第658話 歓迎してくれる村!

 シロとクロには、もう少しだけ休暇を与える事に連絡する。

 二人共、何かあればすぐに駆け付けると言ってくれる。

 嬉しい限りだ。


 俺はロップス村の村長が教えてくれたオーフェン帝国との国境付近にある村へと向かっている。

 ロップス村を出てから、街道らしい道を進むが誰とも会わないし、村も見当たらない。

 村らしきものを見つけて寄ってみたが、既に廃村になっていたようで人の気配は無かった。

 魔物の気配も無く、獣の気配があるだけだった。

 進めば進むほど、シャレーゼ国に魔物が少ないという事が、よく分かった。


 日も暮れようとした時に、人が居る村を発見する。

 土壁に囲われているので、外敵に怯える必要もないようだ。

 村を訪れると、俺を歓迎してくれる。


「ようこそ、カンツオ村へ」


 最初の村人が、村の名前を教えてくれた。

 歓迎されているように思われているようだが、俺を見ると村人達はそそくさと皆、家の中へと戻って行った。

 最初に話し掛けた村人は、会話が途切れないように気遣ってくれているのか、色々と話をしてくる。

 暫くすると、老人がゆっくりと歩いて来た。


「私が村長のアキモと申します」


 村長がわざわざ挨拶に来る。

 そういえば、ロップスの村長の名を聞いていなかった事を、カンツオ村の村長に名乗られて気が付いた。


「特に大きな荷物も御座いませんが、旅の御方ですか?」

「あぁ、そうだ」


 今の質問は、商人では無いのかを確認したかのようだった。


「そうですか。娯楽も無いこの村です。夜も更けて来る事ですし、宜しければ旅の御話等でも御聞かせ願えませんでしょうか?」

「面白い話は無いぞ」

「えぇ、構いません」


 嬉しそうに笑う村長であるアキモの家へと招かれる。

 アキモの家まで案内される間、家の中に入って行った村人が出て来て歓迎してくれる。

 家に入る前に何人かと目が合ったので、覚えている村人もいたが、衣装が変わっていたり、化粧をしていたりと俺を迎え入れる為に、そこまでする必要があるのだろうかと思えた。



 アキモの家は大きく、アキモ以外にも男性が数人居た。


「こんな所ですので、大した御持て成しも出来ませんが」

「いや、そんな気は無い。すぐに帰るから気を使う必要が無い」

「まぁまぁ、そう言わずに旅の話をお聞かせ下さい」


 アキモは男達に合図を送ると、女性が飲み物を持って来てくれた。


「御疲れでしょう。これでも飲んで、喉を潤して下さい」


 断ろうとしたが、折角出してくれたので一気に飲み干す。

 その後、アキモにこの辺りの事を聞いたりしていたが、なにやら様子がおかしい。

 俺は少し残った飲み物を【神眼】で鑑定する。

 飲み物には即死する程の毒物が入れられていた。

 俺は理解する。

 この村自体、訪れた者を殺害して金品等を奪っているのだろう。

 通常であれば、俺が死んでいる筈なのに、のうのうと話しているので焦っていたのだろう。


「話してばかりなので、喉が渇いたな。村長も喉が渇かないか?」

「はい、私も喉が渇いていたところです。すぐにお持ち致します」


 嬉しそうにアキモは答える。

 多分、先程の飲み物以上に毒物が混入しているだろう。

 当然、アキモの飲み物には毒物は混入されていない筈だ。


 一杯目の飲み物を運んできてくれた女性が、飲み物を運んできてくれた。

 よく見ると腕は細く肌も荒れている。

 化粧は血色を良く見せる為なのだろうか?


「さぁ、どうぞ」


 アキモは俺に飲み物を勧める。


「ん? 村長の方が少ないな。それは悪いから俺がそっちを飲もう」


 アキモが答える前に、俺はアキモの前にあった飲み物を飲み干す。


「村長はこれを飲んでくれ」


 俺は自分の前にあった飲み物を、アキモの前に置く。

 アキモの顔は真っ青だった。


「俺に気にせず、飲んでくれ。喉が渇いているんだろう」

「あっ、いえ……」


 アキモの顔からは、完全に血の気が無くなっていた。


「毒が入っているから、飲めないのか?」

「なっ、なにを!」


 俺の言葉に、その場に居た者達が過剰な程に反応する。


「じゃあ、飲んで証明してみてくれ」


 アキモは飲み物を運んできてくれた女性を横目で見ると、小さく顔を左右に振っていた。


「毎回、この方法で殺して来たのか?」

「なっ、何を言っているのですか?」

「そうか、俺の勘違いだったか」


 俺はアキモの前にある毒物入りの飲み物を手に取り、一気に飲み干す。

 アキモは勿論だが、他の者達も唖然としていた。


「うっ!」


 俺は苦しむ演技をして、【分身】を一体出して俺は【隠密】で姿を隠す。

 分身の俺は心臓は勿論だが、脈等の生命維持する機能が無いので、見た目的には死んでいるのと同じだ。


「ふぅ~、やっと死んだか。毒の量は間違えていなかったんだろうな」

「そんな筈はありません。きちんと、いつもの量を混ぜました」


 アキモの言葉に、飲み物を運んで来た女性は焦りながら答える。

 俺は村人同士が言い争っている間に、分身の体の下にネイラートの手紙を置く。


「しかし、この男は何者だったんだ」


 アキモは自分が死ぬかも知れなかった恐怖からか、俺の分身を足で蹴る。


「ん? これは」


 ネイラートの手紙に気が付いたアキモは、読み始めて俺が都からの使者だと気が付く。

 しかし、死人に口なし。

 俺がこの村に来たという痕跡を無くせば、問題は無い。


「おい、この男は都からの使者だ。痕跡を残すと後々、面倒だからこのまま処理するぞ」

「くそっ! ただ働きかよ」

「折角、二ヶ月ぶりの獲物だったのによ」


 苛立ちを隠せない村人達は、俺の分身に暴行を働く。

 見ていて気持ちの良い光景では無かった。


「いつもの所に持って行くぞ」


 男達は部屋から、俺の分身を運びだした。

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