスは、慌てふためく。
何度もフリーゼに「間違いじゃないのですか‼」と聞き直したそうだ。
しかし、結果は変わらない。
そう、いきなり娘の婚約を知らされた為、項垂れていたのだろう。
しかも相手が魔王である俺というのも、大きな原因の一つだろう。
「タクトよ。お主がユキノを救った本当の理由は、それだったのか?」
「……そうだ。俺はユキノに生きて欲しいと思った」
「そうか――」
俺はルーカスに申し訳ない気持ちだった。
しかし、あの場ではユキノとの関係を話すことは出来なかった。
あの答えが俺にとって、一番最良の答えだったことに間違いないと、今でも思っている。
「国王様!」
黙っていたイースが口を開く。
「――何だ?」
「ユキノは私たちに反対をしてまで、我を通す娘ではありません。私たちがタクト殿との記憶を失っている為、私たちが忘れているだけで、タクト殿とユキノの二人を祝福していたのではないでしょうか?」
「……それは」
「違いますか、ユキノ?」
イースはユキノに笑顔を向けた。
「はい。御父様も御母様も、それに御兄様にヤヨイ。皆から祝福を受けました」
俺の知っている笑顔のユキノに戻り、嬉しそうにルーカスに話をする。
「そうか――余も承認していたのだな」
どちらかと言えば、国王が俺にユキノを頼むと言ったんだが……。
俺は言葉を呑む込んだ。
「この髪飾りも、タクト様から頂いた物です」
ユキノは髪飾りを触りながら嬉しそうに話していた。
「国民の方々たちにも発表はしておりますわ」
「そっ、そうなのか!」
「はい」
終始笑顔のユキノだ。
「タクト殿、宜しいですか?」
「あぁ」
アスランが恐る恐る俺に話し掛けてきた。
「その……タクト殿は、私たちの親族になるということは、王族の仲間入りするということですよね?」
「御兄様、違いますわ」
俺が答える前にユキノが話す。
「ユキノよ、どういうことだ?」
ルーカスも疑問に感じたようだ。
「私はタクト様との結婚を機に、王位継承権を辞退致します」
「何だと‼」
ルーカスは机を両手で叩くと立ち上がる。
その場にいた全員が驚いていた。
「それと、私は王都を離れてゴンド村でタクト様と暮らします」
「そっ、そうなのか!」
「はい。私は、一冒険者の奥さんになります」
ユキノの言葉に誰も言葉を返す者がいなかった。
それほど、衝撃的なことなのだろう。
以前にも同じことを経験していたので、懐かしい感じだ。
「それに関しても、余たちは了承していたのだな――」
「はい」
ユキノは、王位継承権を持ったままだと、アスランに迷惑を掛けてしまうこと。
しかし、王位継承権を失っても家族の絆が無くなる訳では無い。
俺も出来ることは協力するなどを、俺との記憶を失う前に話していたことを、丁寧に説明していた。
項垂れていたルーカスだったが、徐々に顔色が戻って行く。
幸せそうなユキノの顔を見ていると、自分も幸せな気持ちになったのだろう。
ユキノの説明を聞き終えたルーカスは、納得したようだった。
「色々と、問題が発生するな……」
ルーカスは、小さな声で呟く。
「国民への発表はしなくてもいい」
「どうしてだ?」
「俺との記憶が、徐々に戻っていく筈だ。発表しなくても、俺とユキノのことは、そのうち思い出すだろう」
「それは、本当なのか?」
「あぁ。間違いない――筈だ」
俺も確証は無いが、ユキノとフリーゼの記憶が戻っているので大丈夫だと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます