第717話 ババ抜き大会!

 セフィーロの話は退屈することなく聞けた。

 吸血鬼の長としての立場から話をするが、俺が疑問に感じた事を質問すれば、きちんと回答をしてくれる。

 立場が違う事と、この世界で暮らしてきた年月の違いだろう。

 セフィーロも、俺の言い分を真っ向から否定するわけでない。


「お主等は、何を難しい話をしておるのじゃ」

「そうなの~、暇なの~」


 俺とセフィーロの話が、あまりにも退屈だったのか、アルとネロが会話に入ってきた。

 俺としては、もう少しセフィーロと話をしていたかったが、連れてきてもらったネロを放っておく訳にもいかない。


「そうね。一応、お客様だし、私が独占するのも悪いわね。又、後で話をしましょうか」


 セフィーロとの話を一旦、終える。


「それで、これから何をするんだ?」

「勿論、これじゃ!」


 アルは、トランプを出す。


「ババ抜きなの~」


 ネロも嬉しいのか、はしゃいでいた。


「シロとクロも呼ぶのじゃ!」


 人数は多い方が良いと言うので、シロとクロを急遽招集する。

 シロとクロには、エリーヌとの面談が終わってから、オーフェン帝国の偵察を頼んでいた。

 何事かと駆け付けた二人に対して、トランプの相手と言うのが申し訳無かった。

 シロとクロも、アルとネロからの頼みであれば、断れないと知っているので、ババ抜きの相手をする事になった。

 普通にしても面白くないので、罰ゲームを提案する。


「何じゃ、その罰ゲームとは?」


 俺は最初に勝ち抜けした奴が、負けた奴に命令出来る事を伝える。

 当然、命に係るような危険な事や、到底出来ない無理難題は無しにする。


「それは面白いの!」

「楽しそうなの~!」


 アルとネロの目は輝いていた。


「因みに、アルとネロが勝った場合は、何をさせるつもりだ?」


 突拍子もない事を言いそうだったので、事前確認をする。


「そうじゃの……」

「う~ん、難しいの~」


 アルとネロは悩んでいた。


「シロとクロは、どうだ?」


 シロとクロの二人共、同じ言葉を口にする。


「特にありません」


 これでは、罰ゲームを言った俺が馬鹿みたいだった。


「無さそうなので、少し変える」


 俺は何回かの勝負をして、その勝敗で決着をつける事を提案する。

 スポーツで言う『シーズン戦』のようなものだ。

 参加者は決まっていて、一番成績の良かった者は、称号が手に入る。


「そう、優勝者は次の大会まで『ババ抜き王』を名乗れる」


 アルとネロから歓声が上がる。


「主、宜しいでしょうか?」

「ん、何だ?」


 クロは、『王』をつけると後々、面倒な事になる可能性がある事を言われた。

 確かに、この世界エクシズでは『王』を簡単に名乗る事は出来ない。

 クロから言われて、改めて気付かされた。


「確かに王は駄目だな。他の称号にするか……」


 俺は考える。

 王が駄目なら、チャンピオン。しかし、日本語だと王者になる。

 これも王が付いているので、駄目だろう。


「分かった。これは『ババ抜き名人』だ」


 将棋の事が頭に浮かんだので、名人という言葉が出てきた。


「名人とは、なんじゃ?」


 どうやら、名人という言葉が通じていないようだ。

 俺は前世で、その遊びで一番強い者の称号だと教える。


「なるほど! 確かに、その名人とやらになれば、ババ抜きで世界最強という訳じゃな!」

「世界最強なの~!」


 二人は喜んでいた。


「だから、これはアルとネロで参加者を集めて大会を開いてくれ」

「任せるのじゃ!」

「頑張るの~」


 話が脱線してしまったが、アルとネロが喜んでくれているので良しとする。

 結局、ババ抜きをする事は無く、参加者選びをする事となった。


 アルとネロは、ゴンド村で参加出来る者は全員参加だと話す。

 それ以外だと、ルーカスにイース等の名を挙げる。

 たかだか、ババ抜きをする為に国王と王妃を呼びつける事自体、失礼な事だ。

 しかし、ルーカスはビンゴゲームにも熱くなっていたし、魔王二人からの誘いであれば断れないだろう。

 ルーカスには、サボる理由が出来たので嬉しいのかも知れない。

 アルとネロは他にも、四葉商会の面々も誘うつもりらしい。


「俺は出ないからな」


 俺の参加が当たり前になっていそうだったので、不参加を伝える。


「何故じゃ!」

「なんでなの~」


 アルとネロは不満そうだった。

 理由は幾つかあるが、俺との記憶が消された人族が多い為、俺がしゃしゃり出ると参加者の中には、不信感を持つ者も居るかも知れない。

 なにより、俺自身が俺の事を知らずに話し掛けてくる事に、気持ちの整理がついていない事もある。

 慣れないといけない事だとは、分かっている。

 こればかりは、時が解決してくれる訳では無い事を知っていた。



 正式な大会名称は『ババ抜き大会』。そのままの大会名だ。

 開催地は、ゴンド村に決定する。

 結局、シロとクロが司会や運営を手伝いする事になり、俺は裏方という事で話がまとまる。

 まぁ、不正が行われないように監視する名目もある。

 しかし、アルとネロの方が、そういった能力は上だろうし、魔王相手に不正する命知らずが居るとも思えない。

 アルとネロは、商品だとかも必要かと聞いてくるので、優勝者の証である置物だけ用意すればよいだろうと言っておいた。

 俺の知っている、俗に言う『トロフィー』という物だ。

 トロフィーは、ゴンド村に居るドワーフ族のトブレにでも作って貰えばいい。


 アルとネロは目標が出来たのか、ババ抜きをすぐにやると意気込んでいた。

 大勢でやるのであれば、吸血鬼族にババ抜きを教えた方が、より強くなれるかもしれないと言うと、アルとネロは吸血鬼族にババ抜きを教えに行った。


 シロとクロを呼んだのに、結局はババ抜きをしなかった。

 俺は二人に謝罪をして、オーフェン帝国の偵察に戻って貰った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る