第695話 黒狐との戦闘-8!

 俺はジャンに、「どうやって、ブラクリになったのか?」と聞いた。


 ブラクリに精神を奪われると言う事は、先代のブラクリを殺す必要があったからだ。

 ジャンは悔しそうに話し始めた。

 村を黒狐に襲撃された際、家の片隅で小さくなって泣いていた所、黒狐達に見つかる。

 連れて行かれると、大人達は全て殺されて、自分を含めて数人の子供が集められていたそうだ。

 先代ブラクリは、子供達をじっくりと見て、目の前で仲間の黒狐を殺す。

 ジャン以外の子供達は泣き叫ぶが、ジャンは目の前の出来事が信じられずに呆然としていた。


「……こいつでいいか」


 先代のブラクリが、ジャン以外の子供を殺してジャンを連れて別の場所へと移動する。

 既にブラクリの体は、色々な箇所が悲鳴を上げており、今回の襲撃でも思うように体を動かせ無いと感じた為、長く使える体を急遽探す事にした。


 ジャンの手に刃物を握らせて、刃先を自分の首に当てる。


「おい、今なら俺を殺せるぞ」


 先代ブラクリの言葉はジャンに話すが、刃物を持つジャンの手は震えて、呼吸は荒くなっていた。


「そんな事では死んでいった奴らも、無駄死にだな。所詮は、生きていても無駄な奴だから殺されたんだろう」

「うわぁぁぁぁ!」


 先代ブラクリの煽り文句に、ジャンは刃物で先代ブラクリの首を切りつけた。


「そうだ。やれば出来るじゃないか」


 死んで行く先代ブラクリは笑っていた。

 ジャンは震えながら、ただ見ていることしか出来なかった。

 完全に息絶えたと思うと、頭の中で誰かが話しかけてくる。

 必死で抵抗するジャンだったが、気が付くと自分でない誰かに体を奪われていた。


「これは、思った以上に馴染む体だな」


 ブラクリはジャンの体を動かしながら、隅々まで動作を確認する。


「最後の仕上げだな」


 ブラクリは右手を左胸に当てると、一気に何かを押し込む。

 その瞬間、意識だけのジャンだったが、強烈な痛みを感じた。


「これで完全体だ」


 ジャンは入り込んでくる意識の中で、左胸に里を襲った黒狐の紋章が出来た事を感じる。

 そして、自分の尾が九尾になっている事も同様に感じた。

 その後も、必死で叫ぶジャンだったが、ブラクリに届く事は無く、自分の体の中に幽閉されたかようだった。

 外部からの情報は入るが自分の思いは外部に伝わる事が出来無くなっていた。


 黒狐の仲間の所に戻ると、頭目であるブラクリの姿は無く、連れて行った子供だけが現れたので、仲間達は警戒する。

 警戒する仲間達を見渡すと、ジャンの姿になったブラクリが宣言をする。


「今から俺が黒狐の頭目だ。文句のある奴は掛かって来い」


 見た目こそ違うが口調や、雰囲気は先代ブラクリに似ていた。

 数人が納得せずに襲い掛かる。

 大人と子供の体格差はあるが、襲いかかってきた者達を簡単に殺してしまう。

 この事で誰も逆らう事は無く、ジャンの姿になったブラクリを頭目と認める事になる。


 ジャンの体とブラクリの精神の相性は良かったのか、力も今迄以上に強くなり、組織としても順調に勢力を伸ばして行った。



 俺はその後も、黒狐の情報をジャンから聞く。

 依頼は各街や村にいる者から連絡が入る為、依頼主の名を実行部隊は知らない。

 紋章については、年に数回拠点を訪れる老婆に施術して貰うが、老婆の事はブラクリ以外は知らない事。

 そして、黒狐の使う強化薬についても、老婆がその時に大量に置いて行くそうだ。

 俺はジャンから話を聞き、ブラクリの方を見るが既に、黒ローブの者達に連れて行かれたようで、姿が見当たらなかった。

 俺の近くに居た黒ローブの者を呼び、ブラクリともう一度、話をしたい事を告げるが断られる。

 何度も頼んでみたが、駄目だった。

 こんな事なら、ジャンからの話を早く聞けば良かったと後悔する。


 しかし、老婆の存在が気になる。

 第五柱魔王プルガリスか、その仲間の可能性もある。

 黒狐が滅んだとはいえ、代わりの種族や組織が黒狐に代わる事も考えられる。


「ステラに伝言を頼んでもいいですか?」

「はい、構いません」


 ジャンは恥ずかしそうに、俺にステラへの伝言を話す。

 短い文章ではあるが、ステラとの思い出等が詰まっている。

 ステラとジャンしか知らない事もあるので、俺が話したとしても疑われる事は無いだろう。


「有難う御座いました」

「必ずステラに伝えます」

「御願いします」


 ジャンは思い残す事が無くなったのか、すっきりとした表情をしていた。

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