第659話 新しい魔法?

「よいしょっと!」


 俺の分身は掘られた穴に投げられる。

 穴に複数の白骨化した人骨がある。

 幾つか獣の骨もあるが、圧倒的に人骨が多い。

 俺を運んだ男達は、穴の上に草等を置き穴を隠す。


 俺は穴に入り確認したが、明らかに小さな頭蓋骨がある。

 この村で亡くなった村人のものなのか、それとも親と一緒に殺害された子供なのかを一瞬考えるが、後者なのは明らかだった。

 生きて行く為には仕方が無い事なのかも知れないが……。

 俺の考えでは、このカンツオ村は許すことが出来なかった。


 村の中では、村人が集められて俺の事を話していた。

 都からの使者であったので、俺については知らなかった事とされた。


 このまま、村を去るのも癪だった。

 次に善良な者が、獲物にされる事が我慢出来なかったからだ。


(そういえば……)


 俺は第三柱魔王のロッソに、仮面の礼を言っていない事を思い出す。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「わざわざ、来なくても良かったのに、相変わらず律儀だな」

「他にも用事があったしな」


 俺はロッソと、デュラハンのエテルナが入れてくれた飲み物を飲む。

 勿論、毒物等は混入されていない。


「しかし、仮面等何に使う気だったのだ?」

「あぁ、実は……」


 俺はシャレーゼ国で活動する際に、正体がバレないように使う為だった事。

 そして、結局一度しか使わなかった事を話す。


「成程な。たしかにそういう理由であれば壊れにくく、出所が分らない仮面の方が良いな」

「まさか、シロがロッソを訪ねるとは思っていなかったがな」

「こちらも驚いたぞ。まさか、エターナルキャットがタクトに仕えているとはな」

「ん、言っていなかったか?」

「お主が私を訪ねてくる時は、いつも一人だっただろう」

「そういえば、そうだな。もう一人、クロと言う仲間が居る」

「エターナルキャットから聞いた。パーガトリークロウらしいな」

「そうだ」

「光の魔獣、闇の魔獣と言われる魔獣を従わせているとはな。正直、私も驚いた」

「まぁ、仲間になったのは成り行きだったがな。二人共、俺にはとても重要な存在だ。家族に近いな」

「二人の事を話すタクトは嬉しそうだな」

「そうか?」


 シロとクロの事を話す俺は、ロッソの目から見ると嬉しそうに映っているようだ。


「仮面は返そうか?」

「いや、私には不要な物だ。タクトが持っていてくれ」

「そうか。そういう事なら遠慮なく貰っておく。因みに、この仮面には魔法付与や、他の能力等は無いよな?」

「そうか。説明していなかったな。仮面には私のユニークスキルである【死霊魔法】系の一つ【死霊召喚】が施してある」


 ロッソの口からユニークスキルと言う言葉が出た瞬間、俺は自分のステータスを開く。

 【死霊魔法】はスキル値の消費が大きい。

 今迄、コツコツと貯めていたスキル値だったが、先にスキル値を振り分ける。

 ロッソは【死霊魔法】をユニークスキルだと言った。

 しかも、その一つである【死霊召喚】とも言ったので、【死霊魔法】というジャンルがあるのだと感じた。

 『水系魔法』や『風系魔法』と同じなのだろう。


 【死霊魔法】と聞けば、前世のゲームキャラクターである『ネクロマンサー』が頭に浮かんだ。

 ユニークスキルを習得したという事は、俺がスキルを理解した事を表していた。

 ジャンルごとユニークスキルとという事は、他にも幾つかの魔法が存在する筈だ。

 ロッソとの会話には気を付けないと、俺が会話の最中に死んでしまうかも知れない……。


「その仮面は『死者の仮面』と名付けていた。昔、アルに頼まれて作った品だ。どうしても、死んだ者と話をしたいと言ってたのでな」

「死者との会話は出来るのか?」

「結論から言えば、無理だった。骨等の記憶を話させる事は出来るが、会話は出来ん。話すと言っても、直接頭に語り掛けるので、話しているような錯覚をするだけだ。死んで間もない者であれば【魂寄せ】で数分だけ会話をする事も出来る」


