第810話 説明責任ー5!

「時間を取らせて悪かったの」


 ルーカスが俺に労いの言葉を掛ける。


「その……今回の件で、褒美等を授けたいと思ってはいるが――」

「いや、要らない。俺に褒美を与えれば、国民から反発があるかもしれないだろう。争いの原因になるようなことはしたくない」


 既に俺という存在が、争う原因になっている。

 これ以上、エルドラード王国を不安にさせるようなことはしたくないと思っている。

 俺の提案を聞いて、ルーカスは黙って頷いた。


「その代わり、頼みがあるんだがいいか?」

「……余たちに聞けることなのか?」

「あぁ、第一王女と二人で話がしたい」

「ユキノとか?」

「先程のこともあるし、じっくりと話をする必要があると思っている」

「しかし……」

「いいでしょう‼」


 戸惑うルーカスとは反対に、イースが即答で所諾してくれた。


「これから先、今回のことでタクト殿に負い目を感じたりしているようあれば、公務に支障が出るかも知れません。一度、話し合っていただいた方が良いかと思います」

「王妃がそう言うなら……」


 イースの勢いに押されるように、ルーカスは納得する。


「すぐにという訳にはいきませんので、ユキノが落ち着いた後ということで宜しいですか?」


 俺は黙って頷く。


 外で待機していた者たちを部屋に呼び戻して、ルーカスたちは退室する。


 暫くすると、アルにネロが部屋に入って来た。

 続けて、シロとクロも戻って来た。

 戻って来た早々、クロが俺に頼みごとをして来た。


「主。許されるのであれば、エテルナ様を探したいと思います」

「エテルナか……」


 ロッソの世話をしていたデュラハンだ。

 自分が人質にされたせいで、ロッソを殺してしまったと自分を責めていた。

 プルガリスとの戦闘中に、プルガリスが自分の影から出した。

 その後、影へと戻したので、消息が不明だ。

 冥界でロッソから頼まれていた。


「そうだな。悪いが頼めるか?」

「ありがとうございます。その、出来ればシロにも手伝って頂きたいのですが――」


 俺はシロの顔を見ると、シロは俺の目を見たまま黙って頷いた。


「分かった。シロとクロとでエテルナの捜索にあたってくれ」

「ありがとうございます」


 クロはシロと目を合わせると、俺に挨拶をすると二人とも消えた。


「妾たちも一度、ゴンド村に戻ろうかの」

「アルが戻るなら、私も戻るの~」

「国王から待機するように言われていただろう?」

「そうじゃが、暇じゃ」

「暇なの~」

「……」

「カルアのことも気になるしな」

「ロッソが死んだ事か……」

「その通りじゃ。あの映像がゴンド村まで映っていたかは定かでは無いが、どちらにしろロッソのことで話をする必要はあるじゃろう」

「そうだな……なにかあれば、俺にも連絡をくれ」

「分かった。詳しいことは……お主からということで良いか?」

「あぁ、それで構わない」

「承知した。国王には、用事があればカルアに連絡するよう伝えてくれ」

「そうだな。カルアであれば、連絡が取れるからな」

「そう言うことじゃ」


 アルは片手をあげて、ネロは手を振りながら、俺の前から消えた。

 これで、この部屋には俺一人となった。

 俺は部屋の外に出て、アルからルーカスへの伝言を伝えてもらう。


 窓辺に歩き、窓から外の様子を見る。

 城の復興も途中だが、作業は中止されていた。

 城まで歩いてきた風景と違い、上から眺める街の風景は又、違って見える。

 破壊された街が痛々しく俺の目に映る。

 瓦礫を片付ける人たちや、崩れそうな建物から人を遠ざけている人たちなど――。

 城まで案内してくれたソディックは比較的、安全な道を選んでくれていたようだ。

 もしかしたら、俺に破壊された街を見せない、気遣いだったのかも知れない。


 魔族に家族や知り合いを殺された人々は、魔族を恨むだろう。

 怒りを向ける相手が必要だからこそ、魔族を恨むことは理解出来る。

 魔族と一括りにすることで、アルとネロが王都を救ってくれたとしても、感謝よりも恨みの感情の方が強いだろう。

 同じ人族でも争いが絶えない。

 ましてや、他種族である魔族との共存は、そう簡単にはいかないだろう。

 勿論、好意的な人々がいることは分かるが、数で言えば否定する人々の方が多いと思う。

 あとは、どれだけ理解してもらうかだろう……。


 後ろの扉を叩く音がした。


「はい」


 俺が返事をすると、扉が開く。


「ユキノ様との面会の準備が出来ました」

「そうか……ありがとう」

「いえ――」


 俺を呼びに来た衛兵は、俺を恐れているのか怯えたように、俺に接していた。

 何も知らない者にすれば、魔王である俺に対する正常な態度なのだろう――。

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