第827話  王女と精霊たち!

「その……タクト様に謝罪しないといけないことが御座います」

「なんだ?」


 ユキノの部屋に着くなり、ユキノが俺に謝罪することを伝えた。


「タクト様と一緒に撮った写真を、全て無くしてしまいました」

「あぁ、それか……」


 これは、ユキノのせいでは無い。

 オーカスの仕業なので、ユキノの意識が無い間に廃棄してしまったのだろう。

 ユキノに説明しても、理解が難しいだろう。


「無くしたのなら、これから新しい思い出を作ればいいだけだろう」

「タクト様‼」


 子猫のように喜ぶユキノが、可愛く見えた。


「タクト様は、ゴンド村にお住まいなのですか?」

「いや、今はあちこちと飛び回っているので、決まったところにはいない」

「ゴンド村の家は……どうなっているのですか?」

「家は完成しているから、安心してくれ。ゴンド村の人たちも、俺のことを忘れているから、出来るだけ行かないようにしている」

「そうなのですね……」

「まぁ、アルとネロも居るし、安心はしている。ゴンド村の人たちの記憶が戻れば、暮らすのは問題無いしな」


 実際、いつ記憶が戻るかも分からないが、ユキノの不安を少しでも和らげたいと思った。

 俺もユキノと暮らしたいと思っている。

 勿論、シロやクロにピンクーも一緒にだ。


「ところで、シロさんとクロさんは御一緒では無いのですか?」

「あぁ、シロとクロには別の用事を頼んでいるので、今は別々に行動している」

「そうですか。御二方にも謝らないといけませんね」


 やはり、ユキノは記憶を失っていたことを負い目に感じているようだった。


「ところで、ユキノは何処まで記憶が戻っているんだ?」

「何処までと申しますと?」

「その……死んだときの記憶などはあるのか?」

「死んだときですか? ――その記憶はありません」


 やはり、冥界での記憶は残っていないようだ。

 別世界だからこそ、記憶にも残っていないのだろう。


「あっ、そういえば‼」

「なんでしょうか?」

「ちょっと、待っていてくれ」

「はい」


 何のことか分からないユキノは、俺の言うとおりにしていた。

 暫くすると、俺の頭上に水精霊ウンディーネのミズチが姿を現した。


「ミズチ‼」

「……ユキノ!貴女、記憶が戻ったの?」

「はい!」

「そう、それは良かったわね」


 ミズチは嬉しそうにユキノと会話をする。

 懐かしい友人が、失っていた時間を取り戻すかのように会話が弾んでいた。

 男の俺では決して分からない女同士の会話だからこそ、ユキノもミズチと話をして楽しいのだろう。


「私の友人も紹介してあげるわ」


 ミズチは風精霊シルフのアリエルと、地精霊ノームのノッチを呼びつける。


「何よ、ミズチ」


 面倒臭そうなアリエル。

 そのアリエルとは対照的に、ノッチは笑顔で何も喋らなかった。


「私の仲間の風精霊シルフのアリエルと、地精霊ノームのノッチよ。こっちはユキノで、タクトの奥さんよ」

「ほぉ~」

「そう、貴女がユキノね」


 アリエルとノッチは、ユキノに興味津々だった。

 その後、四人は俺そっちのけで話を始める。

 いつぞや見た女子会に似た雰囲気だ。

 会話の主役はユキノ。

 俺とのなれそめや、どこに惚れたかなど完全に恋バナをしていた。

 効いていた俺は恥ずかしくなったので、少し距離を取り窓際へと移動した。


 遠目で見る四人。

 恥ずかしそうに、そして嬉しそうに受け答えをするユキノ。

 そのユキノの話を聞いて、興奮しているアリエル。

 そんな二人を見ながら、笑っているノッチとミズチ。

 

 上位精霊三人と王女。

 よくよく考えれば面白い関係だ。

 種族に拘らず、こういった関係が築けることは良い事だと思う。


「そうだ、ユキノ! 私ともう一度、契約をしましょう」

「ミズチとは契約が破棄されたのですか?」

「えぇ、そうよ。私のことも忘れていたから、仕方が無かったんだけどね」

「そうだったのですね。それは申し訳ありませんでした」

「もう終わった事よ。じゃあ、契約するわね」


 ミズチはユキノと再契約の儀式を行い、再度ユキノと契約することとなった。


「ユキノは面白そうだし、私も契約しようかな……」


 アリエルが変なことを口走っている。

 確か以前、アリエルは人族の恋愛話が好きだと言っていた気がする。

 今迄、身近にそういった相手がいなかったので、直に聞く恋愛話に興味がそそられたのかも知れない。

 確かに、俺やユキノの近くに居れば、今迄以上に恋愛の話が聞ける環境になるだろう。

 アリエルの目的は、間違いなくそれだ。


「二人が契約するなら、俺も契約するか‼」


 ノッチはノリでユキノと契約をするようだ。

 上位精霊が、そんなんでいいのか疑問に感じたが、これもユキノの人徳なのだろう。


「ところで四大精霊であれば、もう一人いらっしゃるのでは?」


 ユキノの質問で、ミズチとアリエルの表情が固まる。


「あぁ、火精霊サラマンダーのホオリンは、タクトと契約していないからな」

「そうなのですか……お一人だけ、仲間外れのようで申し訳ないですね」

「ユキノ‼ あいつは嫌な奴だから、気にすることは無いわよ」

「そうよ、ミズチの言うとおりだわ」


 確かミズチとアリエルはホオリンと仲が悪いと、ノッチが言っていた。

 女同士集まれば、精霊とはいえ色々あるのだと感じた。

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