第714話 神との面談!

「本当にタクトは優秀だよね。選んだ私も、流石って感じだよね」


 嬉しそうに話をするエリーヌ。


「まぁ、慈愛の神ってのも地味だけど、私には合っているしね」


 自分の名が、世界に広まって認知されている事が嬉しくてしょうがない様子だ。


「二つ名は、慈愛の神で決定したのか?」

「うん。これだけ、エクシズの人達に認知されれば、確定したのと同じだよ。私も二つ名持ちの神になったんだよ」

「……嬉しそうだな」

「当り前じゃない。同期の中で、一番最初に二つ名持ちになったんだよ。同期の羨ましそうな顔や、悔しそうな顔をタクトにも見せてあげたかったわよ。まぁ、エリートの私だから当然の結果なんだけどね」


 ……俺が頑張ったおかげだと思うが、俺を選んだエリーヌの功績は否定出来ない。


「それを言う為に、わざわざ呼び出したのか?」

「違うよ。タクトが落ち込んでいるだろうと思って、元気付けてあげようと思ってね」

「俺が落ち込んでいる?」

「うん。だって、そうでしょう。王女様達を生き返らせた事で、皆の記憶から存在を忘れられてからのタクトって、いい事が無かったでしょう?」


 改めて、言われてみれば確かにそうだ。

 シャレーゼ国の反乱や、黒狐の討伐……気分が悪くなる出来事ばかりだった。


「珍しく、俺の事をよく見ていたんだな」

「当り前でしょう。私はエクシズを管理する神だよ」


 いやいや、いつも俺の存在を忘れていただろうが。


「もう、嫌になった?」

「何がだ?」

「エクシズでの生活だよ」

「嫌ではないな。というより、そんな事を考えた事も無かった」

「良かった。タクトのバロメーターがかなり下がっていたから、心配したよ」

「俺のバロメーター?」

「あっ……」


 エリーヌは明らかに失言した表情をしている。


「何だ、そのバロメーターってのは」

「いや、あのね。使徒の状況を把握する為の値だよ。見た目だけじゃ分からない事も多いしね」


 話し方も早口になり、明らかに動揺している。


「これは極秘事項だから、モクレン様やアデム様には絶対に内緒だからね」

「極秘事項ね」


 俺は笑う。


「お願いします。秘密にしておいて下さい」


 俺の笑いが不敵に思えたのか、エリーヌは低姿勢で頼んできた。


「大丈夫だ。話はしない」


 俺が話したところで、状況が変わる訳でもない。

 逆にエリーヌの立場が不利になる方が後々、面倒なことになる気がしていた。


「良かった」


 エリーヌは、安堵の表情を浮かべる。


「じゃあ、本題に入るね」


 本題? 今迄の話は、本題じゃないのか?

 どうやら定期的に、使徒に対して評価を伝える必要があると、新しく決まったらしい。

 普通の使徒は、頻繁に神と連絡が取れないので、面談してフォローする事になったそうだ。

 神の世界でも、働き方改革でもあったのかと聞きたい気分だった。

 俺が聞かなくても、ガルプの悪行は神の中でも、かなり問題視されていたようで、中級神のモクレンや、上級神アデムも管理不行きの責任を取らされて、罰を受けたそうだ。

 幸か不幸か分からないが、後任であるエリーヌの使徒になった俺の働きは、他の世界に比べてもかなり評価が高いらしく、ガルプでの反省を生かしていると思われているそうだ。


「えーっとね。タクトの評価だけど、六十七点だね」


 点数を聞かされても、それが高いのか低いのか分からない。


「他の世界の使徒達と比べて、どうなんだ?」

「高いよ。平均で四十点台だからね。因みに、この評価は私だけじゃなくて、中級神様以上の方達の評価なの。だから凄い値だと思うよ」

「そうなのか?」

「うん。今期では他を圧倒して一番の点数だよ。まぁ、私のおかげもあるけどね」


 お前は何もしていないだろう。

 そもそも、神の関与は禁止されているってのに、矛盾していないか?


