第727話 武闘会閉幕!

 親善試合が終わり、武闘会が閉幕する。

 人族と言っても、大きく三種類に分かれている人間族と鬼人族、それに獣人族だ。

 力では鬼人族に勝てないが、技やスピード等の総合戦闘力では獣人族が、秀でていると考えているのが、オーフェン帝国だ。

 フェンから説明があったとしても、貧弱な人間族に負けたのだから、観客達も動揺していた。

 魔法を使う事は、貧弱だという風習等もあるので、力こそ全てなのは以前から分かっていた。

 自分達の考えを、全て否定されたと思う者も居るに違いない。

 

 観客達の動揺を気にすることなく、司会者が進行を続けた。

 優勝者であるスタリオンだったが、神妙な面持ちでスピーチを始めた。

 まず、参加した者達に対して、鼓舞するような言葉を掛ける。

 そして、決勝で戦ったグリズリーの強さを称えた。

 しかし、優勝したものの、俺に手も足も出なかった事を悔しそうに話す。

 オーフェン帝国がエルドラード王国に負けた訳では無い事。

 そして、皆で強くなりエルドラード王国の代表である俺を、倒せるように頑張ろうと声高らかに話す。

 俺は話を聞きながら、エルドラード王国代表になった覚えは無いと思う。

 一応、今回は対応したが次回も出場するとは一言も言っていない。

 あたかも、俺が次回も出場する体で話をしているのには、戸惑いもあった。

 そもそも今、終わったばかりな上、次回の武闘会が開催されるかも分からないのに、気が早い事だと少し可笑しかった。

 

 お世辞抜きで、スタリオンのスピーチは素晴らしいと思った。

 自分の弱さを認めて、自分だけでなく皆で頑張ろうとする姿勢には共感出来た。

 人の上に立つ者に育っているのだろうと感じた。

 それは俺だけでなく、トレディアやフェンも感じたと思う。


 参加者の中で浮かない顔の者が居た。

 ローレーンだ!

 自分が負けた事が納得出来ていないのか、弱かった自分が許せないのか分からないが、周りとは違う表情なのは一目瞭然だ。

 師匠であるレグナムにも一目会いたいと思っているので、後で声を掛けてみようと思う。


 皇帝であるトレディアが、正式に一年後に第二回武闘会を開く事を伝えた。

 そして、スタリオン同様に皆、精進するように力強く伝えた。

 参加者や、観客も歓喜の声を上げる。

 俺は来年は参加しない事を心に誓う。

 何故なら、親善試合であれば俺で無くても、他の者を代表にすれば良いだけだからだ。

 遅くなると既成事実を作られる可能性があるので、早いうちにルーカス達に伝える事にした。



 閉会式が終わると、パーティーが開催されるそうだ。

 前夜祭に比べれば、質素になるとは聞いていたので、優勝者であるスタリオン等を集めた祝勝会的な意味もあるのだろう。

 それまでに俺は、レグナムやローレーンに会いたいと思っていたが、ユキノの護衛がある為、ユキノの側から離れる事が出来なかった。

 祝勝会にローレーンが呼ばれる事は無いだろうから、師匠であるレグナムに会う事も難しいだろう。

 

 俺はユキノを護衛しながら一旦、部屋に戻る。

 部屋の中はシロ、外で俺とクロが警護する。

 ユキノが着替えを終えると、ルーカス達の部屋へと移動をする。

 そして、パーティーの時間がくる迄、待機をする。

 暫くすると、ロキサーニが俺と交代だと言って、部屋に入る。


「御苦労だった」


 ルーカスは俺に親善試合の礼を言う。

 エルドラード王国の力を見せつけられたので、御満悦の様子だ。

 負けず嫌いのルーカスなので、例え親善試合でも負けるのが嫌なのは分かっていた。

 先程の、試合を興奮気味に話していたが、会話を中断するように俺は話す。


「今度の親善試合には出るつもりは無い」

「……何故だ!」


 俺の言葉にルーカスは驚く。

 そして、理由を聞かれた俺は、その問いに答えた。


「俺が強すぎるからだ。いずれ、オーフェン帝国側に、失望を与える事になるかも知れない」


 どれだけ努力しても、敵わない。

 努力しても無駄だと思ってしまう可能性もある。

 一度、堕落してしまうと、後は坂を転がるように怠けた生活になってしまう事を、俺は懸念した。

 力がある程度、均衡している者同士だからこそ、面白いという俺の主観も入っている。


「しかしだな……」


 俺が出場すれば、負ける確率は殆ど無い。

 ルーカスが口にしたい事は、俺も分かっていた。

 それに俺が魔王だと知られれば、それこそ戦いを挑むのも馬鹿らしいと思ってしまう者が多数だろう。

 モチベーションを下げる事は、出来るだけ避けるべきだ。

 俺の気持ちが変わらない事を、ルーカスも悟ったのか、俺の意見を受け入れてくれた。

 一方で、来年の親善試合に出場する者について、誰にするかを既に考え始めているようでもあった。

 冒険者ギルドグランドマスターのジラールに、余計な仕事をさせてしまうかも知れないと、申し訳ない気分だった。

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