第775話 見栄と品位!

 陽が差さなくなって、五日が過ぎた。

 影の季節も終わろうとしているのか、少しだけ明るくなってきた。


 影の季節の間は、王都に居た。

 陽影花の採取状況を確認する為、帰って来る冒険者を確認していた。

 毎日、何人もの冒険者が大量の『陽影花』を持ち帰って来た。

 王都から遠い場所や近い場所。

 場所を問わずに、簡単に採取出来たようだ。

 当然、大量に採取出来たことで問題も発生していた。


 二日前、不貞腐れるように文句をいう冒険者に遭遇した。

 話を聞いてみると、彼らはランクAの冒険者で、貴族に直接雇用をされていたらしく、陽影花を出来る限り数多く取るように言われて、指示通り大量の陽影花を手に入れ、戻って来たが口約束だったこともあり、全て受け取らないと言ったそうだ。


「あの野郎、ふざけやがって‼」

「冒険者だからと言って、舐めやがって!」


 彼らから、雇い主だった貴族への文句を口にしていた。


「それで泣き寝入りしたのか?」

「まさか! 冒険者は舐められたら終わりだろう」

「そうそう」


 彼らは先程までとは違い、笑顔を浮かべた。


「契約などしていないや、文句を言うなら契約打ち切りだと言うから、頭にきて陽影花を全て持ち帰って来た」

「あぁ、契約していなければ、俺たちが取って来た陽影花を渡す必要が無いからな」

「別にあの貴族に買い取ってもらえなくても、クエストを受注した冒険者に渡せば、俺たちにも報酬が入ってくるわけだしな」


 たしかにそうだ。

 クエスト内容は、自分で採取とは書いていなかった。

 陽影花を持ち帰ることだ。


「あの貴族、偉そうにしていたけど俺たち以外に陽影花の採取を依頼していなかったから、今頃慌てているだろうな」

「ざまぁみろ!」


 これだけ、大量に陽影花が採取出来ているのに、一本も採取出来なかったとなれば、恥をかくことは間違いない。

 冒険者を馬鹿にした罰だ。


 こういった目に合っているのは、彼らだけではない。

 冒険者ギルドから、クエストを受注した受注した冒険者たちでも同じようなことが起きていた。

 思っていたよりも多く採取してきたため、冒険者ギルドに依頼した貴族のなかには先の貴族と同じように、受け取りを拒否する貴族もいた。

 しかし、クエストには採取した全ての『陽影花』を買い取ると記載がある。

 幾つかの貴族が同じクエストを発注している状況だった。

 規約違反になるとして今後、その貴族からの指名クエストは一切受けないことになると、冒険者ギルド側は反論する。

 この場合の、『その貴族』とは、『その家系』になる。

 子孫も同様に、指名クエストが発注出来なくなるということを意味する。

 つまり、冒険者ギルドは約束を守らない貴族とは、未来永劫付き合うつもりは無いと宣言したことになる。


 そもそも「発注したが、思っていたよりも多かったので支払う事が出来ない」など、それだけの財力しか無いと言っているのと同じだ。

 それさえも分からない貴族は、他の貴族からも馬鹿にされるだろう。

 約束を反古にされた。といった悪評は、すぐに広がる。

 とくに品位を重んじる者たちにとって、約束を破る貴族と交流があると知られれば、自分も同じだと思われる。

 次第に誰も相手をしなくなるだろうし、お抱えの冒険者も離れていくことは明白だ。

 そもそも、陽影花は観賞用で、自分の力を他の者に見せびらかす為の道具にしか過ぎない。

 見栄を張る為に、採取しようとした陽影花が、逆に自分の評価を落とすことになるだろうとは思わなかっただろう。


 この問題が終息するころには影の季節も終わり、陽影花は枯れて散っている。

 

 陽影花の大量発生。

 紅月と黄月の月が二つになる時期が迫っていることを感じながら、改めて時間が無いことを自覚する。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る