第656話 別行動-3
「冒険者という方は、このような事を普通に出来るのですか?」
「いや、俺が特別なだけだ」
村長や村人達は、冒険者というものを知らない。
俺は冒険者のランクを説明して、俺が最高ランクSSSだという事を教える。
それと、まだ名乗っていなかった事に気付き、簡単な自己紹介をする。
「冒険者のお兄ちゃんは、何でも出来るの?」
男の子が声を掛けてきた。
失礼だと思ったのか、村長が男の子を叱る。
「気にしなくていい。シャレーゼ国の国民ではないが、俺も立場は同じだ。畏まられるような奴でもないしな」
「しかし……」
大人は体裁を気にするが、子供は素直に自分の思った事を口にする。
「何をしてみたいんだ?」
「ん~……」
男の子が考えていると、他の子供も集まってきた。
俺が危害を加える危険人物ではないと、分かってくれたようだ。
この場にシロとクロが居れば、状況も変わっていただろう。
「鳥さんのように、空を飛べるの?」
考えている男の子より、別の女の子が俺への要望を口にする。
「何を無茶な事を言っている」
村長は無理難題を口にした子供に対して、きつい口調で叱ろうとしていた。
女の子は委縮してしまい、下を向いてしまった。
「まぁまぁ、俺は気にしていないから、あまり叱るな」
「は、はい」
村長は失礼のないようにと、子供達を叱ったことも理解している。
村の長として、一人の大人としての意見だろう。
俺は女の子を抱きかかえる。
「ちゃんと腕にしがみ付いていろよ」
女の子は何のことか分らない様子だったが、抱いている俺の腕をしっかりと握っていた。
俺は【飛行】を使い、少しずつ上昇する。
高さにして、五メートルほど上がると、子供に感想を聞く。
「どうだ。鳥になった気分か?」
「うん。お兄ちゃん凄い! もっと高く飛べるの?」
「あぁ、雲の上まで飛べるぞ」
「凄い! 飛んで見せて」
「飛ぶ事は出来るが、下で親が心配してるぞ」
この女の子の両親だろう。
村人の中でも、物凄く心配そうな表情で俺達を見ていた。
下降して女の子を開放すると、嬉しそうに両親の所へ走って行った。
他の子供達も、飛びたいと言う。
先程の女の子の両親の心配そうな顔が頭を過ったので、親が許可を出せば飛ぶ事を伝える。
子供達は一斉に親の所へと、許可を取りに行った。
「お前達はいいのか?」
残った十歳くらいの男の子と、妹らしき女の子に声を掛ける。
「僕達には居ないので……」
悲しそうな小さな声で答える。
「この子達の父親は人食い熊に殺されたのです。母親も、後を追うように病気を患ってしまい、この子達だけを残して……」
俺は村長の言葉を聞き、衝撃と同時に後悔する。
何故、子供達全員に親が居るという前提で、話をしてしまったのか。
自分の固定概念の為、傷付いた子供に対して、更に非道い仕打ちをしてしまった事。
配慮が足りないとか、常識が無いという話ではない。
俺自身も、両親を亡くしている。
その時の気持ちを思い出して、いかに自分の言葉が二人を傷つけてしまったかを感じた。
「すまなかった。本当にすまない」
俺は二人に向かい、頭を下げて謝罪する。
どれだけ丁寧に話そうとしても、【呪詛】がそれを妨げる。
俺は何度も何度も違う言葉で謝罪をしたが、口から出る言葉は全て同じような言葉だった。
心の底から【呪詛】が、いかに厄介かを痛感する。
子供相手に、何度も頭を下げて謝罪を繰り返す俺に、周囲の村人は驚いていた。
なにより、謝罪されている二人が一番驚き、どうしていいのか分からないでいた。
「タクト殿。頭を上げてください」
見かねた村長が俺に声を掛けた。
「タクト殿が悪気があって言ったのではない事くらい、私もこの子達も分かっております。そうだな、シモン」
「はい」
兄の名は『シモン』というようだ。
その後、話を聞くと十一歳だと教えてくれた。
妹の名は『ドミニク』で九歳。
身寄りが無い為、村で面倒を見ているがどうしても、自分の家庭が優先になる為、村でも、一番ひもじい思いをしているのだと感じた。
シモンとドミニクに許して貰ったが、俺自身が納得出来ていなかった。
言葉の暴力。
前世で周りから何年も、何人にも心無い言葉を言われた。
そう、両親が居ないと言うだけでだ。
何故、その俺が同じ立場の子供達の事を、気に掛けてやれなかったのかと後悔する。
エリーヌは既に俺が世に披露した発明品等は、俺の判断で使用して良いと、先程聞いた時も言っていた。
俺は【アイテムボックス】から、敷物を出す。
随分と前に、柄が気に入って購入した物だ。
地面に広げると、敷物に【飛行】のスキルを【魔法付与】する。
村の子供達全員を一度に乗せられる大きさでは無い。
二回か、三回に分けて乗せて飛ぶ事にする。
子供だけでは不安だと思うので、大人も一人乗せて飛ぶ事にした。
子供達は喜んでくれた。
落下しないように【結界】も施したので、なにもない所に壁がある感触が子供達を、より一層楽しませる事となった。
その反面、村長をはじめ大人達は青ざめた顔をして、楽しむ余裕がなかったようだ。
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