第660話 死者の行進!

 陽も落ち、すっかり暗くなった。

 目視でも数メートル先の知り合いさえ、分からないだろう。


「おーい」


 俺はカンツオ村の入口近くに居る村人に声を掛ける。

 声を掛けられた村人は、新たな獲物が来たと思ったのか、機嫌のいい声で返事をする。


「ここはカンツオ村か?」

「はい、そうですよ。旅の方ですか……って、うわぁぁ!」


 俺だと分かった瞬間に大声を上げる。

 大声に気が付くと、他の村人も集まってくる。

 村人が俺だと分かると叫び声をあげて、逃げていく。


「何をそんなに驚いているんだ?」


 俺は何も知らない素振りをする。

 俺の事は無かった事にしようとしていた割には、驚く村人の姿が滑稽だった。


「どうしたのだ!」


 騒ぎに気付いた村長のアキモがゆっくりと歩いて来た。

 俺を見た瞬間に固まる。

 俺は相変わらず、何も知らない振りをする。


「……その、旅の御方ですか?」

「あぁ、そうだ。村を見つけたので寄らせてもらった。泊まる事は出来るか?」


 俺は白々しく会話を始めた。


「そうですか。生憎と、この村には旅人の方を御泊め出来るような場所は、無いのですよ」


 明らかに俺を警戒していた。

 当たり前だろう、さっき殺した筈の俺が目の前に現れたわけだから。


「そうか、金貨ならあるんだがな。仕方が無い諦めるか」


 俺はそう言いながら、懐から袋を出して口を逆さにして金貨を掌の上に出す。

 村人達の反応が一気に変わる。

 アキモも、その一人だ。


「ま、待って下さい。夜の更けて危険ですので、私の家で宜しければお泊めする事が出来ますが、どうでしょうか?」

「本当か! それは助かる。寝るだけでいいので頼む」

「分かりました」


 村長であるアキモの家まで案内されるが、先程とは違って無言だ。

 他の村人達の反応も違っていた。

 明らかに歓迎されている感じではない。


「そういえば、俺に似た奴がこの村に来なかったか?」

「なっ、何のことでしょうか?」

「いや、この村に来る前の村で俺とそっくりの奴が居たと聞いたからな」

「そうなんですか、知りませんね」

「そうか、残念だな。自分に似た奴と会いたかったんだがな」


 俺は不安を煽るように話をする。



「こちらになります」


 案内された部屋には、少し小さめの一人部屋だった。

 寝るだけであれば、問題ない部屋だ。


「金貨は明日の朝、帰る時でいいか?」

「はい、構いません。どうぞ、ごゆっくりと」


 アキモは部屋の扉を閉める。

 俺は【分身】を出し、既に寝ている態勢を取らせた。

 この村の事なので、今晩襲ってくる事は分かっている。

 だからこそ、宿代を前金で貰わなかった。

 奪えば関係ないからだ。

 俺は【隠密】で、アキモ達と行動を共にして、会話を聞くことにした。


「お前達はどう思う」


 アキモが村人達の意見を聞こうとする。


「別人だろう。死んだ奴が蘇るわけがない。それにあいつも自分にそっくりな奴がいると言っていただろう」

「そ、そうだ」


 多くの者は他人の空似という事で、自分達を無理やり納得させるようだった。

 改めて村人達を見ると、子供が居ない事に気付く。

 そう考えれば、先程の穴にあった子供の骨は、この村の住人だったのだろうか?

 それとも生活苦から、子供を産まないという選択肢を選んだのかも知れない。

 どちらにしろ、俺には関係のない事だ。


 俺は死体が捨てられた穴に移動して、【死霊召喚】を使う。

 ロッソは一言【死霊魔法】といったが、これは【火系魔法】等と同じ大きな括りで、実際は【魂寄せ】や【魂魄操作】等に分かれている。

 俺のステータスには新たなスキルが追加されていた。

 俺的には『魔法』というより、『魔術』という言葉のほうが、しっくりくる気がしていた。


 俺は【分身】を解除して、スケルトン軍団の先頭を歩く。


「うわぁぁ!」


 スケルトン軍団に気が付いた村人が大声で叫び、慌てふためく。

 スケルトン軍団は殺された恨みを独り言のように呟いていた。


「なっ、なんなんだ、あれは!」


 騒ぎに気付いたアキモ達もスケルトン軍団と遭遇する。

 村の外へと逃げようとする村人達だったが、俺が前もって【結界】を張っておいたので、俺以外は出る事が出来ない。

 何人かの村人が武器で応戦するが、先頭の俺がそれを全て防ぐ。


「昼間は世話になったな」


 村人達に笑顔を振りまく。


「自分達が何をしたか、思い出してみろ」

「うっ、うるさい!」


 俺は村人達に笑顔を崩さずに話すと、【隠密】を使い姿を消す。

 スケルトン達は村人達を襲わずに、恨みを口にし続ける。

 破壊されても蘇る。

 骨をどれだけ細かく砕こうが、再生してしまう。

 この催しは夜通し続いた。

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