第773話 影の季節!

 この世界エクシズに、影の季節が訪れる。

 王都に来てみたが、街には人の姿が殆どない。

 見かけるのは冒険者ばかりだ。

 多くの冒険者は一攫千金を夢見て、クエスト『陽影花の採取』を受注しているはずだ。

 街に残っているということは、クエストを受注していないということなのだろうか?


 幻想的という訳でも無く、いつもの夜に月の光が無いだけだからか、特別な感情を抱く事も無かった。

 それよりも、気になる事がある。

 行方不明になったエビルドラゴンと、それを探すアル。

 アルから連絡が無いので、まだ発見出来ていないのだろう。

 発見すれば、連絡があると思うし、戦闘になれば嫌でも気付くレベルになっているはずだ。

 ゴンド村のネロも心配をしている。

 俺が「大丈夫だ」と言っても気休めにしかならない。

 心配するネロの姿を見ながら、友達のことを心配している小学生だなと感じた。


「おい、初日にして陽影花を見つけた奴がいるらしいぞ」

「本当かよ‼ それで、場所は何処だ」


 冒険者たちが騒ぎ始めた。

 影の季節になる前に、ある貴族が冒険者を集めて、クエスト依頼と、パーティー同士での協定を結んだらしい。

 それは事前調査したうえで、可能性のある場所に幾つかのパーティーを送り込むこと。

 そして、収穫した陽影花の報酬は山分けらしい。

 先程、話をしていた冒険者たちは、そのおこぼれを預かろうと情報収集していたようだ。

 しかし、話をしていた冒険者たちは、場所を聞いて落胆していた。

 とても一週間ほどで、往復出来る距離ではないからだ。

 クエストの期日は四日後。

 つまり、影の季節も四日ほどで終わるということなのだろう。

 陽影花を多く採取出来た貴族は、それだけ人脈と財力があることを証明出来る。

 つまり、有能な貴族だと、周囲にアピールする狙いがある。

 自分が有能だと証明できれば、今よりも上の地位を狙えるので、貴族たちも必死のようだ。


 一概に貴族と言っても、爵位がある。

 上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の順になる。

 冒険者を多数雇えるのは、公爵、侯爵、伯爵くらいだろう。

 魔法都市ルンデンブルクの領主であるダウザーは公爵になる。

 防衛都市ジークの領主リロイは、男爵になる。

 リロイの場合は、魔族との争いになった場合は、最前線での戦いを要求される。

 死にたくない貴族たちからは、敬遠される領地になっていた。

 領地を持つことを夢見る貴族たちからも敬遠される程なので、ジークという領地が国からどれだけ重要視されていないかが良く分かる。


(そろそろ、試してみるか……)


 俺は冒険者たちを【神眼】で見る。

 魔力の流れを確認する為だ。

 自然と【神眼】を使う事に慣れることが出来れば、戦闘の際に違和感なく使用出来る。

 戦いを有利に進めることが出来ると考えている。

 毎日、数時間ずつ使用している。俺なりの訓練だ。

 時には、魔物との戦闘をしている冒険者たちを覗き見したりもする。

 これが、なかなか面白い。

 強い冒険者には強い冒険者なりの理由がある。

 魔力の流れがスムーズだ。

 少しでも、魔力の流れが乱れると、本来の力が発揮されないようだ。

 「違う!」「あと、一歩踏み込めば‼」と感情移入しながら、観察したりする。

 それに、怪我をしている箇所も分かる為、治療行為にも役に立つことが分かる。

 もっとも、俺の場合は【神の癒し】があるので、怪我している箇所など関係は無いが……。


 長時間【神眼】を使う事で、慣れて来たので以前よりも、長い間発動させていることが出来る。

 【神眼】を常時発動させることは可能だが、ドライアイというのか目の疲れを感じることがある。

 こればかりは【自己再生】でもどうにもならないようだ。

 俺が思うに神から「休みなさい」と言われているのだろうと、前世の記憶にある言葉を思い出したりした。

 しかし、今の俺に「神」という名は『ポンコツ女神:エリーヌ』いや、『慈愛の女神:エリーヌ』を指す。

 エリーヌが「休みなさい」などと、優しい言葉を掛けることは無い。

 むしろ、「なに休んでいるのよ!」と文句を言うに違いない。

 実際に言われていないが、想像しただけでも腹が立ってくる。


「ん?」


 俺は、黒いもやのようなものを発見する。

 よく見ると、街中に幾つも同じような靄がある。

 ……一体、この靄は何だ?

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