 ロッソが【魂寄せ】を口にした瞬間に、焦ってステータスを確認する。

 イタコが使う【口寄せ】と同じだと思ったので、習得したようだが【死霊召喚】よりはスキル値の消費値が少ない。

 俺はホッとする。


 それよりも、アルが死んでしまった誰と、話をしたかったのかが気になった。

 しかし、これは俺がロッソに相談しようとしていた事だったので、素直に喜んだ。


「しかし、それだとアンデッドロードであるロッソの許可を得ずにアンデッドを召喚する事にならないのか?」


 俺は以前に、ロッソから聞いた昔の第四柱魔王が勝手に、アンデッドの大群を召喚してエルドラード王国の王都を襲撃して、ロッソが憤慨した事を思い出す。


「タクトであれば、死者を虐げる事はしないと分かっていたので、エターナルキャットに渡した」

「俺を信用してくれるのか?」

「そうだな。どちらかと言えば、死者の無念を知っている者だと私は思っている」


 表情は変わらないが、俺を信用して笑ってくれているように思えた。

 この死者の仮面を譲り受けたからには、その思いを考えなければいけないと思えた。

 死者の仮面と言うよりも、ユニークスキルの方が問題だが……。


 俺はロッソに対して、正直にスキルの事を話す。

 いずれ、アルとネロにも話すつもりだったので、順番が異なるが大きな問題では無いだろう。


「それは素晴らしいユニークスキルだが、その代償も大きいという訳か……」

「俺が、ロッソの意向に沿わない【死霊魔法】の使い方をした場合は、遠慮なく言ってくれ」

「承知した。それで、本題は何だ?」

「鋭いな……」


 俺はカンツオ村の事を話す。

 そして、復讐の為に何か知恵を貸して欲しかった事。

 しかし、この仮面で問題は解決した事を伝えた。


「そうか。しかし、人族は今も昔も変わらぬのだな」

「昔もあったのか?」

「そうだ。昔はもっと酷かった。村と言うよりも盗賊の集落があちこちにあった。安心して暮らせる場所は、領主の居るような大きな場所だけだった」

「それは、どの国でもか?」

「そうだ。国として成立するまでは、弱き者達は皆、虐げられていた時代だ。旅をするなど命がけだっただろう」

「それは魔人も含めてか?」

「昔は、人族や魔族という括りが無かった。食べられる獣と、食べられない獣のような分け方だ。魔人も獣人も同じだった」

「……それがなんで、人族と魔族と別れるようになったんだ?」

「それは簡単な事だ」


 当時、強き者と言われていたのは今、魔族と呼ばれている者たちが殆どだった。

 昔の人族のなかには魔族が居なくなれば、自分達が優位な立場になると考えている者も多かった。

 共通の敵としてまずは今、魔物と呼ばれている獣達を害獣として討伐をする。

 そして、魔物に指示を与えている者が魔人達という構図を描き、世に広める。

 他の権力を奪おうとしていた人族達も、その考えに便乗して魔族と言う存在を確立させた。

 魔族にはコアがある為、コアに商品価値を見出そうとする者も居たそうだ。

 ロッソの話を聞きながら、疑問に思う。


「ロッソが、このエクシズに来た時には人族と魔族は一緒だったのか?」

「いいや。既に人族と魔族は別れて存在していた」

「じゃあ、なんで知っているんだ?」

樹精霊ドライアドのオリヴィアや、昔の書物等を呼んで知っただけだ」


 つまり、かなり昔に決められた事になる。

 もしかしたら、ガルプがエクシズの神として就任する前から決められた事なのだろう。


「今度、詳しく聞いていいか?」

「別に良いが今夜、用事でもあるのか?」

「あぁ、ちょっとな」


 俺は夜の催し物の為に、カンツオ村へと戻る。

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