第728話 強者の概念!
パーティーには、本戦に出場した参加者達が呼ばれていた。
当然、ローレーンも居たが、師匠であるレグナムの姿は無い。
トレディアが再度、本戦出場者に対して、強者である事を伝える。
その後は、お決まりのパターンだ。
一応、俺はユキノの護衛という事で話し掛ける事は禁じられているので、話し掛ける者は居なかったが、視線は常に感じていた。
会場では楽しそうに話す者の姿ばかりだったが、その話す輪の中にローレーンは居なかった。
俺の気持ちを察したのか分からないが、一人でいるローレーンの元にユキノが移動した。
「随分と、お強いのですね」
ユキノはローレーンに話し掛けた。
「……ユキノ様。御無沙汰しております」
「いえいえ、こちらこそ。最後にお会いしたのは、随分と昔でしたからね」
王族と皇族なので、面識はあるようだ。
「……その、ユキノ様。護衛の方との話を許可頂けませんでしょうか?」
ローレーンの言葉に、ユキノは俺の顔を見る。
俺は静かに頷いた。
「はい、いいですよ」
「有難う御座います」
ローレーンは俺の方を向く。
「初めまして、私はローレーンと申します」
「王女護衛のタクトだ。【呪詛】の関係で、丁寧語を話す事は出来ない」
「分かりました。単刀直入にお聞きします。どうしたら、貴方のように強くなれますか?」
それはチートのせいです。と答えられれば、どれだけ楽かと思いながらも、答えを考える。
今迄何度も、同じような質問を受けている。
「何を以て強いと判断している?」
「それは戦う力です」
「拳を振るうだけが力ではない。頭脳を駆使して、国の為に尽くしている者達は弱者なのか?」
「いえ、そういう訳ではありません」
「じゃあ、逆に聞くが何故、そこまで強さに拘る」
「それは……」
「スタリオン達男兄弟に負けたくないからか? それとも、皇帝に自分を認めさせたいからか?」
ローレーンは黙る。
「他人が自分の事を強いと言ってくれれば、満足するのか? 違うだろう。自分が納得出来なければ、いつまでも強さを追い求める事になるんだろう?」
「それは程度の問題ではないですか?」
「周りは俺の事を強いと言ってくれているが、俺は自分が弱いと思っている。俺はその為に強くなろうと今でもしている」
「タクト殿より強い者が居るのですか?」
「あぁ、俺なんか足元にも及ばないくらい、強い奴を何人も知っている」
「そんな……」
俺の話し方だと、エルドラード王国には俺以上に強い人族が居ると思っているのだろう。
実際には魔王や、その母親だったりするのだが……。
「体を鍛える事も大事だが、心を鍛える事も大事だろう」
「私の師匠と同じ事を言いますね」
「師匠って、レグナムの事か?」
「師匠を御存じなのですか?」
「名前だけだが、俺と気が合うかも知れないと聞いたので、一度くらいは会いたいと思っていた」
「ローレーン様の御師匠様は、レグナム殿なのですか?」
俺とローレーンの会話に、ユキノが入ってきた。
「はい、そうです」
「確かに、レグナム殿とタクト殿は、どことなく似ていますね」
ユキノの口からも、俺とレグナムが似ているという言葉を聞く。
「どこが? と言われると難しいのですが……雰囲気でしょうか?」
「そうですか? 私の師匠は、いい加減ですよ」
ローレーンも緊張が解けたのか、笑顔を見せるようになった。
「帰られる前に、師匠に会われますか?」
「そうしたいが、俺には護衛の任務があるので王女から離れる訳にはいかない」
「そんな事、簡単ですわ」
ユキノは微笑みながら答える。
そして、ユキノはローレーンを連れて、ルーカスとトレディアの元へと歩きだして、ローレーンの師匠であり、エルドラード王国の冒険者でもあったレグナムとの面談を申し込んだ。
二人共、即答で了承した。
それはユキノが上手く交渉をしたからだ。
流石は王女だと感心した。
俺は護衛があるので、ユキノが宿泊している部屋で今晩、ローレーンとレグナムで会う事にした。
ローレーンはレグナムに連絡を取って、了承を得たようだ。
「ユキノ王女。お話を宜しいでしょうか?」
「これは、スタリオン皇子」
スタリオンがユキノに話し掛けてきた。
隣に居たローレーンの表情が強張る。
スタリオンは一般的な会話をするだけだったが時折、俺を見ていた。
俺と話をしたいのだろうが、切り出せずにいるようだ。
「ユキノ様に兄上、私はこれで」
ローレーンは耐えられなくなったのか、この場から去ろうとしていた。
「まだ、答えていないがいいのか?」
「えっ!」
俺が言葉を発すると、ローレーンは立ち止まる。
ローレーンが俺と会話をしていたと知ると、スタリオンが注意をしようとする。
しかし、ユキノに承諾を得ている事を知ると、それ以上は何も言わなかった。
「皇子にとって、強さとは何だ?」
俺はスタリオンに質問をする。
急に話を振られたスタリオンは、答えて良いのか分からずにユキノの顔を見ていた。
「どうぞ」
ユキノは笑顔を崩さずに、スタリオンに俺と会話をするように伝えた。
「そうですね……以前に言われた事がありました。力を振りかざさずに、弱い者にも寄り添える者こそ、本当に強い者だと」
俺が以前に、スタリオンに言った言葉だ。
記憶が無くとも、俺の言葉は覚えてくれていた事が嬉しかった。
「しかし、誰に言われたかは思い出せないのです」
スタリオンは頭を掻きながら、苦笑いをする。
「ローレーンも女性だからと気にする必要はない。何かあれば、いつでも俺を頼ればいい」
「兄上」
本当にスタリオンは立派になったと感じた。
あんなにクズだったのが嘘のようだ。
ローレーンは心の蟠りが取れたのか、スタリオンと何年かぶりの兄妹の会話をしていた。
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