第755話 森の管理者として!

 俺はアルと連絡を取り、今からゴンド村に行く事を伝える。


「おぉ、よいぞ。ネロも昨日、戻って来たところだしの」

「それは、丁度良かった。それと悪いが、村長のゾリアスを家に呼んでおいてくれるか?」

「分かった。なんじゃ、急用か?」

「いいや、アラクネたちをゴンド村での生活を見学させてもらおうと思ってな」

「クララの所か?」

「あぁ、そうだ」

「ふーん。ゾリアスを呼んでくるので、すぐに来るのじゃぞ」

「あぁ、すぐに行く」


 アルとの【交信】を切る。


「タクトさん。ちょっと、いいですか?」

「ん、なんだ?」

「出来れば、あちらで……」

「あぁ……」


 俺はオリヴィアの後を付いていく。


「この辺なら、大丈夫ですね」

「聞かれたくないことか?」

「まぁ、そんなところですかね」


 オリヴィアは笑顔でなく、真剣な表情になり話し始めた。


「もし、クララたちがゴンド村に住みたいと言ったら、出来れば受け入れてもらいたいのです」

「突然、どうしたんだ?」

「外の世界への憧れを止めることは出来ません。それは、族長であるクララでも同じことです」

「オリヴィアは、クララたちが蓬莱の樹海を離れてもいいと思っているのか?」

「それは、出来ればいて欲しいです。しかし、種族として進化出来ることがあるのであれば、それを後押しするのも森の管理者の役目です」


 木々を通して、クララたちアラクネの思考を読み取っているので、表面上取り繕っても、オリヴィアには無駄なのだろう。

 それを分かっているからこそ、クララたちのいない場所まで俺を連れてきて頼んだ。


「オリヴィアは優しいな」

「当り前のことです。しいて言うなら、リラの管轄になるのは複雑な気分ですけどね」


 オリヴィアに笑顔が戻る。


「もし、そうなったらリラにはクララたちアラクネを粗末に扱ったら、オリヴィアが怒るって言っておくな」

「お願いしますね」


 森に俺とオリヴィアの笑い声が小さく響いた。


「少しだけ離れるがクララたちには、すぐに戻って来ると伝言を頼めるか?」

「はい、いいですよ」

「ありがとう」


 オリヴィアに礼を言って一旦、ゴンド村へと【転移】する。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「待たせたか?」


 ゴンド村のアルとネロの住む家には、既にゾリアスも居た。


「大丈夫なのじゃ」

「ぜんぜん、待っていないの~」


 アルとネロが笑顔で迎えてくれる。


「ゾリアスも忙しいのに悪かったな」

「いや、俺の方は問題無い。それより、急用だと聞いたが……」


 俺はアルの方を向く。


「まだ、話していないのか?」

「そうじゃ。タクトの口から話すほうが良いと思ったからの」

「そういうことか……」


 俺はゾリアスに、アラクネ族の事を話し始めると、すぐに驚きの声を上げる。


「アラクネ族って、あの最高級の糸を作り出すアラクネか!」

「そう、そのアラクネだ。生まれてから一度も暮らしている集落から出たことが無いので、外の世界を見てみたいそうだ。この村なら偏見も無いだろうし、危害を加えられることも無いので、出来れば協力して欲しい」

「まぁ、断る理由も無いしな。村の者たちには俺から声を掛けておく。それで、見学

に来るのは何時だ?」

「決めていないが、出来れば早いほうがいいな」

「そうか、そういうことなら明日の朝でいいか?」

「あぁ、構わない。悪いな」


 俺はゾリアスに頭を下げて礼を言う。


「それより、タクト。お主の胸から顔を出している生き物は何じゃ?」

「あぁ、これか」


 俺は右手でピンクーの頭を掴み、机の上に置く。


「なっ、なんじゃ、この奇妙は生き物は!」

「鼠みたいだけど、違うの~」


 アルとネロはピンクーに興味津々だが、ゾリアスは警戒しながら様子を伺っている。


「ピンクー、挨拶をしろ」

「はい、親びん。私はピンクーと申します、以後、お見知りおきを」

「おぉ、宜しくじゃ! 妾はアルシオーネじゃ」

「ネロなの~、よろしくなの~!」

「アルシオーネ様にネロ様。こちらこそ、宜しく御願い致します。ところで、お二方は、親びんとの御関係は?」

「おぉ、妾はタクトの一番弟子じゃ!」

「私は二番弟子なの~」

「何と! 親びんの弟子ですか、立場的に言えば、シロ姉やクロ兄の下になるのですか?」

「いいや、師弟関係はあるが立場は対等だ。こう見えても、二人ともがこの世界最強の魔王だから逆らえば即死だ。くれぐれも、怒らせないように気をつけろよ」

「そっ、その最強魔王の師匠とは、流石は親びん!」

「そうじゃ、タクトは最強なのじゃ!」

「師匠は無敵なの~‼」


 毎回、このやりとりには気が引ける。

 ゾリアスも知っているとはいえ、若干引き気味だ。

 俺の気持ちを気にすることなく、アルとネロは小さなピンクーを触っている。

 先程、逆らうと即死と言ったので、ピンクーは逆らうことなくアルとネロにされるがままだ。


「タクトよ。こやつのここだが、金玉の袋のように伸びるぞ!」

「面白いの~」


 ……どこで、その知識を得たのか疑問だが、ピングーが被膜を引っ張られる姿を見ると、股間が縮まる気分になる。

 俺はゾリアスは自然に目が合った。

 しかしアルは、どこでその知識を得たのだろう……?

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