第697話 強化薬と黒い玉!

「貴方達が、此処にいた理由を御教え願いますか?」


 ステラの問いに、四人はお互い顔を見合わせる。

 代表して男性が口を開いた。


「その、私達も突然連れてこられたので……」

「四人は御仲間ですか?」

「いいえ、私は違います」


 男性は首を横に振り、女性三人の方を見る。


「私達も違います」

「はい」

「そうです。私達三人は数日ですが、牢に閉じ込められていました」


 どうやら、知り合いという訳ではないようだ。


「そうですか。では個別に御聞きしますので、答えて頂けますか?」


 四人とも頷く。

 ステラは四人から話を聞く。

 余分な事は話さずに、要件のみを聞き出していた。

 話し辛い事は、深く聞かない。

 丁寧な言葉が使えるのが、本当に羨ましい。



 話を聞き終えるが、別々の場所で捕らえられて、此処まで連れてこられたようだ。

 四人の共通点は、自分の住んでいた村を黒狐に滅ぼされた事だ。

 但し、女性三人は七尾だ。

 因みに男性は六尾になる。


「此処に連れてこられた理由は分かりますか?」


 続けて、ステラが質問をする。

 女性達は、詳しくは分からないが、頭目の子を産ませるような事を聞いたと言っていた。

 男性は、「実験に使用するから傷をつけるな」と言う言葉を聞いたと証言する。


「何の実験かを聞いたか?」

「いいえ、そこまでは……」


 実験と言う言葉に反応した俺は、男性に詳しく聞こうとしたが、怖がらせてしまったようだ。


「貴方は黙っていてもらえますか?」

「分かった」


 ステラからも叱られる。


「貴方達は今後、どうされるおつもりですか?」

「とりあえずは、近くの村か町に行こうかと思います」

「そうですか……王都でも宜しいですか?」

「そ、それは勿論です」


 村などに比べれば王都には、それなりの仕事がある。

 新たに生活するのであれば、王都の方が良いとステラは判断したのだろう。


「ステラ様、有難う御座います」


 四人はステラに礼を言う。

 ステラは俺の方を一瞬見たが、俺が頷くと意味を理解した。


「分かりました。皆様を王都に御連れしますが、此処での出来事や王都までの移動の事は絶対に秘密で御願いします」


 四人はステラに決して、口外しないと約束する。


「では、行きますか」


 ステラが出発しようとするので、俺はこの村をもう少しだけ探索させてくれと頼む。


「いいでしょう。私は、この方達から、もう少し御話を伺います」

「悪いな」


 俺は先程、男性が発した『実験』と言う言葉が、気になって仕方が無かった。

 シロはステラと一緒に居てもらうとして、クロには黒狐が使っていた強化薬を集めて貰う事にした。

 ステラから王都魔法研究所に調査して貰えれば、成分等が分かるだろう。

 俺は【全知全能】で勝手に調べるが、王都魔法研究所に調べて貰った方が良いと思った。

 王都魔法研究所のお墨付きであれば、誰もが納得する筈だ。


 村の大半が破壊されている為、あるかどうかも分からない実験施設を探すのに難航する。

 クロが、それっぽい家を発見したと連絡してくれた。

 俺はクロの教えてくれた場所まで移動する。


 その場所は、他の家とは造り自体が違う。

 この家は医療施設のようだ。

 元々、村にいた治療士の家のようだが……。

 此処に住んでいた治療士を殺して、施設だけ利用しているのか、黒狐人族の体にある紋章の場所が書かれていた。


「紋章の場所に意味があるのか?」


 俺はその人体図を見ながら考えていた。

 紋章の位置に大きさ等により、何か効力が違っていたのだろうか?

 この人体図だけでは分からない。

 やはり、ブラクリと関係があった老婆が、何か知っているのだろう。


 色々と調べてみたが、人体図以外に怪しい物は無かった。

 クロが合流して、この部屋に多量の強化薬があった事を教えてくれる。


「これだけ集める事が出来ました」


 クロは集めた強化薬を見せてくれる。


「思っていたよりも多いな……」

「はい。大半は、この部屋にありました」

「他に気になった事はあるか?」

「そうですね。これを見て頂けますか?」


 クロは箱を俺に差し出す。

 この嫌な感じには覚えがある。

 間違いなく『魔素』だ。

 箱を開けると、『黒い玉』が入っていた。

 人族を魔人にする事が出来る物だ。

 やはり、黒狐の使っていた『強化薬』と、『黒い玉』は同じ物なのだろうか?

 しかし、強化薬から魔素を感じる事は無い。

 量の問題なのだろうか……。

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