第653話 新たな時代!

 ネイラート達は帆が無い馬車に、目隠しと猿轡さるぐつわをされた国王と王妃を乗せて、城壁まで移動していた。

 その光景でネイラートの反乱が成功したのだと、国民は理解する。

 しかし、国王を恐れているのか、罵声を浴びせたり、石を投げたりする者は居なかった。

 静かに宣戦布告を行った城壁まで進んで行く。

 俺は遠くからその光景を見ている。



「国民達よ! 暴君であるウーンダイ国王とメルダ王妃は捕らえた。これより二人の処刑を行う」


 ネイラートは国民達の聞こえるように大きな声で叫ぶ。

 しかし、国民達の反応は薄かった。

 国王が死に、ネイラートが新たな国王になった所で、自分達の生活が変わるとは思っていないのだろう。

 それだけ、国民達はネイラートに期待していない事になる。

 逆らわずに現実を受け入れる事しか出来なくなっているのだろう。


 最後に一言だけ喋らせてやろうと、ネイラートの指示で騎士達がウーンダイとメルダの猿轡さるぐつわを外す。

 外すと同時に国王は叫ぶ。


「よく聞け! この反逆者達を殺した者には、褒美を与える」


 しかし、国王であるウーンダイの声は、国民の心に響くことは無かった。

 何度も約束を反故され続けた国民達にとって、国王の言葉は信用出来るものでは無かった。


「この国を頼みますね」

 

 メルダはネイラートの声がしていた方向を向いて喋った。

 ネイラートは涙を堪えていた。


「死刑を執行する」


 ネイラートの言葉で、ウーンダイとメルダの首が斬られる。

 シャレーゼ国の時代が一つ終えた瞬間だった。


 その後、ネイラートは今後の事を国民に伝えた。

 国民の信用を得るのは、これからだろう。

 資源も無く、人材も不足している。

 それに、国王が変わった事を国中に通達しなくてはならない。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「色々と有難う御座いました」


 城に戻ると、ネイラートから今回の事で礼を言われた。


「これからが大変だな」

「はい。エルドラード王国のような豊かな国に出来る様、頑張るつもりです」


 ネイラートは覚悟を決めた顔つきになっていた。


「エルドラード王国に戻られるのですか?」

「そのつもりだ。暫くはシャレーゼ国を見て回るつもりだ」

「無理だと分かった上でお聞きします。この国に残って貰えませんか?」

「悪いな」

「そうですよね。無理を言って申し訳ありませんでした」

「気にするな」


 ネイラートは無理に笑っていた。

 不安だからこそ、信用出来る者等を出来るだけ確保しておきたいのだろう。

 ウォンナイムが居なくなったからと言って、魔族の脅威が無くなったわけでは無い。

 むしろ、ウォンナイムが居なくなったからこそ魔族が増える事も考えられる。


「いずれ、正式にエルドラード国王には報告させて頂くつもりではいます」

「そうだな。エルドラード王国やオーフェン帝国とも仲良くやってくれ」

「はい」

「あっ、俺が魔王だと言うのは内緒だぞ。知っていると争いに巻き込まれて、間違いなく死ぬからな」

「はい。絶対に口外致しません」


 イエスタや騎士達も見るが、頷いていた。


「少しだけ、待ってもらってもいいですか?」

「あぁ」


 ネイラートは何枚かの紙に、文字を書き始めた。

 そして、封筒に仕舞うとイエスタが、配下の者が手慣れた感じで刻印をする。


「これを」


 ネイラートは封筒を俺に差し出す。


「これは?」

「もしかしたら、タクト殿の方が近隣の村を訪れる方が早いかも知れません。その時にお出しいただければと」

「伝令のようなものだな」

「最後まで使うような形で申し訳御座いませんが、一刻を争うと思い御了承願います」

「分かった。必ず、渡すから安心しろ」


 封筒を懐に仕舞う。


「じゃあ、行くな」

「お気を付けて」


 笑顔で見送ってくれる。

 俺が帰ろうとすると、イエスタが街の外まで送ってくれると言うので、好意に甘える事にする。

 イエスタも俺に何か言いたい事でもあるのだろう。



「本当にタクト殿には感謝致します」


 歩きながらイエスタからも礼を言われた。

 家族を殺されたイエスタに対して、気の利いた世間話が出来ない俺は言葉が出てこなかった。


「魔族を全て滅ぼしたいと思っているか?」


 魔族全てが、敵だと思っているに違いないと思い、質問をしてみる。


「……はい」

「そうか。しかし、魔族の中にも人族と友好的な奴も居る事は覚えておいてくれ」


 イエスタから返事は無かった。

 気持ちの整理が出来ていないからだろう。


「俺も人族だが、称号から言えば魔族の王だからな」

「そんな事は!」

「人族でも魔族以上に酷い事をする奴だっている。前国王もその類だろう」

「それは……」


 イエスタは言葉に詰まる。

 かって従えていた国王が、人族に対して酷い所業をしていた事実を知っているからこそ、否定する事が出来ない。


「私からも質問をしても良いですか?」

「あぁ、いいぞ」

「どうすれば、タクト殿のような強さを身に付けられますか」

「それは俺の称号の事も加味しての事か?」

「はい」


 俺は、人族の記憶から消される前に、人族の脅威となる魔族を何回も討伐した事を話す。

 ウォンナイムと同等か、それ以上に強い魔族達を倒す事で、魔族内に俺への敵対心や恐怖心が生まれた。

 その結果、魔王になったと端的に話しをした。


「俺の強さは【呪詛】だと思ってくれていい。この強さのせいで、本当に守りたかった人を守る事が出来なかった。強さに比例して敵も増えるのも事実だ」


 俺の言葉に思う所があるのか、イエスタは黙っていた。


「確かに私も騎士団団長になった事で、なれなかった者達から妬まれた事はあります。しかし……」

「答えは一つじゃない。それに、焦って答えが出せる訳でも無い。誰もが葛藤しながら生きているんだ」


 イエスタに言いながら、自分の本心からそう言っているのか、自分自身でも分からなかった。


「そうですね。妻や娘の為にも生きなければなりませんし……」

「そうだな」


 目の前に門が見える。


「今度、来る時は屈強な門番が居て、怪しい俺は入れて貰えないかもな」

「御期待に沿えるような人材を育てます」


 俺が怪しい事は否定しなかった。

 とにかく、イエスタが笑ってくれた。

 別れの時とは言え、いつでも笑顔で去りたいと感じていた。

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