第667話 黒狐!

 ララァとタラッシュは、黒狐人族だと白状する。

 しかし、今は黒狐人族の組織から抜けて逃げているそうだ。

 組織と言うのは黒狐人族で形成されている『黒狐こっこ』。

 生きて黒狐こっこから抜ける事は出来ないらしく、抜ける事イコール死という事になる。

 抜けた者が死ぬまで、刺客を送り続けるそうだ。


 二人はエルドラード王国で深手を負いながら、オーフェン帝国まで逃げ延びた。

 暫くは刺客も現れずに、平和な日々が訪れたと思っていた。

 しかし、数ヶ月後に突然、襲われる。

 二人の居場所がバレたのだろう。

 オーフェン帝国での黒狐人族達との戦闘。

 たまたま、知り合ったダルベット達の協力もあり、表だった攻撃は無かった。

 ララァとタラッシュが、黒狐人族の存在をダルベット達に明かしていない事を、黒狐人族は知っていたので、無理に殺害をする事をしなかった。

 あくまでも標的はララァとタラッシュの二人だ。

 しかし、黒狐人族の存在がダルベットや他の者に知れると、殺害する対象はダルベット達にまで広がる。

 ララァとタラッシュが、黒狐人族の秘密等を洩らしたと考えたのだろう。

 顔見知りや仲間が、徐々に殺害されていく。

 オーフェン帝国でも無差別殺人として問題になったが、今も未解決のままだ。

 その事件に関わっていたララァとタラッシュ。

 それに仲間だと思われているダルベットに、ローバルとトリン。

 厄介者と言ったのは、彼等が居る事でオーフェン帝国に無差別殺人が起きると考えられたからだ。

 黒狐人族は、普通に平民として暮らしている為、見分ける事が難しい。

 体の一部に紋章があるとしても、衣類で隠してしまえば分からない。

 それに、もし紋章を見られても普通の者からしたら、おしゃれで入れた刺青だと思う。

 このエクシズにも、願掛けで刺青を入れる者は、極少数だが居る。

 これは村の風習だったりとする為、偏見等は特に無い。

 俺自身、何度は街で刺青を入れている者を見た事もある。

 刺青柄等を覚えているかと聞かれても、覚えていないと答える。

 黒狐人族の紋章と言われる物も、実際は小さい頃に入れられた刺青だとララァは話す。


 ダルベット達も、いずれ黒狐人族の刺客が現れると思っていたようで、常に見知らぬ者には警戒していたそうだ。

 狐人族だけでないのは、変装を得意とする黒狐人族も居たからだ。


 ララァから黒狐人族の情報を聞き出そうとしたが、彼女達は下っ端の為、詳しい事までは知らないそうだ。

 拠点としていた集落もあったが、去る際には焼却等を行い証拠隠滅している。

 分かっている事は頭目と呼ばれる黒狐人族のトップは『ブラクリ』と言う名を引継いでいるそうだ。

 主に殺し全般を請け負っているそうで、ララァやタラッシュも罪悪感が生まれるまでは、当たり前の事だと思い、何の疑いも無く殺人を犯していたそうだ。


 その時も、いつも通り対象者を殺していた。

 帰ろうとした時に、赤ん坊の泣き声が聞こえる。

 ララァとタラッシュは、そのまま去ろうとしたが、年上の者から殺すように言われる。

 記憶もない赤ん坊、しかも放っておいても死ぬとララァとタラッシュは反論する。

 しかし、全員の殺害と言う依頼内容からすれば、ララァとタラッシュの言葉に意味はない。

 今迄、赤ん坊や子供を自らの手で殺害した事が、ララァもタラッシュも無かった。

 いざ、目の前で殺そうとしたが、殺すことが出来なかった。


「お前等、何をしている」


 そんな二人に失望した仲間が、二人の代わりに赤ん坊を殺す。

 弾け飛ぶ血に、ララァとタラッシュは、言葉を失う。


 集落に戻ったララァとタラッシュは、赤ん坊を殺す事が出来なかった事による罰を受ける。

 殺戮を好む者から罰を受けた事で、必要以上に痛めつけられる。

 ララァとタラッシュの二人が拘束されてから、一週間以上経った。


 ボロボロの状態で解放されたララァとタラッシュ。

 別々の場所で監禁されていたので、お互いの無事を確認出来て安心する。

 数日後、傷が癒える前に次の仕事へと駆り出された。


 しかし、その場でも赤ん坊を殺す仕事だった。

 ララァもタラッシュは、赤ん坊を殺す事が出来なかった。

 頭では分かっているが、体が動かない。

 何かの呪縛にでも掛かっているようだった。

 殺さなければ、集落に戻って罰を受ける事になる。

 そう分かってはいるのだが……。


 その後も、二人は赤ん坊を殺す事が出来なかった。

 ララァとタラッシュ自身も何故かは分からない。

 仲間達は『欠陥品』と二人を罵る。

 次第に二人には、難易度の低い仕事しか回って来なかった。

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