第734話 被害妄想!

「そのですね。理由を聞かせて貰えますか?」


 緊張した面持ちでルーノは、俺達に説明を要求してきた。


「ローレーンが冒険者になりたいので、登録しただけだ」

「そうですね。今迄は、私が禁止していましたからね」


 俺達の答えに、ルーノにトグル、ユカリは絶句していた。


「どうした? 自分達の代になって、どうして問題事が起きるんだって顔だな」


 図星のようで、三人は俺から目線を逸らす。

 完全な被害妄想だ。


「冒険者は誰でも、なれるんだろう?」

「そうですが……」

「まぁ、ジラールに相談してみたらどうだ?」

「分かりました……」


 ルーノはジラールに連絡をしていた。


「その、グラマスから連絡するそうです」


 ルーノが話すと同時に、レグナムに連絡が入る。

 俺で無くて良かったと内心、ホッとする。

 レグナムは終始、笑いながら話をしている。

 ジラールも焦っているだろうが、レグナムに上手くはぐらかされているのだろう。


「大丈夫ですよ。問題ありません」


 ジラールと【交信】を終えると、ルーノ達に向かって話す。


「オーフェン帝国との問題に発展する事はありません」

「そうそう、なんならセルテートに聞いてみたらどうだ?」

「いや、兄貴には……」


 ルーノと護衛衆のセルテートは兄弟だが、連絡をするのに躊躇する。

 多分、叱られるのだろう。


「別に代替わりしたから、嫌がらせで来たわけじゃないからな」

「そうそう」


 一応、嫌がらせの意図が無い事を伝える。


「まぁ、大変だと思うが頑張れよ」


 俺は応援する事を伝える。


 無事、ローレーンの事も解決したので、冒険者ギルド会館を出る。

 出る時に、ルーノとトグルにユカリが俺達を見送るので、注目を浴びていた。

 あとで何者だったかを聞かれるのだろうと思いながら、用事を終えたジークから出た。


「これからの事は、今迄以上に絶対に秘密事項だからな」

「分かってます」

「はい」


 俺は【転移】でゴンド村近くに移動する。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「タクト殿、ここは?」


 土壁に囲まれているので、中が分からない。

 ただし、上空でドラゴンが旋回している。


「まぁ、特殊な村だ」

「これが村ですか……」


 ゴンド村の入り口まで歩くと、アルとネロが手を振っている。

 その後ろにはゾリアスも居る。


「魔人!」


 レグナムとローレーンは、戦闘態勢を取る。


「安心してくれ。危害を加える事は無い」


 俺は二人を止める。


「しかし……」

「俺を信用してくれ」

「……分かりました」


 俺が嘘を言っていないと分かったのか、レグナムは戦闘態勢を解いてくれた。

 ローレーンは緊張の為か、震えていて俺の声が聞こえていないようだ。


「ローレーン」


 レグナムはローレーンの肩に手を置き、名前を呼んだ。


「すっ、すいません」


 ローレーンも戦闘態勢を解く。

 しかし、この距離でアルとネロを魔人と見分けたレグナムは流石、ランクSSだと感心した。


「遅いのじゃ!」

「そうなの~」

「なんだ、俺を待っていたのか?」

「勿論じゃ!」

「勝負なの~」


 無邪気に話すアルとネロ。

 呆気に取られているレグナムとローレーン。


「詳しくは村の中で話す」

「はい、分かりました」


 レグナムは了承する。


「お久しぶりです。レグナム殿」

「これは、ゾリアス殿。無罪になられたと風の噂で聞きましたが、この村で一体何を?」

「今は、このゴンド村で村長をさせて頂いております」

「元王国騎士団副団長の貴方が、村長ですか?」

「はい」

「世の中は分からないものですね」

「本当ですよ」


 顔見知りの二人は笑う。


「その女性の方は?」

「私の弟子ローレーンです。ローレーン挨拶を」


 レグナムに促されて、ローレーンは一歩前に出て頭を下げた。


「ローレーンと申します。先程、冒険者成り立ての未熟者ですが、宜しく御願い致します」

「ゾリアスだ。少しいや、常識が通用しない村だが、二人を歓迎する」


 ゾリアスが村長として、ローレーンに挨拶をした。


「因みに、ローレーンはオーフェン帝国の皇女だからな」

「えっ!」

「気にしなくて大丈夫ですよ。ねぇ、ローレーン」

「はい、私はただの冒険者です」


 ゾリアスは色々と考えているのか、何も答えなかった。


「ほぉ、オーフェン帝国か。あの馬鹿猫は元気か?」

「フェンの事か?」

「そうじゃ」


 どうやら、アルもフェンとは面識があるみたいだ。

 多分、アルに喧嘩でも売って、コテンパンに返り討ちにあったのだろう。


「失礼ですが、フェン様を侮辱する発言は撤回頂けますか」


 ローレーンが怒り気味にアルを睨んでいる。


「馬鹿猫を馬鹿猫と言って、何が悪いのだ」

「許しません」


 ローレーンが攻撃を仕掛ける前に、アルの殺気がローレーンを襲う。

 それは隣に居たレグナムにもだ。

 二人が動く事も出来ない程の殺気だ。


「アル!」

「分かったのじゃ」


 アルは殺気を解く。


「後で紹介しようと思ったが、先に言っておく。これが第一柱魔王のアルシオーネことアルだ。そっちが第二柱魔王のネロになる」

「タクトの一番弟子アルシオーネじゃ。よろしくの」

「二番弟子のネロなの~、よろしくなの~」


 流石のレグナムも反射的に攻撃をしようとしたが、アルとネロが攻撃させる事をさせなかった。

 ローレーンに至っては、自分が途方もない相手に喧嘩を売った事を激しく後悔したのか、体を大きく震わせていた。

 恐怖が収まらないんだろう。


「ほら、行くぞ!」


 微妙な雰囲気を保ったまま、ゾリアスに正気を取り戻させて、ゴンド村を案内してもらう。

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