第814話 説明責任ー9!

 目の前のエリーヌは相変わらず、俺とは目を合わそうとしない。

 というよりも、俺の知っているエリーヌでは無かったという表現が正しいだろう。

 天真爛漫で人に迷惑を掛けても反省しない、ポンコツ女神と呼んでいた面影はなかった――。


「……おい‼」


 お互い何も喋らずに、時間だけが過ぎていくだけだったので、俺から声を掛ける。


「はい、何でしょうか?」


 答えるエリーヌだったが、元気が無い。


「ヒイラギ様から、お前と話すように言われたが――。いや、それよりもその話し方は何だ?」

「私たちのせいで、地上に甚大な被害や、貴方個人にもとても御迷惑をお掛け致しました。どれだけ謝罪しても許されることではありません」


 エリーヌは視線を合わせることなく答える。


「とりあえず、俺を見ながら話をしようか」

「……はい」


 俺の方に顔を向けて、虚ろな目で俺を見ていた。

 見ているが、視点は俺にあっていない。

 完全に精神が病んでいるようだ。

 俺からの問い掛けに答えるだけで、エリーヌは自分から話をすることは無い。


「別にお前が犯した罪じゃないんだから、そこまで気にする必要無いだろう⁉」

「……いいえ、神が犯したことですから、私にも責任はあります」

「神って言ったって、お前が事前に知っていたとして、アデム様――いや、アデムたちを止められるたのか?」

「それは……」


 エリーヌは言葉に詰まる。


「お前は、今回のことに関与していないし、事前に知っていても、どうすることも出来なかったんだから、仕方が無いだろう」

「しかし……」

「しかしもへったくれも無いだろう。逆に聞くが、エクシズの担当神を外れるのか?」

「……」


 エリーヌは答えられないのか、無言のままだった。


「お前は、このまま中途半端な状態でエクシズの担当神で無くなるのか? もし、そうなら、俺は――お前を軽蔑するぞ」

「……」

「俺の崇める神が、そんな神だったとはな。腹黒女神やポンコツ女神なんてより、相応しい呼び名があるな。そう、無責任女神だ‼」

「……無責任」

「だって、そうだろ? 俺をエクシズに転移させたにも関わらず、途中で止めるんだから、無責任だろう」

「……」

「それに、なんだかんだと理由を付けても、逃げるんだろう?」

「ち、違う――」

「いいや、違わない。俺やエクシズの人たちなんて、どうでもよくて、逃げ出すことは間違いないだろう」

「違うもん‼」


 エリーヌは叫ぶ。

 目から涙が流れていた。しかし、その目には活力が戻っていた。


「私だって、色々と考えているんだから。元とはいえ神が起こした事に、エクシズの人たちが苦しんでいるし、私だってどうしていいのか分からないんだから‼」

「だからと言って、逃げていい理由には、ならないだろう」

「私だって――」

「私だって、何だ? 逃げることには変わらないだろう?」

「……」

「結局、責任を放棄して、自分が楽な方へ行くんだろう」

「違う‼」


 強く叫ぶエリーヌ。


「だから、違わな――」

「違うの‼」


 先程以上に声を張り上げる。


「私だって、どうしていいのか分からないんだもん‼」

「分からないからって、途中で投げ出していい訳ないだろう‼」

「それは……」


 エリーヌは再び言葉を詰まらせた。


「神の責任というのであれば、その問題を起こした神の尻拭いをするべきだろう」

「……」

「エリーヌが仕事を途中で放り出すなら、止めるつもりは無い。でも、エリーヌは後任の神に面倒な事を押し付けるだけだろう」

「そんなつもりは――」


 エリーヌは発言を途中で止める。


「確かに、タクトの言う通りだね。私が担当神として、しっかりしていないからだと思っていたけど――うん」


 エリーヌは涙を拭うと、俺の知っているポンコツ女神の顔に戻っていた。


「モクレン様たちから、愛想をつかされて担当を外されるまで、エクシズの担当神を頑張るよ。ん、違うね。モクレン様から外れろっ! と言われても担当神を続けるよ」


 エリーヌは笑顔になっていた。

 それを見た俺も、自然と頬を緩めていた。

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