 その後も、エリーヌから評価点について色々と聞かされた。

 神と使徒が話をすることで、使徒が神の意志に基づいた行動をする事に関しては、直接関与している訳では無いという解釈らしい。


「マイナスなのは、人を殺しすぎている事かな」

「悪人でも駄目なのか?」

「そうだね。私達神の中にも、殺害等を好まない神も居るからね。悪人だろうと殺さずに、その世界の法律に基づいて罰を与えるのが原則なんだよね」

「俺の場合は、犯罪者として国に差し出して、処刑になれば問題無かったという事か?」

「そういう事。タクトが直接、手を下した事が問題のようだね」

「そんな事を言っていたら、被害が大きくなったかも知れないぞ」

「分かっているよ。だから、これは一つの考えなんだよ。被害を最小限にしたと褒める神だっているんだよ」

「なるほど。神もそれぞれの考えがあるって訳か」

「難しいよね。私は、タクトの好きなように行動してくれていた方が楽なんだけどね」

「楽って何だよ」

「そのままだよ。タクトが悪い事をするとは思っていないからね。信頼しているってことだよ」

「じゃあ、俺はこのままで良いって事か?」

「うん、そうだよ」


 まぁ、変われと言われても変われるものでもない。

 とりあえず、エリーヌの意志は分かった。


「次が問題なんだけど」

「まだあるのか?」

「うん。私が与えた【全知全能】の恩恵ね」

「それが問題なのか?」

「問題というか、大問題になっちゃってね……」


 神たちの間で、【全知全能】について大きく議論されたそうだ。

 使い方次第では、世界を混乱に陥れる事も出来るし、神への反逆も可能な恩恵だと思われたからだ。

 今でこそ、質問内容が的確で無い場合は、回答が無い。

 しかし、最初に比べて使い勝手が分かってきた俺は、【全知全能】をそれなりに使いこなせるようになっていた。

 完全に使いこなせれば、無敵の恩恵という事なのだろう。


「まぁ、私もこんな恩恵をタクトに与えた事で、かなり叱られたんだけどね……」


 そもそも、最初に恩恵を貰う時に、恩恵の条件として「世界に影響が無い事」とエリーヌは自分で言っていた。

 俺が言葉巧みに誘導して得た恩恵だ。


「それでね、タクトには申し訳ないんだけど、【全知全能】は使用禁止という事で決定したんだ」

「使用禁止だって!」

「ごめんね。こればかりは私の力で、どうこうなる話じゃないんだよ」


 エリーヌで、どうこうなる話ではない事くらいは、俺にだって分かる。

 しかし今迄、幾度となく便利な恩恵だと思いながら使っていた【全知全能】が使えなくなるというのは、厳しい。


「代わりの恩恵が貰えるのか?」

「それは今、協議中みたいだね。【全知全能】の下位互換なのか、無しなのかも分からないんだよね」


 最初に【全知全能】を授かった時、俺は対価を支払っていない。

 エリーヌの方から、無償で授けてくれた恩恵だ。


「それで何時から使用禁止なんだ?」

「今から。と言うよりも、もう使えなくなっていると思うよ」

「そうか……」

「まぁ、悪い話ばかりじゃないから、安心して」

「俺の【呪詛】が無くなるのか?」

「えっ! ん~近いかな」

「本当か!」


 正確には【呪詛】では無かった。

 冥界の神オーカスに、支払った代償だった。

 生き返らせたのが王族という事もあり、自分の事より世界の事を考えたと評価する神も居たそうだ。

 そして、まだ誕生したばかりの命を救った事も評価された。

 出された結論は善い行いを積み重ねれば、いつかは戻るかも知れないという事だった。

 それがどれ位なのか、何年なのかは分からない。

 もしかしたら、何百年後という事だってあり得る。


「オーカス様は反対しなかったのか?」

「どうだろうね。そこまで詳しくは聞いていないからね」


 とりあえず、俺との記憶が戻る可能性があるという事が分かっただけでも、希望が持てる。

 神なので嘘はついていないと思うが……。


「因みに、悪い事をしたら当然、善い行いからマイナスされるみたいだよ」

「そうだろうな」


 当たり前の事だろう。分かっていたので、特にショックも無かった。

 エリーヌから最後に、俺が朝の祈りを最近していないと文句を言われた。

 確かに、ここ最近多忙だったので、忘れている事が多かったのも事実だ。

 俺はエリーヌに謝罪して、今後は気を付けると言う。


「じゃあ、頑張ってね」

「あぁ、ありがとうな」


 エリーヌと笑顔で別れた。

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