第657話 別行動ー4

 肝心の池の説明をしていなかったので、簡単に説明をする。

 川の水よりも綺麗なので、この水を煮沸して飲むように話す。

 【浄化石】の事は敢えて話さない。

 もしかしたら、【浄化石】が争いの火種になる可能性もある。

 誰も知らなければ、大きな問題にはならないだろう。


「タクト殿は、どちらに向かわれているのですか?」


 俺が冒険者で旅人だと答えたので、目的地があると思った村長が質問をする。


「目的地は無いが、噂で聞いた空にあるという大陸を探している」

「空にある大陸ですか……」


 俺は間接的に、世界樹の庭園の事を話した。

 村長は暫く考えて、何かを思い出すかのように答える。


「参考にならないかも知れませんが……」


 村長が小さい頃に、村を訪れた旅人から聞いた話を教えてくれた。

 ここからオーフェン帝国へと向かう途中に、頂上が雲に隠れている大きな山があるそうだ。

 旅人も山の麓にある村で聞いた話だと、子供の頃の村長に話をした。

 山の中腹までは、激しい突風等が吹きとても危険なのだが、雲は流れる事が無い。

 風の精霊が、山の頂上へと侵入を許さないそうで、昇れば命を落とす。

 何年かに数回、雲が無くなる日がありその時に、空に浮かぶ森のようなものを見たた事がある村人が何人か居たそうだ。

 幻影なのか何かは分からないが、その空に浮かぶ森を見ると幸運が訪れるという言い伝えも残っているらしい。


「その村が今も残っているかさえ……」


 遠い昔の記憶。

 自分の村でさえ、辛うじて生きていることが出来ている。

 交流も無いその村が、日々暮らす事さえ厳しいこの時代に、未だ残っているかも怪しいと村長は思ったのだろう。

 しかし、俺のとっては有益な情報だった。

 闇雲に探すよりは、効率がいい。

 違っていたら、それはそれだと割り切る。

 俺は村長に礼を言う。


「もう行かれるのですか?」

「あぁ、色々と邪魔したな」

「いいえ、私達こそ何もお返しをする事が出来ずに、申し訳ない気持ちです」


 村長の言葉で思い出す。

 【アイテムボックス】からエリーヌの木像を取り出す。


「それは?」

「これは慈愛の神エリーヌと言って、俺が信仰している神だ。無理強いはしないが、思い出した時で良いので、祈ってくれないか?」


 神と言う言葉を出すと、顔が引きつっていた。


「そうか……シャレーゼ国はガルプを崇めていたんだったな」

「いえ、そういう訳ではないのです」


 村長は村人達を見渡して、再び話し始めた。


「都からの使者が定期的にガルプ様に捧げる為の供物等と言っては、税とは別に村のにある物を強奪していたのです。私達は逆らう事も出来ず、黙って見届けるしか無かったのです」

「成程な。神に対して嫌悪感があるっていう事か。分かった、そういう事なら別にいい。強制的なものでも無いからな。無理なこと言って、すまなかったな」

「いいえ、そんな事ありません。村の者達も戸惑っているだけです。そのエリーヌ様の像は私が預からさせて頂きます」


 村長は両手を出して、エリーヌの木像を受け取ろうとする。


「……いいのか?」

「はい。タクト様が村にして下さった事を考えれば、村の者も次第に考えが変わる事でしょう」

「ありがとう」


 村長にエリーヌの木像を渡す。


 村から出るまで見送ってくれるのか、村長や村の者が後ろを着いて来る。

 俺は去る前にもう一度、シモンとドミニクに謝罪をする。

 この二人を連れて旅をする事や、エルドラード王国のゴンド村に移住させたらと考えるが、俺に一人よがりに過ぎない。


「これから、どうするんだ?」


 シモンに問い掛けてみる。


「はい。村にも迷惑を掛けられないので、もう少し力が着いたら都に行こうと思っています」

「……都は今、危険だぞ」

「そうなんですか……都に行き、騎士になろうと思っていたのですが……」

「騎士は報酬がいいからか?」

「はい。ドミニクにも良い生活をさせてあげたいですし、頑張ろうと思ってます」


 この村から出た事が無いシモンは、簡単に騎士になれると思っていた。

 村を襲う騎士達が贅沢をしていると勘違いをしているのかも知れない。

 そして、妹の為なら村を襲った騎士と、同じ事をしようと考えている気がした。


「本来、騎士とは弱き者を助け国の為に戦う者達の事だ」

「そうなんですか?」

「シモンが今迄、見てきた騎士は騎士ではない。その事だけは分かってくれ」

「はぁ」


 手っ取り早くて楽に稼げる。

 シモンのような子供が、犯罪組織の口車に乗って騙された挙句、最後は切り捨てられるのだろう。

 幼いドミニクも良い生活より、兄であるシモンとの暮らしを望んでいるに違いない。

 それは、常にシモンの服の裾を固く握っている手からも、よく分かった。

 村長もシモンが、そのような考えを持っていた事に驚き、騎士に関する誤解を話していた。

 シモンが思っている騎士は、盗賊と変わりない。


「タクト殿、ご安心ください。シモンや他の子供達には、私達大人が誤解を解くように話を致します」


 村長が真剣な目をしながら、俺に話す。

 俺は村長に、シモン達の事を頼む。

 都からの使者が来たら、俺が渡した手紙と俺が世話になった事を伝えるように頼む。

 俺の名を出したとして、何があるかは分からないが、不利益を被る事にはならない筈だ。

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