第694話 黒狐との戦闘-7!
ステラの魔法攻撃に、ブラクリも魔法攻撃で対抗していた。
魔法詠唱しないステラの魔法に対しても、ブラクリは対応している。
戦闘を見ていると一見、押しているように見えるステラだが、ブラクリは楽しんでいるようにも見えた。
ステラは中距離から遠距離の戦闘は得意だが、近距離戦は不得意だ。
距離を詰めようとするブラクリに対して、距離を詰めさせないようにするステラ。
ステラも一度、近距離戦になれば自分に勝ち目が無い事は分かっているのだろう。
しかし、ステラの攻撃で出来た土埃や爆炎を上手く利用して、飛び道具で攻撃をして距離を一気に詰める。
ブラクリがステラの近くに来た瞬間、地面から炎が立ち昇りブラクリを直撃する。
ステラは後ろに下がり、ブラクリとの距離を確保する。
地面からの炎は、戦闘の最中にステラが仕込んだのだろう。
近距離戦対策も、きちんと出来ているようだ。
流石は賢者だと感心する。
「これは、参ったな」
炎が消えると、全身に火傷を負ったブラクリが立っていた。
しかし、火傷と言っても炎の勢いからすれば、信じられない程の軽症だ。
「流石は国王直属だけはあるな」
ブラクリは笑っていた。
「そんな魔法で、俺は殺せないぞ」
「そんなに死にたいのでしたら、お望み通りの魔法を使って差し上げます!」
余裕の表情でステラを煽る。
ステラは俺の言葉通り、殺さない程度の魔法を使っている。
俺は、ブラクリの言動で確信する。
ブラクリは、ステラに殺される事で、ステラに乗り移るつもりなのだろう。
その事実を知っている俺を殺してしまえば、何も知らないルーカスに近付く事が可能になる。
それはエルドラード王国を簡単に乗っ取れる事を意味する。
俺は【念話】でステラに再度、「絶対に殺すな!」と念を押す。
しかし、ステラは冷静さを失っているのか、詠唱を続けていた。
ブラクリは笑いながら、詠唱が終わるのを待っている。
こうなっては仕方が無い。
俺は【オートスキル】から【魔法反射(二倍)】を外して、ステラの詠唱が終わるのを待つ。
「これで終わりです。【煉獄】!」
ステラが魔法名を言うと、地面が割れると、その割れ目から無数の火柱がブラクリを襲う。
空からはブラクリを囲うように光の柵が出来ている。
攻撃を避ける気が無いブラクリは、ステラを見て笑っていた。
やはり、ステラの攻撃で死ぬつもりなのだろう。
俺はステラに申し訳ないと思いながらも、【転移】を使いブラクリの火柱の間に移動をして、ブラクリの心臓を拳で貫く。
ステラの【煉獄】は俺とブラクリに直撃する。
「何故、お前が!」
突然、目の前に現れた俺に心臓を貫かれたブラクリは驚く。
最後の言葉を言い残して、ブラクリは絶命する。
(まぁ、いいだろう。順番が狂っただけだ)
頭の中に声が響く。
ブラクリの精神が俺に乗り移ったのだ。
時間が無いので、すぐに【蘇生】を使い冥界へと意識を移す。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
冥界では、俺の隣で光が飛び回っている。
これがブラクリの本体である精神体なのだろう。
俺が光に触れると、光は本来の姿に変わる。
「此処はどこだ! 俺に何をした」
「ここは冥界だ」
「冥界だと、そんな筈は無い。俺は決して死ぬ事は無い」
「残念だが、それも今日までだ」
ブラクリが俺に襲い掛かろうとすると、冥界の神オーカスの部下である黒ローブの者達が、ブラクリの行動を制限した。
「なっ、なんだ、こいつ等は!」
ブラクリは突然、姿を現したブラクリに戸惑っていた。
黒ローブの者達に文句を言うが、黒ローブの者達が言葉を返す事は無かった。
「もう意識を他人に移す事は出来ない。つまり、死んだと言う事だ」
「う、嘘だ!」
ブラクリは暴れる。
突然訪れた死を、受け入れられないのだろう。
俺は叫び続けるブラクリを無視して戻ろうとすると、光が俺に着いて来た。
その光に触れると、先程まで闘っていたブラクリの姿に変わる。
今は、ステラの知っているジャンと言う青年だろう。
「有難う御座いました」
ジャンは俺に礼を言う。
ブラクリに精神を乗っ取られた状態でも、ジャンの精神が無くなったわけではないので、今迄の記憶は残っている。
自分の体で、非道な事をされているのに。何も出来ない自分が辛かったそうだ。
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