第811話 説明責任ー6!

 衛兵に案内されて、ユキノがいる部屋へと進む。

 扉の前では、イースとヤヨイが立っている。

 あの部屋にユキノがいるのだろう。


「……もう、落ち着いたのか?」

「はい。タクト殿が、会いたいと言っていることも伝えております」


 部屋の前についた俺は、二人に声を掛けた。

 イースは王妃としてか毅然とした態度だった。

 しかし、心配な顔を表に出さないようにしているようにも、俺は感じていた。


「タクト殿‼」


 ヤヨイがイースとは反対に心配そうな顔で俺の名を呼ぶ。

 俺はヤヨイの顔を見ると同時に、俺との距離を詰めた。


「その……出来れば、御姉様が思いつめるようなことは――」


 ヤヨイは、俺がユキノに酷い事をしないか心配しているようだ。


「王女に失礼なことをしたと判断すれば、どんな処分でも受け入れるつもりだ」


 俺は自分の気持ちを正直に話す。

 実際、俺にどのような処分を下したところで、効力はないかも知れない。

 しかし、俺的にはユキノに危害を加えるつもりが無いことを、伝える必要があった。


「ヤヨイ。タクト殿を信用しましょう」

「……はい、御母様」


 イースに諭されるヤヨイ。


「ユキノのこと、宜しく御願い致します」


 部屋に入る前の俺にイースが頭を下げると、横に居たヤヨイも同じように頭を下げる。

 俺は二人に返す言葉が見つからず、ユキノの部屋の扉を叩いた。


 部屋の中から、「どうぞ」という声が聞こえたので、俺は部屋の扉を開ける。

 部屋には、ベッドの上で体を起こしていたユキノの姿が目に入る。

 俺は頭を下げてから、扉を閉める。


「どうぞ」


 俺が話す前にユキノが言葉を発した。

 その場で一度、頷いてからユキノの元へ足を進めた。


「大丈夫か?」

「はい、タクト様にも御迷惑をお掛けして……申し訳御座いません」


 不自然な笑顔のユキノだった。


「……記憶が戻ったのか?」

「――どういうことでしょうか?」

「俺には分かっているので、嘘を付く必要はないぞ」

「……」


 ユキノは俺から目線を逸らす。

 俺はユキノの記憶が戻っていることに確信を持っていた。

 ユキノを生き返らせてから今迄、俺を「殿」付けで呼んでいた。

 しかし、今日は全て「様」付けだった。

 ルーカスに、「今まで通りで」と言った後でも、ユキノだけが俺を呼ぶ時、「様」付けだった。

 俺を「様」付けで呼ぶこと自体、不自然だった。

 それに、服装には似つかわしくない道具袋。

 俺がユキノに買ってあげた物だ。

 ユキノは、ルーカスたちとの謁見最中も、ずっと道具袋を握りしめていた。

 正式では無いとはいえ、あのような場では違和感しか無かった。


「言いたくないか……勝手に、生き返らせたことでユキノが苦しむとは思っていなかった。本当に悪かった」


 俺は深々と頭を下げて、ユキノに謝罪する。


「タクト様は悪くありません‼」


 ユキノは泣いていた。


「私のせいで、タクト様が辛い思いをしていたかと思うと――」


 ユキノは大粒の涙を流していた。


「惚れた女の為なら、俺はどんなことだって耐えられる」

「……タクト様」

「だから、そんな顔をしないでくれ。いつもの笑顔のユキノでいてくれ」


 ユキノは手で涙を拭い、笑う。


「全然、笑えていないぞ」


 俺はユキノの顔を見ながら、笑顔で話す。


「そうですか?」


 笑顔をしながらも、ユキノの目には涙が貯まっていた。


「もう、俺のことが嫌いになったか?」

「そんなことありません‼ むしろ、私のほうこそタクト様に相応しくありま――」


 俺はユキノが全てを言い終わる前に、ユキノを抱きしめた。


「それなら、俺の隣に居てくれ」


 数秒後、ユキノも俺の体を抱きしめてくれた。そして――。


「はい。私で良ければ、いつまでも御一緒させて頂きます」


 顔は見えないが、ユキノは涙声で俺の言葉に返してくれた。

 多分、泣いているのだろう。

 しかし、その涙は今迄の涙とは違うことだけは分かっていた。

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