第688話 黒狐との戦闘-1!

 ステラの準備が整った。


「じゃあ、行くぞ」

「はい、御願いします」


 ステラの返事と共に、クロが居る場所の近くに移動する。

 此処からは、【隠密】を使い【飛行】で移動する。

 ステラは俺に抱えられるのが嫌なようなので、シロを介して手を繋ぐ。

 手を離すと【隠密】や【飛行】の効果が無くなるので、危険だと言うとステラはシロの腕にしがみ付いていた。

 俺に触れられるのは、余程嫌なのかと思うと、少しだけ落ち込む。


 クロの位置を確認しながら合流をして、話を聞く。

 最初に襲撃した黒狐の集落では、村襲撃の準備を進めていたそうだ。

 正確には、その村の者を一人殺すだけらしい。

 しかし、目撃者は殺す事になる為、殺人を楽しむ者達は敢えて、殺害する現場を目撃させるそうだ。

 静かに話を聞いていたステラだったが、怒っているのが伝わってくる。

 非道な行いが、昔の事と重なる為、許せないのだろう。


「どうする? 個別に倒すか、それとも一気に倒すか?」

「……一気に倒しますが、捕獲した黒狐人族は何処に居るのですか?」

「あぁ、それは追々説明するが、逃げ出されることは無いから、安心してくれ」

「そうですか、分かりました」

「それと、俺からも聞きたいことがある」

「なんでしょうか?」

「黒狐を抜けている者が居る。その者達は黒狐から命を狙われている立場だが、ステラはそいつ等も殺すつもりか?」

「……その者達に直接会って確認できますか?」

「分かった。その者達を探してみる」


 俺は【全知全能】に黒狐という組織を抜けた黒狐人族が何人いるかを聞く。

 答えは四人。

 俺はその内の二人を知っている。

 シャレーゼ国にあるプレッツという港町に住んでいる、ララァとタラッシュだ。

 残りの二人については調べる必要がある。


 黒狐の集落を滅ぼした後に、任務や諜報活動で集落に居なかった者達をどうするかだ。

 街に溶け込んで生活している奴をいきなり殺すとしても、反対に俺達が犯罪者に間違えられる事も、十分に考えられる。

 この件については、ステラにも意見を聞くと、国王であるルーカスより黒狐の存在を公にして、犯罪者集団と発表する。

 そして、黒狐の証である紋章が刻まれている者を討伐すれば、問題無いと助言を貰う。

 しかし、あくまでもルーカスの協力があっての事となる。

 それに犯罪を証明させる為には、頭目であるブラクリことジャンを生け捕りにした方が効果的かも知れない。

 それをステラが許すかは別だが……。



 陽が落ちると同時に、俺はクロと協力して、この集落にいる黒狐を捕獲する。


「誰だ!」


 黒狐達が俺達に気が付いて、騒ぐ。

 事前に俺が【結界】を張っていたので、逃げ出す事も外部と連絡を取る事も出来ない。

 一人、又一人とクロの影の中へと引きずり込まれていく。

 いや、吸い込まれるといった表現が正しいかも知れない。

 騒がしかった場が、徐々に静かになっていく。

 俺が居なくても、クロひとりで対処出来た。

 俺は逃げ出さないように【結界】を張った事と、囮のように立っていただけだ。

 全ての黒狐達を捕獲した事を確認したので、【結界】を解いてステラ達を呼ぶ。


「こんな感じで、影の牢獄に閉じ込めている」

「そうですか……しかし、本当に一瞬ですね」

「まぁな。俺の仲間は優秀だからな」


 俺は笑顔で答えるが、ステラは表情を変える事が無かった。


「これは、どうなっているのですか?」


 クロの捕獲を見ていたステラは、影に吸い込まれる仕組みに興味を持ったようだ。


「クロのスキルだ。影の中では時間が停止している」

「時間が停止?」

「そのままの意味だ。捕獲された時のままという事だ」

「その陰の中にいれば、永遠に仮死状態のままでいられるという事ですか?」


 俺はよく分からないので、クロの方を見る。


「はい、その通りです」

「素晴らしいスキルですね」

「有難う御座います」

「それは人族にも習得可能なスキルですか?」

「そうですね……主であれば可能ですが、それ以外の方では無理かと思います」

「分かりました」


 自分が習得出来ないと分かったのか、残念そうな表情を浮かべていた。


「じゃあ、次に移動するぞ」

「分かりました」


 そう答えるステラは杖を強く握り、長年の願いが叶う瞬間が待ち遠しいかのような表情をしていた。

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