第735話 不貞腐れる魔王達!

「おい、なんでお前達が居るんだ?」

「面白そうだからじゃ」

「そうなの~」

「……静かにしていろよ」

「了解じゃ」

「分かったの~」


 ゾリアスはローレーンに緊張しているし、レグナムとローレーンはアルとネロに緊張していた。

 それに、村の中で見た魔族と人族が共存している事にも驚いているようだった。


「タクト。俺に聞きたい事って何だ?」

「あぁ、スラム街に居た時に、左目に傷がある虎人族が居ただろう」

「……デニの事か?」

「あぁ、そうだ。そのデニってのが、此処に居るレグナムと因縁があるようなので、話を聞いてくれるか?」

「分かった」


 レグナムとゾリアスは二人で話を始めた。

 俺達は完全に蚊帳の外だった。


「プラウディアじゃと! 虎人族のプラウディアの事か?」


 アルが二人の話には聞き覚えのある名前が出たのか、話に入る。


「師匠を御存じなのですか?」

「勿論じゃ。向こうから挨拶に来たからの」

「ガルプの使徒って事か?」

「そうじゃ。本人は転生者と言っておったぞ」


 流石は生き字引のアルだ。

 交流関係が広すぎる。


「その、宜しければ師匠プラウディアの事を教えて頂けませんか?」

「おぉ、良いぞ」



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ある時、龍人族の集落に一人の虎人族が訪ねてきた。

 龍人族は、その虎人族に攻撃を加えようとするが、魔王であるアルシオーネとの面会を求めていたと言う。

 好戦的な種族でもある龍人族は、虎人族に攻撃を仕掛けようとした時にアルが止める。

 虎人族は頭を下げて、自分がガルプの使徒で転生者だと伝えて、話をしたいとアルに頼み込んだ。

 アルも面白そうだと、虎人族の話を聞く事にした。

 虎人族の名はプラウディア。

 エルドラード王国で冒険者をしていると自分の事を話した。

 彼女は転生の際にガルプから、詳しい事は聞かされておらず「第一柱魔王のアルシオーネに会え」とだけ言われたそうだ。

 ガルプからの恩恵も、今迄の使徒と異なりアルに似た恩恵を引き継いでいなかった。

 プラウディアは、目的も分からずにこの世界エクシズに転生されたそうだ。

 アルはガルプの事は無視して、楽しく暮らせば良いと話した。

 プラウディアと会ったのは、この時一回のみだと話した。

 龍人族の集落まで、自分に会う為だけに来たプラウディアは、アルに強い印象を与えていたので覚えていた。

 確かに、単独で魔王の御膝元に行く勇気は凄いと、俺も思った。

 


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「そういえば、その時に弟子を一人取ったとも言っておったの」


 アルの言葉で、レグナムの表情が微妙に変わる。


「その弟子が、デニーロです」

「そうか。話に割り込んで悪かったの」

「いいえ、こちらこそ師匠の話を聞かせて頂き、有難う御座いました」


 その後、ゾリアスとレグナムの話が再開された。

 二人の話を、神妙な面持ちでローレーンは聞いていた。


 ゾリアスもスラム街で別れた後の事は知らないと話す。

 俺も治療の際に「自分への戒め」と断られた事を話した。


「今更、後悔しても遅いのです。師匠は戻って来ません」


 レグナムは怒りを抑えているようだった。


「レグナム師匠……」

「すいません。醜い姿をお見せしました」

「いいえ……」


 ローレーンの言葉で、レグナムは冷静さを取り戻す。


「俺の仲間が今、探しているから情報が入れば教える」

「分かりました」


 レグナムが礼を言う。


「それで、ローレーン。魔王二人と、元王国騎士団副団長に、護衛衆に匹敵する強さをもった奴の誰と戦いたい?」

「えっ!」

「強くなりたいんだろう」

「いや、そうですが……」


 俺の言葉にアルとネロは、手を上げて「自分がやる」と俺にアピールをしてくる。


「タクト殿。その、魔王二人の師匠と言うのは本当ですか?」

「おぉ、そうじゃ! タクトには全く勝てん」

「そうなの~、師匠は無敵なの~」

「まぁ、魔王の中でも最強じゃろう」


 それは、数字の勝負の事を言っているのか?

 純粋な戦闘力で言えば、俺が最弱魔王なのは間違いないだろうに……。


「魔王の中でも……」

「あぁ、俺も魔王だ。一応、第四柱魔王って事になっている」

「タクト殿が魔王? 人間族ですよね?」

「あぁ、そうだ」


 俺は魔王の定義について説明する。

 そして、とある理由で俺が人族の記憶から消えた事等を話す。

 俺の事を忘れた事については、ゾリアスも村で起きた事を踏まえながら話す。


「信じられませんね……」

「まぁ、成り行きで魔王になっただけだ」

「しかし、それであれば武闘会での、あの強さも納得出来ますね」

「兄上達が勝てないのも当たり前ですね」

「悪かったな。まぁ、次回は出ないから安心してくれ」


 俺は笑って誤魔化す。


「武闘会とは、なんじゃ?」

「国の中で腕自慢が戦って、国の最強を決める大会です」

「なんじゃ、それは! 妾も参加するぞ!」

「私もなの~」

「お前達は無理だ」

「何故じゃ! 妾も出て戦いたいぞ」

「そうなの~」

「あのな、まず人族限定だ。お前達が参加したら、相手にならないだろうが!」

「つまらんの」

「つまんないの~」


 アルとネロは不貞腐れる表情で、俺に文句を言う。


「仕方が無い。タクトが相手をしてくれるなら勘弁してやる」

「勘弁するの~」


 何故か、俺が悪い事になっていた。

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