第696話 幼馴染への伝言!

 俺の意識が無かった間、シロとクロが警戒してくれていた。

 ステラは自分が攻撃した【煉獄】を邪魔されたと思っているようだったが、怒りの矛先である俺が気を失ったままだったので、その場で俺の意識が戻るまで待っていたようだった。


「どれ位、意識を失っていた?」

「五分程です」

「そうか……」


 俺は体を起こすと、ステラが詰め寄ってくる。


「説明して貰えますか」

「分かっている」


 俺はステラに、ブラクリについて説明をした。

 精神が他人に乗り移る事が信用出来ないのか、俺の言葉を信じて貰えなかった。


「それはブラクリでなく、ジャンが起こした事だという事を、ステラは言っているんだな」

「はい、そうです」

「そうか……その、ジャンからの伝言だ」

「ジャンからの伝言?」

「あぁ、ブラクリに意識を乗っ取られても、ジャンの意識は消失していなかった」

「信用出来ませんね」

「そうかもな。まぁ、聞いてくれ」

「……分かりました」


 ステラ、最後まで心配掛けてごめんね。

 二人で行った花畑で、花冠を作ってまで誓った約束「いつかは僕がステラを守る」。

 約束も守れずに、やっぱり僕は泣き虫ジャンのままだったよ。

 君の幼馴染で居れた事は、僕の自慢だ。

 これからも僕の自慢のステラで居てね。

 さようなら、最高の幼馴染ステラ……。


 俺が伝言を伝えると、ステラは顔を伏せたままだった。

 ステラとジャンしか知らない思い出。

 俺の言葉が嘘では無いと分かったのだろう。


(御主人様)

(どうした?)

(ステラ様を一人にしてあげましょう)

(そうか、分かった)


 俺はステラに周囲を確認してくると伝える。

 シロはステラの側に居て貰う。


 俺が居るので、泣きたくても泣けなかったのかも知れない。

 こういう所に気が回らないのは、自分でも情けない。

 こういった状況判断は、経験から分かるものなのだろうか?

 それとも持って生まれた性格なのだろうか?



 クロに周囲の確認をして貰い、俺は黒狐の残党と黒狐を抜けた者達をどうするか、自分なりに考えてみる。

 まず、黒狐の残党の数を【全知全能】に確認してみる。

 全員で六十三人だ。思っていたよりも多い。

 国毎に確認すると、エルドラード王国に四十八人、オーフェン帝国に十二人、そしてシャレーゼ国に三人。

 この人数に抜けた者が含まれているかを確認すると、「含まれている」と【全知全能】は回答する。

 エルドラード王国はルーカス次第でどうにかなると思うが、オーフェン帝国に関しては勝手に動く事は出来ない。

 それに、シャレーゼ国の三人。

 港町プレッツに住んでいる、ララァとタラッシュの他に、もう一人……。

 基本、人間族しか認めないシャレーゼ国に黒狐人族が居るのは考えにくい。

 隠れて生活するのも容易ではない筈だ。


 次に、黒狐を抜けた者の居場所の確認だ。

 抜けたから過去の行為が精算される訳では無い。

 質問を変えて【全知全能】に確認する。

 エルドラード王国に二人と、シャレーゼ国に二人だ。

 王都からかなり離れた村に居るそうだ。

 村に長期滞在すれば、黒狐に見つかる可能性が高いので、居場所を転々と変えているのかも知れない。

 ステラの気持ちが落ち着いたら、どうするかを確認する事にするつもりだ。

 先程の感じでは、殺すとも言いかねない……。


 クロから怪しい者等は居ないと連絡が入る。

 俺の【結界】があるので、周囲に被害は及んでいない。

 もう少し、落ち着いたら【結界】を解除するつもりだ。

 シロからもステラの様子が戻ったと連絡があったので、クロと戻る事にする。



 俺の姿を見るが、ステラは目線を合わせようとしなかった。

 先程の俺の態度が、まずかったのだろうか?


「……有難う御座いました」


 小声でステラが、俺に礼を言う。


「それは黒狐を壊滅状態にした事か? それとも、ジャンの事か?」

「両方です」


 ステラは小声で返す。


「疲れているなら、回復するぞ?」

「いいえ、大丈夫です」


 先程とは違い、はっきりとした声で話している。


「そうか、とりあえず黒狐の集落に居た者達に話を聞くか?」

「そうですね。黒狐ではないにしろ、協力者の可能性もあります」

「確かに」


 俺はクロに影から四人を出して貰う。

 影から出た四人は、いつものように状況が分からないでいる。

 狐人族で大人の女性が三人と、男性が一人だった。


 俺もステラも何も言わないので、敵だと思っているのか怯えていた。


「ステラ。説明してくれるか?」

「私で良いのですか?」

「俺よりも説得力があるだろう?」

「そういう事であれば、分かりました」


 ステラは四人に向かい、自分がエルドラード王国のルーカス国王直属である護衛衆の一人である事を伝える。

 冒険者のギルドカードを見せる。

 ステラがランクSSSだと分かると、安堵の表情を浮かべる。

 しかも護衛衆で、この国に一人しか居ない『賢者』だ。

 ステラの知名度は抜群だ。


「後ろの者達は、私の仲間ですので安心して下さい」


 この言葉で、俺を警戒していた四人も安心したようだ。

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