第815話 説明責任ー10!
元気を取り戻したエリーヌだったが、完全復活していた訳では無かった。
「それで、エリーヌに出来ることはあるのか?」
「特に出来ることは無いかな?」
口調も戻っているので、話し易い。
「でも……生態系が著しく変わるようなら、何かしないといけないかも……」
「それは問題無いのか?」
「今回の場合は、神が起こした事だから――出来る限り、元の状態に戻すようにするとヒイラギ様は言っていたけど、具体的な事までは聞いていないかな」
俺の推測だが、神が『俺たちの世界に関与してはいけない』というのは、規則のようなもので、関与しようとすれば、どれだけでも関与出来るのだろう。
まぁ、だからこそ神なのだろうが……。
気になるのは、神が関与したことで、別の問題が起きないかだった。
無理に帳尻を合わせると、どこかで歪が生じる。
今迄以上に、人族と魔族の衝突や、人族同士の種族間衝突も考えられる。
ヒイラギが、どのような方法を考えているのかは分からない。
神の都合で、振り回されることには変わりない。
「私は、人族と魔族間の問題を解決したいんだけど――」
「それは、難しいだろう」
「そ、それは分かっているよ。魔族の中には本能のまま行動する者も多いし――」
その通りだ。
自分たちと異なる者たちを、敵にすることで仲間の結束や志気を高めることが出来る。
宗教観の違い、人種による差別――。
俺の居た前世の記憶だが、その過去から見ても争いの原因になっている。
もし、魔族という存在がエクシズから居なくなれば、人族同士で争うことになるだろう。
そうすれば、エルドラード王国にオーフェン帝国、シャレーゼ国の三国の均衡が崩れるだろう。
崩れるどころか、国が分裂する可能性の方が高いかも知れない。
別の意味で世界が混乱するだろう。
争いが終わったとしても、暫くは復興する必要があるので、豊かな暮らしに戻るのが先になる。
なにより争いが終わったとしても、全ての人々が納得している訳では無い。
争いの種火は燻っている状態が続く――。
最初、俺が転移する時にエリーヌが「人族や魔族関係無しにみんなで仲良くして欲しい」と、言った言葉を思い出す。
エリーヌが出会った頃から考えが変わっていないことに、俺は少し微笑む。
「なにか可笑しい事言った?」
微笑んだ俺に気付いたエリーヌが、不思議そうに話す。
俺は返事を返すことなく、笑顔のままだった。
「何よ‼」
無言で笑顔を続けた俺に、エリーヌが不満をぶつける。
「悪い、悪い。いつものエリーヌに戻ったようで、安心しただけだ」
「そうよ。将来有望株のエリート女神であるエリーヌ様よ!」
自信満々に自己紹介を口にした。
俺は、その言葉を聞いて、もう心配することは無いと改めて感じる。
「……そうだな。ポンコツ女神の完全復活だな」
「あ~、まだ、ポンコツ女神って言う‼」
「俺の中で、エリーヌの評価はポンコツ女神のままなんだから、仕方が無いだろう」
「もう‼」
会話をしながら、俺とエリーヌは笑う。
いつもの関係に戻ったという表現が正しいのか、分からないが――余計な気遣いをすることは無かった。
「しかし、これから大変だな」
「うーん、そうだね。私もそうだけど、アデム様が理想の世界にしようとしていた世界の担当神の子の方が大変かな?」
「そうなのか?」
「うん。その子もアデム様の言われた通りに、世界を管理していただけなんだけど――」
エリーヌの言葉から、上司であるアデムに従っただけで、悪い事をしているという意識が無いまま世界を管理していた。
もっとも、その世界で悪い事をしていたかどうかは、俺には分からないので、あくまでも推測だ。
しかし、アデムが罰せられたことで、事情を聴かれたりと大変だろうし、もしかしたら共犯と疑われることだって、十分に考えられる。
そういう意味では、エリーヌが自分よりも大変だと言った意味も理解出来た。
「あっ! それと、人族たちがタクトの事を思い出してくれているんだってね」
「あぁ、オーカス様やヒイラギ様のおかげでな」
「良かったね」
エリーヌは、自分のことのように嬉しそうな表情をしていた。
「そうだな――」
「あれ? その割には浮かない顔をしてるね?」
「まぁ、あれだ。俺との記憶を失っていた時のことを思い出すので、色々と面倒なことが起きそうな気がしてな……」
「そうなんだ」
ユキノの場合、俺とのことを忘れていたことで、自分を責めていた。
もしかしたら、同じように思う者が居るかも知れない。
しかし、俺には誰が何時、記憶が戻るか分からない。
それまでは、俺とは無関係の状態を維持する必要がある。
「色々と大変だろうけど――頼むね」
「あぁ、それなりに頑張ってみるつもりだ」
「流石は、私の使徒だね‼」
「あぁ、ポンコツ女神を崇めるポンコツ使徒だ」
「もう‼」
エリーヌとのやり取りが、不思議と懐かしく感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます