第661話 成りすまし!

 陽が昇ると、スケルトン達は行動を停止して、その場で崩れ落ちる。

 村の中には、多くの骨が散らばっていた。

 朝になったので、村の外に出られると思っていた村人も居たようだが、出られない事を知ると愕然としていた。

 呪いだという村人も居たが、村長のアキモは偶然だと根拠のない事を言って、村人達を落ち着かせていた。

 村人達も村に散らばった骨を拾い、穴へと捨てる。

 当然、アキモ達は部屋に俺が居なくなった事にも気が付いていた。


 そして、夜が来る。

 俺は村の入口に立つ。

 俺に気が付いた村人が悲鳴を上げると、前夜同様に村人達が集まってくる。

 何も喋らない俺だったが、静かに人差し指を村長であるアキモに向かって突き出す。

 暫くすると、昨夜に聞いた音や声が村人達の後ろから聞こえてくる。

 スケルトン軍団を見つけると、一斉に逃げ出す。

 家に鍵をかけて、スケルトン達を侵入させまいとする者。

 何人かで集まり、孤独を埋めようとする者等様々だった。

 俺はスケルトン達が、家に入れぬようにと施錠された家を全て開錠して、扉を開けたままにする。

 きちんと閉めた筈の扉が開いた事も、村人達の恐怖を一気に広げる。

 そして、二日目の夜が終わった。


 村人達の疲労は、目に見えて分かるくらい酷い状態だった。

 安心したのか、そのまま眠りにつく村人が大勢いた。

 昨日のように散らばった骨を片付ける者も居ない。

 陽が沈もうとすると、村人達は落ち着きがなかった。

 又、あの夜が来るかも知れない恐怖が押し寄せて来ているのだろう。

 村長であるアキモ達も対策を考えるが、これを打開出来る案等はない。


 そして、陽が沈むと俺は昨夜と同じように村の入口に姿を現した。 

 俺の姿に泣き叫ぶ者や、必死で許しを請おうとする者達がいた。


「俺達は村長の言うとおりにしただけだ。助けてくれ」

「そうだ、村長に従っただけだ」


 自分達は悪くない。

 悪いのは指示した村長のアキモだけだ。

 何人かの村人は、そう叫んでいた。

 俺に言わせれば、「何を言っているんだ」という感じだった。

 そんな村人達の戯言に耳を貸す事もなく、俺は昨夜同様に指を差してスケルトン軍団の催しを始めた。


 スケルトン軍団の催しは、その後も続いた。


 四日目になると、精神に異常をきたす村人も現れる。

 恐怖のあまり、自ら命を絶ったのだ。

 しかも、最後まで「こうなったのも、村長のせいだ!」と恨みを口にしていた。

 他にも現実逃避するかのように、呆けている村人も居る。

 謝る相手も分からずに、ひたすら見えない相手に対して謝り続ける村人等、色々だ。

 その夜は、自殺した村人もゾンビとして、催しに加わる。

 スケルトンよりもゾンビの方が、恐怖が増すようで初日の夜のような叫び声が響いた。

 顔見知りのゾンビだから余計に怖かったのかもしれない。


 五日目になると、死んだ方が楽だと思うものが多く現れる。

 前日のゾンビを見て恐怖より、楽になったと目に映った村人もいたようだ。

 その夜は、今迄で一番豪華だった。


 六日目の朝、俺は村を訪れる。

 虚ろな目の村人達も俺を見つけると、謝罪をしながら助けを求めてきた。

 俺が死者だろうが何だろうが、助けてくれるのであれば何者でも関係ないところまで、追い詰められていたようだ。


「自分達の罪を正直に話して、罪を償えば考えてやる」


 俺の言葉に、村人達は我先にと罪を暴露し始めた。

 暴露話を聞く限り、村人だと思っていた奴達は、元々が盗賊だった。

 この村を襲い、村人を全滅させて村を乗っ取る。

 村人を演じる事で、楽に獲物を得られていた。

 噂を聞きつけた盗賊仲間が集まり、現状に至ったそうだ。

 つまり、全員が犯罪者という事だ。

 この村人達が盗賊だという事は、初日の夜に気が付いていた。

 スケルトンの何体かが、「何故、村を襲った!」等と怨みを口にしていたからだ。

 だから、村人になりすました盗賊が自ら命を断とうが、心を痛める事も無かった。


「お前ら!」


 村長のアキモは、秘密を簡単に喋る仲間達を怒鳴る。

 しかしアキモへの恐怖と、夜な夜な襲われる恐怖と比べれば、考えるまでもないだろう。

 アキモ派と反対派とで、言い争いが続く。

 誰かが殴れば、殴り返す。

 苛立っていた事もあってか、隠していたであろう剣等の武器で攻撃し始める。

 攻撃を受けた側も負けじと武器を持ち出して応戦し始める。

 俺は黙って争いをみていた。


 四十分程で決着が着く。

 アキモ派の勝利だ。

 武器の性能が勝敗を分けたようだ。

 生き残りはアキモを含めて八人だけだった。

 自分達の罪を認めないアキモ達が勝った事で、俺も次の催しへと移行する事にした。

 アキモ達も俺が、いつ居なくなったかに気が付いていないだろう。


 その夜は、アキモ達以外はスケルトンとゾンビが参加者となる。

 違うのは参加者だけではない。

 アキモ達が盗賊で、村人を殺害した事を白状したので、スケルトンやゾンビ達には攻撃を許可した。

 終わりの無い戦いにアキモ達が勝てる筈も無く、全員死亡する。

 俺は、スケルトン達に元の穴へ戻るように指示を出す。

 そして、「ありがとう」とスケルトン達へ感謝を告げて、村の【結界】を解除する。

 すぐに血の匂いにつられた野獣が、集まってくるだろう。

 都からの使者が、この村を訪れた時にどう思うだろうか。

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