第729話 放浪冒険者!

「お久しぶりです。ユキノ様」

「こちらこそ、元気でしたか?」

「はい。お陰様で」


 ユキノと、レグナムは互いに挨拶をしていた。

 レグナムは何度か、王族からの指名クエストを受注していた事を知る。

 ユキノもまだ、小さかった時の話らしい。

 レグナムはユキノの小さかった頃の失敗話をしては、ユキノが恥ずかしい顔を浮かべていた。


「まぁ、昔話はこれくらいにして、私を呼んだ理由は彼ですか?」


 レグナムは俺の方を見る。


「はい、そうです。彼はタクト殿です。説明は不要ですよね」

「勿論です。無職無双のタクトと言えば有名ですから」

「それでしたら、レグナム殿も放浪ばかりしていると、有名ですわ」

「確かに、間違ってはいませんね」


 ユキノは気を使って、俺とレグナム、ローレーンの三人での話し合いにして貰い、シロとクロとで、宿泊された部屋内にある別室へと移動した。


「初めまして」

「こちらこそ、呼び出して悪かった」


 一応、『呪詛証明証』を提示する。


「本当に珍しい【呪詛】ですね。最強とはいえ、無職で丁寧語も話せないって、苦労したのでしょう」


 初めて、俺の苦労を分かってくれる者に出会えた。


「分かってくれるか。本当に失礼な奴だと自分でも思えたからな」

「そうでしょうね」


 数回、言葉を発しただけだが、気が合う事が分かった。

 お互いを敬称無しで呼び合うのに時間は掛からなかった。


「しかし、酒が無いのは寂しいですね」

「レグナム師匠!」


 レグナムは、ローレーンに叱られる。


「酒ならあるぞ」

「本当ですか!」


 俺は【アイテムボックス】から、酒とつまみになるような物を数点出す。

 この二人なら、信用出来ると確信したので、【アイテムボックス】を隠す事はしなかった。


「おぉ、タクトも【アイテムボックス】持ちか!」

「と言うと、レグナムもか?」

「あぁ、私の場合はレベル二なので、大きな物の出し入れは出来ないのですけどね」


 レグナムは笑う。


「師匠は体悪いんですから、お酒は控えて下さい」

「大丈夫ですよ」


 ローレーンは、心配そうだった。


「どこか悪いのか?」

「あぁ、ちょっとだけですが」

「そうだ! タクト殿、レグナム師匠の体を見て頂け……」

「ローレーン!」


 レグナムは、ローレーンの言葉を遮る。


「すいません、レグナム師匠。出過ぎた真似を……」

「こちらこそ、大声を出してすいません。貴女が私の事を気遣ってくれている事は、分かってます」

「はい……少し、ユキノ様の所へ行ってまいります」


 落ち込んだローレーンは、席を外した。


「あの子は、逃げ癖があるのです」

「逃げ癖?」

「はい。本人は時間が解決すると言っていますが、問題に正面から向き合わないのですよ」

「成程ね……」


 皇族からの呪縛に、冒険者の壁等の事を言っているのだろうと俺には分かった。


「失礼な質問をしても良いですか?」

「あぁ」

「タクト。貴方は転移者ですか、それとも転生者ですか?」


 俺は驚く。

 何故、レグナムが転移者や転生者という言葉を知っているのだと……。


「どこで、その言葉を?」

「私の師匠が教えてくれました。この世界で、転移者や転生者という存在が居て、どんなに頑張っても、その差が埋まる事の無い強さの持ち主だと」


 俺は考える。

 レグナムが、プルガリスの配下の者かも知れない。

 しかし、プルガリスの配下であれば、俺が転生者という事は知っている筈だ。

 こういう時に【全知全能】があれば便利なのに……。


「もし、俺がそのどちらかだとしたら?」

「そうですね……ローレーンを任せたいと思っています」

「任せる?」

「はい。私は、そう長くありません」

「自覚症状があるのか?」

「はい。発作が起きる時間が、徐々に短くなってきています」


 俺は【神眼】を使い、レグナムの寿命を確認する。

 確かに、残り一年程だ。


「治療も拒否しているのか?」

「はい。終わりがあるからこそ、生きている時間を大事に出来ますから」


 レグナムの言葉は、俺の心に響く痛い言葉だった。


「それが、ローレーンを任せる理由なのか?」

「そうですね。貴方であれば、私と同じようにローレーンを良い方向へと指導してくれると思っています。何より彼女には才能もあります」

「俺を買いかぶり過ぎじゃないのか?」

「こう見えても、人を見る目はあります。それに自分が生きた証を残したいと思い、ローレーンを弟子にした身勝手な思いもありますし……」

「成程な……しかし、俺は指導出来る程ではないぞ?」

「強い者が必ずしも、良い指導者だとは私も思っていません。実際に、私の師匠も強いという訳でもありませんでしたしね」

「俺どうこうよりも、ローレーンは知っているのか?」

「いいえ、知りません。彼女の事ですから、反対するでしょう」

「だったら!」

「師匠とは、弟子に自分よりも強くなって貰いたいと思うものです。弟子の居ないタクトには分からないでしょうがね」


 俺の場合、既にいや、最初から弟子の方が格段に強いのだが……。


「まぁ、タクトが駄目なら、タクトが見込んだ人にでもローレーンを託して貰えれば良いですよ」

「……なぁ、提案だが俺の知っている村で暫く暮らすつもりは無いか? そこなら、強い奴も沢山居る」

「それは有難い事ですが、私が旅をしているのは人探しの為です。残り少ない時間で見つけたいと思っていますので……」

「そうか。俺も手伝おうか、その人探し」

「そう簡単に見つかる相手ではありません。私自身、何年も掛けて探しています」

「そんなに大切な人なのか?」

「大切という表現は正しくないですね。正確には、師匠の仇です」


 レグナムが、何年も放浪の旅を続けていたのは、その相手を見つける為だったようだ。

 しかも、その相手は自分の兄弟子で、師匠を殺した相手だという。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る