第715話 魔獣乗り!

 最も頼りにしていた【全知全能】が使えなくなった。

 これは予想していなかった。

 困った事があれば、質問すれば良いと安易に思っていた部分があった事も事実だ。


 使えるスキルが無くなったのであれば、今あるスキルで何とかするしかない。

 代わりになりそうなスキルは無いが……。


 俺は【神眼】を使いながら、街を往来する人々を見ていた。

 アルが教えてくれた寿命ゲージ等も、よりはっきりと見えるように目を凝らす。

 一応、【隠密】で姿を隠しているので、怪しまれる事は無い。


 二時間程、見ていると目が慣れてきたのか、意識しなくても自然と見えるようになった。

 熟練度が上がったのだろうか?

 俺は移動して、魔物討伐している四人パーティーの冒険者を発見したので、観察をする事にした。

 寿命ゲージが残っていても、魔物に致命傷を負わされたら一気に減るのかを確かめたかったからだ。

 『HP』と連動しているので、理論上は同じだと思っている。


 当然、そんな場面に出くわす事は、そうそう無い。

 しかし、毒の攻撃を受けると確かに寿命ゲージの減りが激しくなる事が分かった。


 彼等はランクBの冒険者達だろうと思いながら、戦闘が終わるまで見ていた。

 ぎこちない連携だが、お互いの短所をカバーするように動いている。

 戦闘も終わり、コアの回収でもするのかと思ったが、毒状態になった仲間二人を気に掛けていた。

 どうやら、毒消しのアイテムを持っていないようだ。


「大丈夫か?」


 俺は【隠密】を解き、冒険者達に近寄る。


「仲間が毒に侵されて……」


 今にも泣きそうな表情だった。

 毒に侵された冒険者の顔色も悪い。


「毒消しだ。早く、これを飲ませろ」


 俺は毒消しを渡す。


「ありがとうございます」


 毒消しを受け取ると、毒に侵された仲間に早速、飲ませていた。

 暫くすると、顔色も良くなっていく。

 寿命ゲージも、徐々に増えていった。

 これで安心だ。


「顔色も良くなったようだし、もう安心していいだろう。それに、お前達も疲労しているようだな。これを人数分置いていくから、気が付いたら皆で飲め」


 俺はHP回復薬と、MP回復薬を四人分置く。


「ありがとうございます。あの、お名前だけでも」

「通りすがりの冒険者だ。縁があれば、どこかで又会えるだろう。気を付けて帰れよ


 俺はそう言って去る。

 後ろから、俺に礼を言う声が聞こえる。

 一度、こういう事をやってみたかったので、少し嬉しかった。


 一応、【魔力探知地図】で周囲に魔物が居ないかの確認をする。

 小さな反応は幾つかあるが、彼等なら問題無いだろう。

 問題は、大きな反応があるこれだ。

 襲われれば、彼等では太刀打ち出来ない。

 逃げ切る事も難しいだろう。

 道を間違えなければ、襲われる事は無いと思うが……。


 俺は、このまま去る事が出来ず、大きな反応のあった場所へと移動する。



「どうして、こいつが此処に?」


 大きな反応の正体はアックスビークだった。

 斧のような大きな嘴に、短く太い首。

 そして、地上を素早く移動出来る足に、飛ぶ事が出来ない翼。

 凶暴な肉食系の魔獣だ。

 アックスビークは、十体程の群れで行動する筈だ。

 何故、この場所に一体だけ……。

 俺はもう一度、【魔力探知地図】で周囲の反応を確認する。

 同じような大きさの反応は無い。

 群れと、はぐれたのだろう。

 どちらにしろ、危険なので討伐する事にした。


 アックスビークも俺を敵だと認識したようで、攻撃を仕掛けてくる。

 嘴を武器にして、短い首を上下左右に振り攻撃をして来た。

 俺のスピードであれば簡単に避ける事が出来る。

 少し距離を取ったかと思うと、翼を広げて羽ばたかせる。

 風を起こして羽が飛んできた。

 翼の羽は硬度が高いらしく、羽を受けた木の枝は折れていた。


 近距離と中距離用の武器を持っているのだと、冷静に分析しながらシロと作った魔獣図鑑に書いてあった事を思い出す。

 しかし、名前しか思い出す事が出来なかった。


 俺は【神速】で移動して、アックスビークの上に乗り、首を掴む。

 アックスビークは俺を落とそうと、必死で暴れる。

 俺も落とされないように必死でバランスを取る。

 思った以上に面白い。まるで、ロデオだ。

 問題は、足の部分の羽が固いのが気になる。


 十数分の激闘の末、俺は振り落とされることなくアックスビークが倒れた。

 今度、アックスビークを見つけたら、アルとネロにも教えてやろうと思った。

 二人が喜ぶかは分からないが、俺が楽しかったのだから二人も楽しんでくれるだろうと感じていた。


 とりあえず、アックスビークが暴れないようにして、【隠蔽】で人目に付かないようにした。

 暴れない事を確認してから、【魔力探知地図】で広範囲の反応を見る。

 数十キロ先に、同じような大きさの反応を幾つか発見する。

 多分、アックスビークの群れだろう。

 ここで、アックスビークを殺す事も出来るが、群れから離れたのであれば可哀そうな気もする。

 俺は、このアックスビークを群れに帰す為、群れのいる場所まで【転移】した。


 突然、俺が現れた事で敵意をむき出しにするアックスビーク達。

 俺は【隠蔽】を解いて、群れから離れたアックスビークを出す。

 アックスビーク達は叫び声を上げる。

 俺は【念話】で「仲間を見つけたから、届けに来た」と伝える。

 アックスビーク達は、俺の声に驚くが仲間が戻って来た事には間違いないと思ったのか、攻撃はしてこなかった。

 次に会う時は、敵だと思いながら、そのまま去る事にした。

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