第719話 事前偵察!
シロとクロからオーフェン帝国の調査報告を聞く。
参加者はかなり多く、これを機に自分の価値を上げようとしているような一攫千金を狙っている者も居る為、実力にかなりの差があるそうだ。
その件で、運営側も悩んでいるらしい。
基本的に、死んでも文句は言わないという事で、合意はするそうだ。
しかし、出来れば国民を無駄に死なせたくないというのが本音なのだろう。
シロはフェンから情報を聞いたそうだ。
俺の存在がある為、以前のような接し方が無くなったとシロは話す。
フェンとの関係も、少しずつ良くなってきているのだと俺は感じた。
以前、シロに対して「フェンと少しは仲良くなれそうか?」と尋ねた時に、「さぁ、どうですかね」とシロは答えた。
今、同じ質問をシロにしたら、同じ回答なのだろうか? と考える。
「優勝候補は分かるか?」
「はい。街中、その話でもちきりです」
クロの話だと、本命は王子でもあるスタリオン。
次に名が上がる者が数人居るそうだ。
「まぁ、そうだろうな」
俺は一応、聞いただけだった。
今回の武闘会は元々、俺に負けたスタリオンの名声を取り戻す為に提案した大会だ。
俺の記憶が人族から無くなる前の話なので、誰も覚えてはいないだろうが……。
「それと、面白い話を耳にしました」
「面白い話?」
参加者の中に、皇帝の娘で『ローレーン』が参加するらしい。
一応は王女だが、側室の娘である事や男性で無い為、王位継承権は無い。
そもそも、皇帝には何人も子供が居る。
力無き者は皇帝の子供だろうが、特別な待遇を受ける事は無い。
辛うじて皇族という事で、一般市民より少しだけ良い生活が出来る程度だった。
ローレーンも皇帝であるトレディアから、寵愛を受ける事無く育った。
力が全てのオーフェン帝国らしい。
ローレーンは御転婆で男勝りな性格らしく、小さい頃から有名だったそうだ。
次第に自分が女性という理由だけで、無力扱いされる事に憤りを感じていた。
実際、女性が自分の実力を披露出来る事は殆ど無い。
オーフェン帝国は、男尊女卑の思想が国中に広がっているから、仕方が無い事だろう。
そのローレーンが、旅に出ると帝都から居なくなったのが数年前。
今回の武闘会に参加する為、数年ぶりに帝都に戻って来た。
しかも、男性と一緒らしい。
その男性は獅子人族だった為、ローレーンの恋人もしくは、婚約者では無いかと噂されている。
その獅子人族の男性は、レグナムと言うらしい。
以前に、スタリオンの兄弟の一人がレグナムに師事していると聞いていたが、それがローレーンのようだ。
他の兄弟達も、虎視眈々とスタリオンの首を狙っているそうで、誰が勝つかの賭けをしている者達もいるそうだ。
つまり、オーフェン帝国中は、お祭り騒ぎのようで国民は皆、浮かれている。
帝都にも武闘会を見ようと各地から人が集まってきていると教えてくれた。
予想以上の盛り上がりに、運営は度重なる変更をしている為、大変だとシロが話す。
会場に入れる人数も決まっているし、警備の事もあるからだろう。
「それで、魔族らしき者は居たのか?」
今回、シロとクロにオーフェン帝国への調査を頼んだ理由だ。
人が多く集まれば、魔族が攻撃を仕掛けてくるかも知れないと、俺は思っていた。
特にプルガリスは、そういう事に敏感だ。
「それらしい者は発見出来ませんでした」
「私もそうです。フェンからも、同じ回答でした」
クロとシロが答える。
シロにはフェンに魔族に注意するように言ってもらっている。
「それよりも、フェンが親善試合は、お手柔らかにと言っていました」
「提案はスタリオンなんだろう。そっちから言って来て、お手柔らかにってのも変な話だよな」
「確かにそうですね」
「ところで、シャレーゼ国の件はどうなっている?」
「はい、招待状は送ったそうです。しかし、親善試合への参加は難しいと思います」
「そうだろうな。実力差がありすぎるからな……」
「フェンも、その事は重々承知のようです。ですので、実質はエルドラード王国と、オーフェン帝国との戦いになるでしょう。もっとも、ご主人様が勝つ事は間違いないです」
話しながら、最後は笑っていた。
「狐人達は、どうだ?」
最後に俺は、黒狐達のせいで風評被害にあっている、狐人族達の状況を聞く。
「あまり良くはありません」
「フェンも、その事で悩んでいるようです」
「そうか……」
もしかしたら、狐人族達にとって今のオーフェン帝国は、暮らし辛い国になってしまっているのかも知れないと、俺は思った。
しかし、生まれ育った故郷を捨てる覚悟が無いだろうし、他の獣人族達からの嫌がらせ等もある筈だ。
悪い方向に進まなければ良いのだが……。
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