第716話 ネロの故郷!
シロとクロ、それにアルとネロの五人で、ネロの故郷まで来ていた。
俺が、アルとネロに連絡を取ると、別々の場所に居たのでゴンド村まで来て貰うように頼む。
ジークを守ってくれた礼を直接言うが、あまり関心を示さなかった。
世間話をしていると、ネロが吸血鬼族の里に戻るという話になる。
「そうなの~、師匠とアルも一緒に行くの~!」
ネロが名案でも閃いたかのように叫ぶ。
「うん、面白そうじゃ」
アルもネロの意見に賛成のようだ。
俺に拒否権は無いので、強制連行となる。
ネロの【転移】で吸血鬼の里の景色に変わる。
洞窟だった……。
考えてみれば、陽の光を苦手とする吸血鬼なのだから当たり前だ。
ネロが戻った来たと知った吸血鬼達が集まって来た。
アルは顔見知りのようで、吸血鬼達と馴染んでいた。
残った俺達は言葉を掛けられるまで、その様子を見ていた。
「そういえば、師匠の紹介がまだなの~」
ネロは俺を自分とアルの師匠だと、里の吸血鬼達に伝えた。
そして、自分たちと同じ魔王だという事も。
「又、魔王だ!」
吸血鬼達は驚くことなく、俺達を迎え入れてくれた。
まぁ、この世界でも最強の一人であるセフィーロの保護下で生活していれば、恐れる存在でも無いのだろう。
それにアルと面識があれば、そこまで怖い存在だとは思っていないのかも知れない。
「思ったより少ないんだな」
俺は吸血鬼達を見て思った事を口にする。
「まぁ、吸血鬼達は、子を産むという事が出来ぬから当たり前じゃろう」
「子が産めない?」
「そうじゃ。基本的には瀕死の人間族に吸血鬼の血を与える事で、吸血鬼族の血に適合すれば、吸血鬼族になる」
「じゃあ、此処で生活する吸血鬼族も、元は人間族なのか?」
「そうらしいぞ。もっとも、人間族だった時の記憶は無いらしいがな」
アルの説明で思い出した事があった。
吸血鬼族を使った人体実験だ。
不老不死を得ようと、人族が行っていた実験だったが失敗に終わっている。
しかし、吸血鬼の血を混入するだけであれば、失敗する事も無い筈だが……。
「お主の考えている事を当ててやろうか?」
「分かるのか?」
「あぁ、簡単に吸血鬼族になるのであれば、血を混入させれば、よいだけなのに何故、人族の実験は失敗に終わったか? とか考えておるのだろう」
「そうだ」
「与える吸血鬼族の血は、吸血鬼族の長でヴァンパイアロードのセフィーロの血でしか出来ないからじゃ」
「……与える血の問題か」
「そういう事じゃ。セフィーロの血と、他の吸血鬼達の血では、同じ血でも異なるのじゃろうな」
さしずめセフィーロの血が原液で、他の吸血鬼族の血は薄められた血なので効果が無いという事なのだろう。
「しかし、それなら吸血鬼族は皆、ネロのようにセフィーロの事を母親だと言っているのか?」
俺は疑問をアルに聞く。
「その質問には、私が答えてあげるわ」
セフィーロが吸血鬼達の奥から、姿を現した。
「ようこそ、吸血鬼族の里に」
「お邪魔する」
「立ち話もなんだし、私の家まで案内するわ」
セフィーロが現れても、吸血鬼達は普通にセフィーロと接していた。
王族というより村長に近い感覚だった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
セフィーロの家は里の一番奥にあり、洞窟を加工したのか少しだけ高台の上に建っていた。
「どうぞ」
セフィーロは俺達に飲み物を出してくれる。
「変な物は入っていないから、大丈夫よ」
そう言って、セフィーロ自ら飲み物を飲んだ。
「ありがとう」
俺も出された飲み物を飲む。
「それじゃあ、さっきの質問に答えてあげるわね」
まず、吸血鬼族には誰でもなれる訳では無い。
セフィーロが世界を飛び回り、適合可能な人族を見つける。
見つける方法は血の匂いだ。
適合者を見つけたからと言って、必ず吸血鬼族にするという訳でもない。
実際、此処で生活する者達の多くは、争い等で犠牲になった者達が殆どだ。
しかも、セフィーロが本人達に確認したうえで、吸血鬼族となった。
瀕死だろうが、意識がある事が条件のようだ。
当然、合意した記憶も無いので、最初に目覚めた時は本人達も戸惑うそうだ。
吸血行動にも個人差があり、数年に一度の者も居れば、吸血衝動を抑えられずに里を飛び出していく者も居る。
元来、食事をあまり必要としない吸血鬼族なので、一度吸血行動をすれば、何年も持つ。
人族と同じような食事を併用すれば、その期間はさらに長くなる。
しかしセフィーロは、吸血衝動で里を飛び出した者達を止める事はしない。
本人の意思を尊重しているそうだ。
人族も、自分達の欲求を満たす為に、獣を狩って肉を食している。
その行為と何が違うのか?
セフィーロに問われた俺は、即答する事が出来なかった。
何十年かに一度、吸血鬼が騒ぎになるのは、こういった事があるからだ。
「でも、ここ数十年は無いから安心して頂戴。一応、私なりに改善はしているのよ」
セフィーロは、吸血衝動が抑えられない血について、自分なりに研究していたようだ。
現在は、似たような血を持つ者に関して、例え適合者だったと分かっても、同族に迎え入れる事を避けているそうだ。
セフィーロなりに、人族との衝突を避けているのだと感じた。
吸血鬼族の中には、外の世界に憧れる者も居る。
陽の光に弱い者が多いので、里を離れる者達は肌を隠して昼間行動するそうだ。
自分の意思で里を出ていく者を、セフィーロが止める事は無かった。
外の世界に憧れるのは、当たり前だと思っていたからだ。
常日頃から、外の世界は危険が多い事や、この里の場所を決して漏らさない事等と、忠告していた。
それを承知で里を離れる者達は、皆で温かく送り出しているそうだ。
なかには突然、居なくなる者もいるそうだが、セフィーロは「それも自由」と言っていた。
話を聞く限り、放任主義と言えば聞こえが悪いかも知れないが、セフィーロは個人の考えを尊重しているようだった。
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