第756話 見学ツアー計画!

 アルとネロを同行して、アラクネ族の集落へと戻る。

 クララたちは、アルとネロを見ると頭を下げて丁寧に出迎えた。

 魔王に対する正しい接し方なのだろう。


「久しぶりじゃな、クララ」

「お久しぶりです、アルシオーネ様」

「クララ、元気そうなの~」

「ネロ様もお元気そうでなによりです。お二方が来られたということは、新しい服でも所望でしたでしょうか?」


 緊張しながら言葉を返すクララ。


「いいや、タクトがお主等を妾たちが住む村へ案内するというので、手伝いに来たのじゃ」

「そうなの~」

「アルシオーネ様とネロ様は、一緒に住まわれておられるのですか?」

「そうじゃ、人族の村に住んでおるぞ」

「人族の村!」

「タクトの村じゃな」

「……俺の村じゃない」

「しかし村の奴らが、そう言っておったではないか?」

「それは、俺との記憶があったときだろう。今は忘れているだろう」

「たしかに、そうじゃな」

「あっ、あの……ご質問をしても宜しいでしょうか?」

「ん、なんじゃ?」

「魔族であるいえ、魔王であるアルシオーネ様とネロ様が人族と一緒に生活をしているということでしょうか?」

「その通りじゃ。あとはグランニールたちドラゴン族や、ドワーフ族にコボルト族などの魔族もいるぞ。あっ、エルフの娘たちもおるの」

「ハーピーやラミアたちもいるの~」


 話を聞いていたアラクネたちは、驚きを隠せないでいた。

 自分達が森に引き籠った生活をしている間に、世の中が変わったと思ったのだろう。


「あ~、言っておくが人族と魔族は今も対立している。今、話した村が特殊な村だという訳だから勘違いするなよ」

「その通りじゃ!」

「そうなの~」


 俺の言葉に、アルとネロも続いた。


「一応、明日の朝に見学出来る約束は取り付けたが、一度に全員は難しいから何回かに分けたいと思うが、どうだ?」

「分かった。一度にどれくらいまでなら大丈夫そうだ?」

「そうだな……」


 アラクネたちは体が大きい。

 ゴンド村でもドラゴン族に次ぐ大きさだ。

 大勢連れて行くよりも、少数での方が動きやすいだろう。


「五人から六人くらいだな」


 俺が答えると、クララたちは不思議そうな顔をしている。


「私たちを匹でなく、人として数えてもらうのは初めてだな」

「そうなのか、無意識のうちに出た言葉だが、匹の方がいいのか?」

「特に拘りはない。少し、驚いただけだ」


 知らぬ間に、言葉が通じるだけで獣でなく、人として接することに慣れていたのだと、自分で思った。


「交流も含めて、一日午前と午後の二回に分けて見学するつもりでいいか?」

「えぇ、構わないわ」

「クララは引率として毎日、同行して欲しいが難しいか?」

「えっ!」


 クララが驚きの声を上げると、周りで聞いていた他のアラクネたちから、嫉妬の交じった視線が向けられる。


「し、仕方が無いわね」


 クララは仲間たちの視線に気が付いていないのか、嬉しそうに答えた。


「因みに、集落にクララ不在でも問題無いんだよな?」

「そうだな……」


 今迄、集落を離れることなど無かったので、考えているのだろう。

 考えるクララを横目で見ながら、姿の見えないアルとネロを目で探す。


 オリヴィアと三人で会話をしていた。

 笑いながら話す三人を見ているが、オリヴィアも俺には見せた事の無い笑顔だった。

 女性同士だからこそ、見せる顔なのだろうか?

 とても微笑ましい光景だ…………ん? アルの手に乗って、オリヴィアの手から何か掬って食べているのはピンクーだ!

 俺は左胸のポケットを見ると、当たり前だがピンクーの姿は無い。

 いつの間に……。

 ピンクーの隠れた能力に驚く。【隠密】のスキルを使った訳では無いだろうが、小動物なので気付かなかっただけかも知れない。

 よく考えれば、ピンクーも女性だから、あの場は女子会でもしているのだろう。


「副族長のクラリスと交互で同行します」


 クララはクラリスを呼んだ。

 何度もアラクネの集落を訪れているが、全員の名前を憶えていない。

 というよりも、見分けが付かない……。

 クララは族長なので、特長のある服を着ていたので区別がつく。

 何度も話しているので、いまでは自然と分かるようになっていた。

 そもそも、この集落に何人生活しているのか知らない。


「クラリスです」


 クララがクラリスを呼んで、話を始めた。

 クラリスは嬉しさを隠しているようだが、正直すぎる性格のようだ。


「分かりました」


 クララから話を聞き終えると、クラリスは一言だけ言葉を発した。


「ところで、この集落には何人いるんだ?」

「今は、十四匹ね」

「子供を含めてか?」

「今、子供はいないわよ」

「そうなのか……」


 アラクネの集落は、この蓬莱の樹海以外にはない。

 つまり、アラクネ族はこの世界で十四匹しかいないということになる。

 ……絶滅危惧種だ。

 以前に、俺が鏡を購入した際も、鏡の数が少ないと言われた記憶が無いのは、鏡よりもアラクネたちの数が少なかったからだろう。

 それよりも、アラクネは全員がメスなのか? 俺は、ふと疑問を感じた。

 その疑問をクララとクラリスに尋ねてみた。


「えぇ、そうよ。アラクネは全員がメスよ」

「子供は、どうやって生まれるんだ?」

「何年かに一度だけ、メスの中からオスに性別を変える者が現れるわ。その後、集落の者たち全員と交配して、オスとなった者は役目を終えると死ぬわ」

「生まれる時期も、同じということなのか?」

「えぇ、そうよ。クラリスは私の娘よ」

「あっ、そう……」


 母娘関係を聞いて、俺は驚く。

 魔族の年齢の重ね方が分かっていないからだ。

 しかし、アラクネ族が人知れず隠れて住み続けるのには、それなりに理由があったことだけは理解出来た。

 まだまだ、この世界には俺の知らないことが沢山ある。

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