第809話 説明責任ー4!
泣くユキノをイースが慰めていた。
助けられた罪悪感からか――。
ユキノは事実を知った後、泣くのを我慢していたかのように、号泣していた。
そんなユキノの様子を見て、俺は心が痛くなる。
「タクトよ。お主には、感謝してもしきれぬ――」
「それよりも、俺が魔王と言うことの方が問題なんだろう。魔王に王族が生き返らせてもらったという事実が、国民の不信感を抱かせているだろうしな」
俺が人族とはいえ、魔族最強の魔王だ。
人族の敵だという考えも理解出来る。
捉え方次第では、魔王によって国王たちは支配下に置かれていると思われるし、エルドラード王国は滅んだと、悲観的な考えを持つ国民だっているだろう。
反国王勢力や、階級社会に不満を持つ者達は、いい機会だと一気に活動を活発にする可能性が高い。
ルーカスたちも、危惧しているだろう。
だが、俺の言葉に対して、ルーカスが口を開くことが無かった。
俺よりも、嗚咽しているユキノを心配している様子だ。
国王というよりは、娘のことを心配している父親の顔だった。
ルーカスたちを急かさず、時間がゆっくりと流れるように待つ事にした――。
「タクト様。申し訳御座いません」
平常心を取り戻したユキノは、冷静に俺に謝罪をする。
「その――悪かった。王女の気持ちも考えずに、勝手なことをしてしまい……すまなかった」
ユキノを生き返らせたのは所詮、俺の独りよがりだ。
決して、ユキノから頼まれた訳では無い。
俺のした行為で、ユキノが悲しむ姿を見て、いたたまれない気持ちになり謝罪をする。
だが、俺がユキノを生き返らせたことについて、後悔はしていない。
俺が謝罪をしたことで、ユキノの目から涙が流れ落ちた。
落ち着いたユキノが俯き、口を抑えていた。
「大丈夫ですか?」
イースが慰めの声を掛ける。
しかし、ユキノはイースの言葉に反応せず、泣き続けた。
ルーカスは、情緒不安定になっているユキノを心配して、ヤヨイに別室で休ませるようにと頼む。
ヤヨイが部屋の外で待機していた護衛衆たちを呼び、ユキノを連れて退室した。
ユキノとヤヨイがいなくなったことで今迄よりも、話がし易くなったと思ったのか、俺について色々と質問をしてきた。
公では聞けなかったことも、国王に王妃そして、王子として聞かなければならない事もあるなのだろう。
俺は水晶玉に手を触れたまま、全ての質問に答えていく。 まず、ユキノたちを生き返らせた時の状況や、俺との記憶が元に戻る可能性などを聞かれた。
先程、話した内容に付け加える形で答える。
そして、魔王になった経緯と、その後についてだ――。
当然、隣国のオーフェン帝国との話についても話す必要があった。
オーフェン帝国皇子スタリオンがユキノに好意を持っていたことも話す。
しかし、俺がスタリオンを倒して、ユキノのことを諦めさせたことについては話さなかった。
記憶が変わっている為、余計なことは話さなくても良いと判断した。
ユキノを生き返らせた後、一度オーフェン帝国へは訪れているが、スタリオンが好意を寄せていたことを、俺は知らないと思っているからだ。
プルガリスが発信した言葉についての真偽についても聞かれた。
神という言葉についてだろう。
ガルプという神を崇めていたことは、古い文献には残っている。
その神が世界を滅ぼそうとしていた。
この事実だけでも、人族の存在意義を問われることになる。
もしかしたら、宗教色の強い地域であれば、絶望感に包まれているかも知れない。
俺は訂正する。
ガルプは元神だが、今この世界を管理している神エリーヌは、この世界の幸せを望んでいるということを――。
ルーカスは、この事をどのように国民に対して話すかも考えているのだろう。
幸運だったのは、俺にとって不都合な質問は無かったことだ。
俺が質問に答えると、曖昧になっていた記憶の辻褄合わせが発動するのか、記憶が変わっていた。
「質問は以上か?」
俺の言葉に、ルーカスとアスランは頷く。
しかし――。
「私から最後に宜しいでしょうか?」
イースの目を見て、俺は頷く。
「タクト殿と、ユキノの関係を教えて頂けますか?」
「王族と国民だ」
俺は即答する。
この質問が来る事を想定していました。
出来れば、質問されないことを願っていた。
「そうですか――ありがとうございます」
イースは追及することなかった。
何故、イースがこのような質問をするのは疑問だったが、母親の勘というやつなのかも知れない。
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