第718話 この世界について!
騒がしい二人が居なくなったので、俺はセフィーロの屋敷の入り口近くにある岩に座り、吸血鬼族の里を見ていた。
この世界が普通だと思う者、誰かから聞いて外の世界に興味を示す者。
セフィーロが話していた言葉を思い出す。
ゴンド村とは逆だなと感じた。
色々な場所で迫害を受けて、居場所が無くなり多くの者達は、ゴンド村にやって来た。
自分達が受けた痛みを知っているので、他の者に対して優しくなれるのだと俺は思っている。
しかし、自分が受けた痛みを、自分が強者になれば立場が変わると思う者達が居るのも事実だろう。
それぞれの考え方。個人の意見を尊重するというセフィーロの考えは間違っていない。
誰もが、セフィーロの所有物では無い事を、セフィーロ自身が知っているからだろう。
そして、吸血鬼族の者達にもセフィーロの思いが伝わっているのだと感じた。
ふと、この洞窟はどこまで続いているのだろうと気になる。
所々に置かれている発光石が、ぼんやりと辺りを照らしているので、遠くまでは分からない。
俺は勝手に出歩いて良いのだろうか? と考える。
少しくらいならと思い、立ち上がる。
そして、洞窟の奥へと足を進めた。
一応、【魔眼】で結界のようなものが張られていないかを確認する。
何もない。これなら、奥に進んでも問題無いだろう。
「勝手に出歩いたら駄目よ」
俺は驚いて振り返ると、セフィーロが立っていた。
全く気配を感じなかった。
「悪い。洞窟がどこまで続いているのか気になっただけだ」
「分かっているわ。貴方は探求心が強そうですしね。けど、その探求心が身を滅ぼす事になるかも知れないので、気を付けた方がいいわよ」
セフィーロは、奥には行くなと忠告しているのだと分かった。
俺としても、行くなと言われたら行くつもりはない。
しかし、久しぶりに『探求心』という言葉を聞き、懐かしいと感じる。
「話の続きでもしましょうか?」
「そうだな」
俺はセフィーロとの話を再開する事にした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「何が聞きたいかしら?」
「そうだな……」
俺は悩んだ。
聞きたい事が無い訳ではない。
むしろ、聞きたいことだらけだ。
しかし、セフィーロにとって思い出したくない事等もあるかも知れない。
人の心の中に、土足で踏み込むような事はしたくない。
「聞きにくそうね」
セフィーロは俺が、気を使っていると分かっているのか、少し笑顔だった。
俺は最初に、「この世界で一番長く生きているのか?」と聞く。
セフィーロの答えは「多分、そうね」だった。
人族や魔族の進化の過程も見て来ていると、セフィーロは淡々と話す。
王都魔法研究所の研究員達にすれば、聞きたい話が山程あるだろう。
セフィーロは俺が深く聞かなければ、それ以上の話をする事は無かった。
あくまで最低限の事を話してくれるようだ。
俺にとっては、それだけでも有難い事だ。
その後も、人族と魔族の歴史を踏まえた関係や、セフィーロの考え等を聞く。
いつの間には俺は、セフィーロの話に聞き入っていた。
それ程、為になる事が多い話だった。
「人族は魔族を殺し過ぎているわね」
「魔族が人族をじゃなくてか?」
「えぇ、そうよ」
セフィーロの話は、あくまでも昔に比べてという前置きがあった。
しかし、人族の人口が増えるに辺り、今迄未開発だった場所に住処を求めて、魔物の生息場所に立ち入る事が増えてきた。
当然、人族と魔物が衝突する。
最初に弱い魔物が狩られ、それを餌としていた魔物達は食糧不足になり、人族を襲う。
そして、襲われた人族は魔物討伐する為に、より強い者や大人数で迎え撃つ。
最後は、連携が出来る人族に軍配が上がる。
しかし、それは一時的な勝利なだけで、その後も魔物との戦いは続く事になる。
魔物が生息出来ない状態まで、生態系を破壊すれば人族の勝利となる。
しかし、何年も続いた争いのせいで、付近に生息していた獣達の数も激減している。
セフィーロの言っている事は、魔族と人族になっているが、前世で言えば領土争いの戦争と同じだ。
もっとも、俺の知っているのは人間同士だったが……。
「魔物が少なくなると、何か影響があるのか?」
「あるわよ。今、生きている人族は知らないでしょうけどね」
「それは何だ?」
「残念だけど、それは教えてあげる事は出来ないわね。私は魔族なのよ」
そうだった。普通に会話をしていたので、忘れていたがセフィーロは吸血鬼族なので、魔族だった。
「ヒントはあげるわ」
セフィーロは、そう言うと顔の横で指を二本立てた。
「一つ目は、紅月」
俺は、その言葉に聞き覚えがあった。
以前にアスランから、「魔族が活発になる」とも言われている世界を紅く照らす月の事だ。
「月が二つになる時期の事か?」
「えぇ、そうよ。正確には紅月の力が増す時期の事よ」
俺はアスランから、その時期が何時なのかまでは聞いていない。
「その時期は分かるのか?」
「えぇ、勿論。でも、それを教えるつもりは無いわよ」
その紅月が出現する時期が、数か月後なのか何十年先なのか……。
しかし、アスランの話しぶりを思い出すと、今迄にも経験したような感じだった気がする。
こんな時に【全知全能】があればと思う。
「二つ目は、魔王を作ろうとしている者が居るわね」
「それはプルガリスの事か?」
「さぁ、そこまでは分からないわ。私もアマンダを処分した時に、情報を得ただけだから」
アマンダ?
確か、セフィーロの家から魔香炉を盗み、人族のランドレスと組んで村人で実験をしていた。
最後は、セフィーロの手によって消滅させられた。
俺はセフィーロに詳しく話を聞こうとする。
しかし、セフィーロはそれ以上の事を話してはくれなかった。
「騙されたあの子が悪いのだけど、そそのかした者を許す程、私は優しくないですしね」
俺に手を出すなと言っているのだろうか?
「師匠~!」
ネロが手を振って、飛んで来た。
後ろにアルも居る。
どうやら、吸血鬼族にババ抜きのルールも教え終わったようだ。
「ゴンド村に帰るの~」
「どうしたんだ、突然?」
どうやら、ゴンド村の村人達に『ババ抜き大会』の事を伝えたいらしい。
俺の要件も殆ど済んだので、セフィーロに礼を言う。
「又、いつでもいらっしゃい」
セフィーロは笑顔で俺達を見送ってくれた。
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