第774話 靄!
発見した
幸い、人が少ないので靄を観察することにした。
路上を彷徨うような靄もあれば、家の前で揺れているような靄もある。
時折、地面から靄が発生して移動したりと様々だ。
当然、俺以外には見えていないようで、冒険者達とすれ違っても気付くことなく、体が靄に触れても、気にする様子も無かった。
害がある物体ではないようだ。
害が無いのであれば、触れても問題無いと思い、近くの靄に触れる。
(なっ、なんですか!)
触れた瞬間に、頭に言葉が飛び込んできた。
(あっ、すいません)
反射的に、謝罪の言葉を思い浮かべる。
(って、あれ? あなた、生きていますよね?)
(はい、死んでいません)
(……珍しいですね。死者の魂である私達に触れて、言葉が分かるなんて)
死者の魂……⁉
(もしかして、冥界から来られたのですか?)
(冥界を知っているのですか?)
(はい。オーカス様が統治する世界ですよね)
(……あなた、何者ですか?)
靄なので、表情などは一切分からない。
情報は言葉だけだ。
(信じて貰えないかも知れませんが、何度か冥界に行ったことがあります)
(生ある者が冥界に‼ そんなことは、ありえません)
(でも、エルフは行く事が可能なんですよね)
(そうなんですか?)
(はい、そう聞いています)
(でも、あなたはエルフじゃないですよね?)
(見た通り、人間族です)
(……)
どうやら、黒い靄の正体は死んだ者たちの魂のようだ。
俺には黒い靄しか見えないが、向こうからは俺たちが認識出来るようだ。
(あなた方に迷惑を掛けるつもりはありません。これも何かの縁だと思いますし、少しだけお話を聞かせて頂けませんか?)
(少しだけなら……)
(ありがとうございます)
俺は、彼(彼女?)に礼を言って、改めて会話を始める。
(冥界から、この世界に来た理由は何ですか?)
観光ではないだろうが……。
(帰省です)
(帰省?)
帰省って、家に帰ることだよな?
霊が家に戻ることは「お盆」だが、お盆に実家に集まることを帰省と言う。
これは前世での俺の知識になる。
こちらの世界では意味合いが違うのか、【言語解読】でそのような表現になのかは分からなかった。
とりあえず、帰省しているのだということで納得をする。
話を聞くうちに、大体のことが分かった。
どうやら成仏の出来ない魂が、何年かに一度、影の季節にだけ地上に出て、残してきた家族や子孫の様子を確認することが出来るらしい。
家の前で揺れていた靄は、子孫の家で様子を伺っていたのだ。
彷徨っていた靄は、子孫の場所が分からずに探しているのだと知った。
死んだときの記憶になる。
事情があって、その土地を離れた者の場合、魂たちは行き先が見つからず、影の季節の間は彷徨い続けるしかない。
冥界に帰ると、戻る場所が無いことを悲観する魂も多いそうだ。
それに家族と再会したことで、安心する魂もいる。
どのような結果になろうと、成仏する魂が多いのだろう。
毎年、影の季節が訪れれば、この世界に未練が残ってしまう。
だからこそ、不定期な時期になるのだろう。
もう一度、会いたいと思っても、次は何時なのか分からないのだから……。
影の季節を利用したのか、魂をこの世界に戻す為に影の季節を作ったのか分からない。
どちらにせよ、魂を成仏させることには変わりない。
オーカスが考案したのだろうか?
お互い干渉を極力避けていると、聞いた気もするのだが……。
神同士のことなので、俺が関与することでもない。
しかし、この魂が家族や子孫の元へと戻る行事は、素晴らしいと思う。
(どうも、ありがとうございます)
俺は色々と教えてくれた彼(彼女?)に礼を言う。
(いえいえ、では)
彼(彼女?)は、そのまま移動していった。
家族か子孫の家が見つからないのだろう。
見つかるといいな。 と思いながら、視界から彼(彼女?)の
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