第668話 逃亡と刺客!
数ヶ月後、二人だけでの仕事があった。
ララァとタラッシュは、どちらが言い出した訳でも無く、逃げる事を決める。
しかし、逃げ出す状況を作り、逃げ出すかどうかを見極める為の仕事だった事は知らなかった。
その事を知らない二人は、対象者を殺害する事無く逃亡を図る。
黒狐からは裏切り者を殺害する為、刺客が送り込まれる。
移動最中は勿論、街中でも襲われた。
逃げるだけだったララァとタラッシュも、刺客を殺さなければ自分達が殺されるのだと思い知る。
しかし、戦闘不能まで追い込むと自害する者も居た。
敵に捕らわれるのであれば、自決する事が黒狐の掟でもある。
徐々に昔の感覚を思い出し、追跡者を殺す事に何のためらいも無くなっていく。
しかし、刺客を殺しても殺しても、次から次へと刺客に襲われる。
自らも傷付き、戦闘を繰り返すうちに黒狐を抜けた事が、良かったのかとさえ思うようになる。
逃亡生活を続けるうちに気付いた事があった。
ララァとタラッシュお互いに、体調に異変を感じる。
手足が震えて、幻覚を見る。
異様な程、喉が渇く。
なにかしらの禁断症状に似ている。
考えられるのは、仕事の前に服用していた『強化薬』と言われる薬だった。
強化薬を服用する事で、身体能力を飛躍的に向上することが出来る。
持続時間は三時間程度だが、強化薬の効果が切れると、激しい倦怠感に襲われる。
ララァとタラッシュは追跡者から逃れるために、必要以上に強化薬を服用していた。
所持していた強化薬が無くなると、殺した刺客から強化薬を奪う。
強化薬が奪われた事を隠す為、死体を燃やしたりして証拠隠滅を図る。
二人は心身共に疲れ果てた状態で、オーフェン帝国へと渡る。
オーフェン帝国に黒狐の刺客は現れなかったが、刺客が現れない事で『強化薬』を手にする事が出来ず、禁断症状に襲われる。
禁断症状を抑える為には、黒狐人族を探して奪い取るしか方法は無い。
そうララァとタラッシュが考えていたが、禁断症状で苦しんでいる所にダルベット達が現れる。
彼等はララとタラッシュが、異常な状態だと気付く。
最初こそ、警戒していたが最終的に彼等を助ける為、治療施設に行く事を提案する。
しかし、通貨が無い事や、出来る限り人との接触を避けようとしている二人は、ダルベットの提案を拒否する。
黒狐の中には、変装を得意とする者も居る為、たとえ狐人族以外でも気を許す事が出来ないでいた。
そこにダルベット達が、ララァとタラッシュの仲間だと思った黒狐が襲い掛かって来た。
強化薬は無く、体調も万全でないララァとタラッシュの二人は死を覚悟する。
しかし、ダルベット達は黒狐を返り討ちにする。
刺客が一人だった事も幸いした。
ダルベット達は殺すのを躊躇ったが、タラッシュが刺客を殺して強化薬を奪おうと、死体になった刺客の服から強化薬を必死で探す。
しかし、刺客は強化薬を持っていなかった。
常習性のある事をしっている黒狐は、刺客に強化薬を最低限しか持たせなかった。
しかも戦闘になる前には、手持ちの強化薬は別の場所に隠す事としていた。
この苦しみから逃れられると思ったタラッシュは、暴れ始める。
止めようとするララァさえ分からなくなっているのか、見境なく攻撃をする。
ダルベット達三人で拘束する。
次第に落ち着きを取り戻すと、姉であるララァに攻撃した事を知り、涙を流した。
「俺達も攻撃されたんだ、事情くらいは教えてくれ」
ダルベットは自分達もララァ達に巻き込まれた為、知る権利がある事をララァに話す。
「聞けば、今以上に危険が及びます」
ララァはダルベット達の事を思い、話す事を断る。
しかし、納得出来ないダルベットは再度、事情を説明する様に言う。
ララァは、この者達が死んでも自分達には関係無いと思いながら話す事を決める。
黒狐人族に黒狐の事、そして自分達の今迄、行ってきた事等を話した。
強化薬についても、全て話す。
「それだけの組織なら、どうして大人数で襲って来ないんだ?」
ダルベットはララァから話を聞いて、疑問に思った事を口にする。
黒狐の中でも、暗殺を生業とする者は多い。
組織を抜けた自分達を殺す事よりも、優先的な仕事があったのだろうと、ララァは答える。
ダルベット達も、オーフェン帝国の諜報機関に所属していた過去がある。
諜報機関と言っても、魔物が現れた際の情報を集めるのが、主な仕事だった。
ローバルとトリンは、当時の仲間になる。
しかし、数年前に情報収集の際に、調査対象の魔物と遭遇する。
魔物と戦闘した際、トリンが大怪我を負ってしまった為、ダルベットとローバルは責任を感じて、トリンと一緒に諜報機関を去った。
今、シャレーゼ国に滞在しているのは、誰かを派遣しなくてはいけないが、諜報機関に所属している者達は多忙の為、ダルベット達に声が掛かったからだ。
不審な者がシャレーゼ国に入国していないかや、シャレーゼ国の内情確認が主な仕事だった。
ダルベット達は、ララァとタラッシュを匿う事にした。
禁断症状が出ると、自傷行為を起こさないように二人の手足を縛る。
その生活は何か月も続いた。
その間、不思議な事に黒狐の刺客に襲われる事は無かった。
ララァ達が死んだと思ったのか、ララァ達の事が後回しになったのかは不明な為、ララァ達は不安な日々を送っていた。
実際には、黒狐は請け負った他の仕事で大きな失敗をして、ララァ達に構っていられなくなった。
体制を整えた後に再度、刺客を送り込むつもりだった。
症状も比較的、落ち着き始めた頃には、ララァとタラッシュはダルベットの仲間になっていた。
その後も徐々に薬が抜けたのか、苦しむ時間が減っていく。
ダルベット達が、オーフェン帝国からシャレーゼ国に仕事で行く事を知ると、同行したいと申し出る。
強化薬が無いと言え、身のこなし等には目を見張るものがある。
仕事の本当の内容は、ララァとタラッシュには伝えずにシャレーゼ国へと渡った。
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